爆発と光線銃(前編)

「コーエンさん、邪魔をしないでいただきたい」

 ネヒコが眉間に皺を寄せている。

 どうやら二人は知り合いのようだ。


「あんたの汚い犬なんかに興味はないの。すぐに下げて」


「これはこれは異な物言いをしなさる。私は王の命を受けてここにいるのです。この罰当たりな召喚術師を始末するためにねぇ」

 ネヒコがビョウブを睨み付ける。


「なんじゃい。自分も化物を召喚しとるじゃないか」

 カモイがぼそっと言った。ネヒコには聞こえなかっただろうが、ビョウブは少し笑ってしまった。


「化物を召喚するような汚れた術。我が軍には不要です」

 コーエンが毅然とした態度で言い放った。


「むひゃっひゃひゃひゃひゃ」

 ネヒコは裂けんばかりに口角を開いて笑っている。真っ赤な口腔が見える。


「私とて軍の人間。それを否定するとは、軍を否定することではありませんか」


 急に笑うのをやめると

「全く無駄な議論でした。もはや問答無用のようですね」


 と言って、ボソボソと何事か呟いた。

 途端に二頭のケルベロスが唸り声を上げ始めた。


 内一頭は姿勢を低くしたかと思うと、体をしならせて大きく跳躍した。

 そして、その体躯からは考えられないほど跳び上がると、コーエンのいる民家の屋根に降り立った。


 残る一頭はヤマシロに牙を向き、今にも飛びかかろうとしている。


 ビョウブはどちらかの支援にまわろうかと思ったが

「犬呼びは少し飽きました。直接アソびましょう」


 ネヒコが君の悪い笑みを浮かべながら呟いた。


「わしらは、こいつの相手じゃな。あまり気が進まんが」

 カモイのトーンからすると、本当にうんざりしているようだ。


 ネヒコは左手の書物を開くと、またなにやら呟いている。


 ビョウブは今が好機と見て、光線銃をネヒコの眉間めがけてぶっ放した。

 赤い光線が、額を貫いた。


 ・・かのように見えた。

 光線が額を貫いた瞬間、そこにいたはずのネヒコの姿は消え。五メートルほど右手の路上に姿が現れた。


「あらあら、行儀の悪い人ですねえ。ルール違反ですよ。詠唱はちゃんと待ってくれないと。学校で習いませんでしたかぁ?」

 そういうと、目線を正面に戻し、右手を開いてビョウブに向けた。

 指先から伸びる白い糸の束。


 それらは一直線にビョウブへ向かっていく。


 ビョウブは横っ飛びに跳んで、その束をかわしたつもりだった。


 しかし、束は方向を変えて、執拗にビョウブを追いかけてくる。


「そんなことで、私の糸からは逃げられませんよぉ」

 ネヒコは人形使いのように右手から出た糸を自在に動かしている。


 ビョウブは走りながらネヒコを狙おうとするが、その度に糸が射線に入ってきて上手く狙うことができない。

 どこまでも伸びてきてビョウブを追跡する糸の束。


 そしてついに、その先端がビョウブの左足を捕らえた。

 糸に足をすくわれてバランスを崩すビョウブ。


 糸はその隙を逃さず左足に巻きつくと、その触手のような先端を体全体に巻きつけていった。

 ものの数秒もしないうちに、ビョウブは糸で全身を簀巻すまきにされてしまった。

 光線銃も手に持ってはいるが、糸の締め付けが強く、腕を動かすどころか身をよじることもできない。

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