音楽好きと光線銃
コマイの街での興行は大成功だった。
本来、用心棒の仕事は、この街の到着までだったが、ビョウブは興行が終わるまで見守ることにした。
ヤマシロはというと、街に着くなり、雇い主のところへ向かい、仕事の結果を報告したようだった。
それでヤマシロとはお別れかと思ったが、報告を終えた彼は、まっすぐに興行をしている劇場に現れ、連日公演を楽しんでいるようだった。
二日続けて公演を聴きに来ていたのを見つけてカモイが
「意外な一面を見た気がするぞい」
と言ったが、ヤマシロは
「・・音楽は、いい」
と端的に答えていた。
最終日を終え、タマテ達は次の街に旅立つこととなった。
今度は別の大きな楽団とともに行動することになり、ビョウブとはしては、ここで「お役御免」ということになった。
カモイは特にタマテとの別れを寂しがった。
「なんじゃい、わしらを雇うて次の街へ行ってくれるんじゃないのかい」
「大きな楽団に合流するの、ごめんねおじいちゃん」
「ちぇー、なんじゃいなんじゃい」
召喚書の中でカモイが駄々をこねている。
死してなお、人間は我儘になれるのだと、ビョウブは感心してしまった。
「でも、じいちゃん。僕たちは都へ行くんでしょ。方向がちがいますよ」
「ちょっとの寄り道は、人生経験じゃ」
「そ、そうかなあ」
死んだ人間に経験論で詰められると弱ってしまう。
結局、カモイは存分に一座(主にタマテ)との別れを惜しみに惜しんでから、別れを告げた。
カモイほどではないが、ビョウブも旅の道連れがいなくなってしまったことには寂しさを覚えていた。
一人はどこまで行っても一人なのである。
無論、ビョウブにはカモイがいたが、二人というよりは、一人と一冊という感じであった。
ビョウブの寂しげな様子を察してかどうか、カモイが
「ヤマシロを誘う」
と言い出した。
この発想自体はビョウブも考えていたことだったが、
第一に、ヤマシロには都へ向かう理由がない
第二に、ヤマシロを雇うには大変お金がかかりそう
という二つの理由から、ほぼ不可能ではないかと思っていた。
しかし、カモイがどうしても誘うというので、ビョウブはヤマシロの逗留している宿屋を訪ねることとした。
コマイの街は、山の麓を切り開いて作られた街である。
元々は、山の中腹に開かれた寺院の門前町として生まれたが、山越えをするもしくはしてきた商人や旅人の宿場としての機能も果たすようになった。
寺院の商業主義もあって、町は観光面でも大きく栄えている。タマテ達一座がここで興行をうったのも、それらをふまえてのことだったのだろう。
ヤマシロの宿泊していたのは「真白亭」なる宿屋だった。名前とは裏腹に、建物はレンガ作りになっており、赤い。
宿の主人に声をかけ、ヤマシロが滞在している二階の部屋を訪ねた。
ビョウブが扉の前に立ち、ノックしようとすると
「入れ」
というヤマシロの声がした。どうも気配で分かったらしい。
ビョウブは
「こんにちは。今日はお話があって・・」
と至極真っ当でかつ、やや他人行儀な話の切り出しをしたが、
「わしらに雇われてくれんか。都へ一緒に来て欲しいんじゃ」
とカモイが単刀直入に意を伝えた。
ビョウブはカモイの独断専行にやや肝を抜かれたが
「ヤマシロさんが一緒だと心強いなと思って。その、盗賊と戦った時も、後ろに頼れる人がいるとすごく安心できたなと・・」
と、たどたどしくお願いした。
そして、すぐにギャラの話をすべきだったのではないか、話の順序が逆だったかと、若干後悔した。
しかし、
「わかった。いこう」
とヤマシロは端的に了承してくれた。
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