潜入と光線銃

 村は南及び西方向が街道に面している。北は山肌に接し、東側は森だ。


 ビョウブは一旦、街道から外れると東側から森の様子を窺うことにした。

 一応、小鬼コボルドの気配も探ってみたが、その心配はなさそうだった。カモイも何の気配も感じていない。


 東側の森に入ると、ビョウブは枝付きのしっかりした幹の太い木を選んで、その上に登った。

 樹上から村の中心部までは100メートル足らず。日暮れは近づいていたが、ビョウブの位置から、村の中を十分に視認することができた。


 村には十数軒の建物が見えた。いずれも、人の住んでいる様子は見受けられない。屋根が落ち、壁は剥がれ、雑草が茂っていた。

(これなら、一座の通過に支障はないか)

とビョウブは思ったが、ふと目の端に人影が映った。


 男が廃屋の一つから出てきた。

 すらりとした長身。黒色の短い髪。黒いコート。手には太刀を握っていた。それはまだ鞘に収まっている。


「あれは、太刀男ではないか」

 カモイが言った。

 カモイの仇である兵士が連れてきた太刀の男。名は聞いてなかったが、ビョウブの光線銃を太刀で受け止めた凄腕である。


 太刀男は村の広場らしき場所に立ち尽くすと、何事か言葉を発した。

 ここからでは遠くで聞き取れないが、それと同時に、他の家々から男たちがゾロゾロと出てきた。

 皆、手にはナイフや片手剣、マチェットといった得物を握っている。

 色白の太刀男とは対照的に日に焼けた肌。獣の皮をなめした腰巻きをしている。

 こいつらが噂の盗賊だろうか。

(盗賊の村で太刀男は一体何をしているのだろうか、軍の任務がここで?)

 とビョウブが太刀男の行動に思いを巡らそうとしたとき、広場では状況が動き出した。


 太刀男の周りを囲んだ盗賊たちが、喚声を上げて、一挙に襲いかかったのだ。


 盗賊の輪が急激に収束して、中央の一点、すなわち太刀男を目指した。

 かたや太刀男は微動だにせず、前傾姿勢になると、太刀を左腰に構え、右手をその柄に当てた。


 そして、盗賊どもの輪が中央に集中したその時、太刀男を中心に小さな白い円が描かれた。


 その円は一瞬しか描かれなかったが、刹那の後、太刀男を囲んでいた盗賊どもから鮮血の飛沫しぶきが上がり、太刀男を中心に円を描いて倒れて伏した。


「・・・なんという・・」

 さしものカモイも言葉を失っているようだ。


 一瞬で5人以上の命が奪われた現場を目にしたはずだが、ビョウブにはその行為が美しく映った。


 太刀男はすでに刀を鞘に収めている。

 そして、北方向へ歩き出した。

 その時、倒れていた盗賊の一人が上半身を起こした。

 手には小型のクロスボウが握られており、その矢先は太刀男に向けられいてる。


 ビョウブは、それを見るや光線銃を召喚。

 クロスボウの男を狙撃した。


 赤い光線は樹上から真っ直ぐに伸び、盗賊の頭部に吸い込まれるように命中した。

 男の頭を穿つ黒い穴。しかし同時に小柄こづかが男の額に突き刺さっていた。

 太刀男の方を見ると、盗賊の方を振り返り、投擲動作の残身を保っていた。


 そして、ビョウブのいるあたりへ視線を向ける太刀男。

 光線の入射角度から逆算したのだろうか。


 ビョウブは木の葉に身を隠そうとしたが間に合わなかった。


 太刀男と目が合ってしまった。

 

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