太刀と光線銃

 ビョウブは光線銃を消してみせると、太刀男のいる場所へと歩いていった。

 太刀男はその場に悠然と立ち、遠くを見ているようだった。


 ビョウブが太刀男のすぐ後ろまで来ると、

「ヤマシロだ」

 と言った。

 ビョウブは一瞬何のことかわからなかったが、それが男の名前であると気付き、

「ビョウブと言います」

と名乗り返した。

 が、それ以上の会話が続かなかった。


 二人の間に落ちる沈黙。


 それを破ったのはカモイだった。


「今回も見事な太刀筋じゃった」

 カモイが表紙に出てきて喋った。さすがにこの緊張感を察したのか、正装してステッキを持っている。


 ヤマシロは召喚書を見やると一瞬目を細めたが、すぐにやめて

「いまだ修行中の身だ」

とだけ言った。

「いやいや、おぬしのような強者を持つことができて、王国兵団は幸せじゃのう」

 お世辞ではなく心底そう思っているようだ。カモイはまじまじとヤマシロを見ている。


「俺は兵籍を置いていない。雇われていただけだ」


「なんと。おぬしほどの者が正式兵でないとな。これは驚きじゃ」


 王国兵団は大きく分けて三種類の者で編成されている。

 すなわち、王国正式兵である常備軍、戦時などに臨時徴発される徴兵軍。そして、金銭で雇われる傭兵軍だ。

 戦争のことだけを考えるのであれば、常備軍だけを増強するのが最も良い。しかし、常備軍はその維持に大金を要する。

 その点、徴兵軍は農民を徴発して訓練・編成するものであることから、金銭負担は低く抑えることができる。しかし、当然国の生産力は低下し、戦争継続能力は下がる。

 最後に傭兵軍であるが、これも金がかかることに常備兵との違いはない。しかし、戦時以外は「雇わない」でいれば、維持としての出費は抑えられる。

 よって、最近では常備兵と傭兵とを組み合わせて使うのが主流となっている。農民の徴発は最終手段だ。


 ヤマシロも、ビョウブを倒すためだけに雇われたのかもしれなかった。

 だが、現在の状況は、少なくともその命令は撤回されているか、ヤマシロの契約自体が切れていることを示唆している。


「ヤマシロさんは、ここでなにを?」

「仕事だ」

 ビョウブはその雇い主に思いを巡らせたが、

「安心しろ、お前が狙いではない」

と言うと、

「助力感謝する」

と言って頭を下げてきた。


「いえ、そんな。危ないなと思ったから撃っただけです」

「その判断が、通常人にはあまりできない」

「そうでしょうか」

「そうだ」


 ビョウブは首をかしげた。

 たしかについ先日、命を狙ってきた者を助けるのはおかしいのかもしれない。だが、最初の戦いから感じていたことだが、ビョウブにはヤマシロが悪には見えなかった。

 少なくとも、カモイの命を奪った兵士どもとは一線を画しているように思えた。

 理由といえば、それだけだったが、そもそも危険な目に遭っている人を助けるのに大した理由はいらないのかもしれない。

 ビョウブはそこまで考えると、それ以上の思考を止めてしまった。


 もうこれ以上の良い答えは浮かばないだろうということ、そして周囲に敵意を感じたことがその理由だ。

 盗賊の仲間たちだろうか。ビョウブは目だけ動かして周りを確認したが、10人以上がこちらを窺っている。


「仕事を再開する」

 ヤマシロが腰にさげた太刀に手をかけた。

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