#08 屍と光線銃

散弾と光線銃

 グールの退治方法は二つ。

 一つ、頭部の破壊

 二つ、首の切断

 つまり、グールは頭部と胴体を離さないと退治することはできない。


 そういった意味では、ビョウブには苦手な相手かもしれなかった。

 光線銃はその性質上、「切断」はできない。

 また、「光線」であるため、穴を空けたり、貫通する攻撃は得意であるが、「壊す」という行為には向いていない。光線でできた穴は、綺麗に空きすぎるのだ。


 二人の周囲に群がったグールは、ざっとみて三十程度。

 すでにヤマシロは、一番近いものから順に切って捨てている。全て、頚部を一刀のもとに断ち切っていた。


 かたやビョウブは、まず目の前にいるグールの頭部に向けて一発放った。

 グールの眉間に風穴があき、一瞬のけぞったように見えたが、構わず前進を続けてきた。

 奴らに致命傷となるような決定的部位は無いのかもしれない。

 ビョウブはさらに二発を頭部にぶち込み、やっと敵をただの死体に戻すことができた。


「これは骨が折れるのう。頭を撃ちまくれっちゅうことか」

 カモイがぼやいている。


 そこでビョウブは、以前から考えていたことを実行に移してみた。

 まず、引き金に指をかけて、ひききらずに溜めた。

 これは明かりを灯したり、火をおこしたりする際に使った溜めの動作で、銃口に赤い火溜まりを作るのと同じ動作だ。

 そして、じわじわと引き金をひいていき、溜まりが一気にぜないように加減しながら、引き金をひききるところまで指を動かした。


 すると、溜まりは小さな光の粒の塊、ちょうど、ビョウブの拳くらいの大きさになって前方へと飛び出していき、そして、グールの頭部に直撃した。


 その塊は頭をぶち壊しはしなかったが、無数の小さな穴を空けて、突き抜けていった。

「ほほう、弾が散って飛んでいったのう。行つの間にこんな技を思いついておったんじゃ」

「溜まりを作ったときから、なんとなくはイメージしてたんですが、案外うまくいきました」

「ほっほー。さすがわしの孫じゃ」

 カモイは鼻高々のようだ。というか、表紙の中で、カモイの鼻はピノキオのように伸びている。ほんと、どういう仕組みなんだろうか。

「これを散弾撃ショットガンと名付けようぞ」

 カモイは上機嫌で、技名まで付けてしまった。


 ショットガンを着想したビョウブは二体、三体と次々にグールを仕留めていった。

 撃つ度に、火溜まりを作るのがうまくなり、一射撃あたりにかかる時間が減っていった。


 ヤマシロとビョウブは、自然と背中合わせになり、それぞれが眼前の敵を打ち倒していく。

 要領さえつかめば、動きの鈍いグールを相手にするのは容易いことのようだった。


 ビョウブが最後の一体の頭部を撃ち抜いたとき、頭上から声がした。


「あらあら。もうやられてしまいましたか。結局、人間の死体では人間を越えられませんかねえ、しかし・・」

 後半はよく聞き取れなかった。


 ビョウブとヤマシロが見上げると、二階建ての民家の屋根に誰か座り込んでいる。

 街灯に照らされ、ぼうっと浮かびあがったのは、濃い色のローブに、身を包み、左手には分厚い書物を持っている。そして顔には仮面。頭部はフードにすっぽり覆われていた。


 その人物は、ビョウブらの視線に気がつくと、

「失敬失敬。一旦、思索に入るとなかなか抜け出せない性質タチでして」


 人物はその場で立ち上がると、突然時間の流れがスローになったのかのように、ゆっくりと飛び上がって、地面に着地した。


「あなたがビョウブですね。私、ネヒコと言います。王の使いで参りましたが、その光線銃とやら、本当にすばらしい。是非私にください」

 単刀直入な物言いに一瞬たじろぐビョウブ。


「そうそう、断っても無駄です。殺して奪います」

 ここまで気持ちのいい強盗殺人宣告も無いだろうな、とビョウブは思った。

 ヤマシロとビョウブが、太刀と光線銃を構える。


「ああ、私は戦いませんよ、それは誤解です。戦うのはこの子です」

 ネヒコは手に持っていた書物を開くと、なにごとか詠唱した。


「召喚術式・・!?」

 カモイが詠唱に反応し、内容を聞き取ろうとしていたが、その頃にはもう唱え終わっていた。


 ネヒコの右隣に魔法陣が出現し、怪しく光を放ってすぐに消えた。


 その後に現れたのは、三つ首を備えた闘犬だった。


「・・ケルベロスか」

 ヤマシロは呟くと、太刀の柄を握りなおして、腹から息を吐き出した。

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