籠城と光線銃
三人は闘犬亭の一階中央に集まると、お互いに背中合わせの三角形となった。
宿の主人は、台所の下にある収蔵庫に身を隠している。
「あの虚ろな目、何なのかしら」
コーエンが疑問を発すると、
「
「ゾンビ?」
これには三人ともが反応した。
「さよう。ゾンビとは生きた人間に呪術を施し、術者の思うがままに操る暗黒の術。魔道だけでなく薬も使用するというのじゃが、サンジョウ殿はほとんど自我を失っておったようじゃなあ」
「サンジョウ様・・」
話が騎士団長に及び、コーエンは声を落としたが、後ろの窓が破られる音で顔を上げた。
建物内に閉じこもった際、机や椅子、床板も剥がして窓に打ち付けていたが、そのガラスを割り、木の板を引き裂いて、ゾンビとなった人間が入り込んできた。
年の頃としては四十代くらいだろうか。やや禿げ上がった頭を揺らしながら、男が歩いてくる。足取りは遅く、目の焦点も合っていない。
素手で窓を壊したため、腕からはかなり出血しているが、それを意に介している様子もない。
ヤマシロは即座に肉薄すると、刀の峰で胴を薙ぎ払った。アバラの折れる音が鈍く響く。
男は
そこへコーエンが弓を引いた。
二本の矢が同時に放たれ、それぞれが左右の膝に突き刺さった。
ゾンビは大きく体を反らすと、後続を巻き込んで仰向けに倒れた。
束の間、ゾンビの出現が止まったかに見えたが、倒れたゾンビを踏みつけて、すぐに次のゾンビが進入してきた。
「こりゃ、長い戦いになるのう」
カモイが呟いた。
本来、籠城とは外部からの助けが期待できる時に行うものである。一時的な逃避として行う意味はほとんど無い。
それでも、わざわざ扉と窓を塞いだのは、侵入路を少しでも減らし、時間をかけて入ってくるゾンビを各個撃破するためであった。
「三対百ではすぐに負けるが、三対一が百回ならそれなりにやれる」
とはヤマシロの言であるが、三人はその基本原則を忠実に履行していた。
敵を打ち倒しては少しずつ後退し、一階の窓が複数箇所破られる頃には、二階へと上がる階段を登り始めていた。
窓からの侵入者に対しては、まずビョウブが弾幕を張った。
そうして、撃ち漏れたものをコーエンが狙い、それでも肉薄してくるものをヤマシロが仕留めた。
「急所を狙えれば早いんじゃがのう」
カモイが言ったが、ビョウブは
「・・でも、元はきっとこの街の人に違いありません。なんとか怪我だけで済ますことができるなら、正気に戻ることだってあるかもしれません」
と、あくまで急所を外すことを主張した。
その考えはコーエンやヤマシロも同じだったようで、やむなく致命傷となるような攻撃を加えてしまった時、二人は悔しそうに顔をしかめていた。
三人は持てる力を振り絞って、各個撃破を続けていたが、
まともな軍隊ならば、これだけの損害を受けた時点で撤退を考慮する。
しかし、いかなる損害を受けようとも、たとえ自分の手足がもげようとも進むことをやめない
その意思が介在していない時点で兵器と言っても過言ではなかった。
三人は二階まで押し込まれると、二階の窓を割って、屋根の上まで出ることにした。
屋根伝いに他の建物へと移り、新たに籠城戦を展開しようと考えたのだ。
しかし、その考えは辛くも破れた。
屋根の上には先客がいたのである。
王国兵団騎士団長サンジョウ、その人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます