旅と馬車と光線銃
音楽旅一座の出発はそれから三日後だった。
三日の間、ビョウブは山猫亭でじっくり体を休めるつもりでいたが、一日経ったところで休息に飽きてしまい、一座の旅支度を手伝ったりした。
カモイはカモイで、なにやら召喚書内で書物を読みあさっているようだった。
書物内で書物を読むなどというのは奇妙以外の何者でもないのだが、カモイ曰く、生きていたころには見たこともないような量の書物が収蔵されている場所があるらしい。
ビョウブは、一度でいいからそんなところへ行ってみたいと思った。無論、死者になる以外の方法で、であるが。
一座の手伝いをしていてわかったことであるが、このキャラバンの構成は、二台の馬車を中心に十人ほどのメンバーが参加していることがわかった。
十人ほどと言ったのは、行く先々で新メンバーの追加や、離脱などがしょっちゅうあるからとのことで、基本的にこの一座にいるかどうかは自由意思に任されているらしい。
そうした中、前の街でメンバーの一人が怪我で離脱したのだが、旅の途中におけるトラブル事、荒事はそのメンバーが担当していたため、ビョウブのように戦い慣れている者をメンバーに加えようということになったようだ。
ビョウブとしては「戦い慣れている」という評価はむしろ不当だと感じたが、世間一般の評価がそうなっているのであれば、自分の認識を改める必要があると反省して、抗議はしなかった。
出発の日、ビョウブは馬車に乗らず、騎馬で随行することとなった。
次の街までであれば、関所もなく、王国兵に誰何されることも、ほぼないだろう。
もし仮にそういうことになっても、馬車の中に隠れてやり過ごすか、一時的にキャラバンから離れるということで取り決めておいた。
キャラバン随行の旅は、ゆるやかで穏やかに始まった。
馬車の歩みは何かを急ぐわけでもなく、あくまでマイペースに進む。
相当に旅慣れている一座だけあって、夜のキャンプ設営もお手の物であった。
ビョウブはあくまで客人待遇だったので、自らテントを立てる必要もなく、食事の準備も一座任せだった。
「王侯貴族のような扱いじゃのう」
カモイは大変満足そうだ。
実際、王侯貴族がどんな旅をしているのかは知らなかったが、およそ旅の苦しみとはかけ離れたものであるにちがいないだろう
。
ジョウゴを出て三日目の晩、ビョウブは用心棒らしく、たき火のそばで火の番をしていた。
実際、ずっと不寝番をしていたわけではなく、それは交替でやっていた。そうしないと体が保たないということを皆よく知っていたからだ。
ビョウブは、手に持った小枝を折って、たき火に投げ入れた。
少し湿っていたのか、火の中心に置いてもなかなか火がつかない。
近くにあった小枝をまた折って投げ入れる。
白っぽい煙が夜空にあがり、夜の闇に吸い込まれていく。
白い煙はすぐに闇の黒に溶けていった。
本当は目に見えないだけで、白い煙はずっと残っていて、空の高いところまで上っていっているのかもしれなかったが、ビョウブには見えなかった。
「ひまそうねぇ」
気がつくとタマテが向かいに座っている。
ビョウブが目線を上げると
「明日の行程なんだけど、少し心配なところがあるのよ」
と、タマテが年季の入った地図を開いて、現在地より、やや北に入った森の近くを指さした。
「このあたり、元々村があったんだけど、2、3年前に廃村になっちゃったんだって。それ以来、よく盗賊が出るらしいのよ」
その話はビョウブも聞いたことがあった。盗賊が廃村を根城にしているのか、盗賊が根城にしたから廃村になったのか。
そんなニワトリと卵のような話だ。
ビョウブはうなづくと、
「では、この村の付近では、私が先行しましょうか。昼時にできるだけ素早く通るようにしましょ・・」
「ビョウブ!」
ビョウブが言い終わる前にカモイが声を上げた。
ビョウブは召喚書を掴むと光線銃を召喚。腰をかがめて周囲を窺う姿勢をとった。
「じいちゃん?」
カモイに尋ねる。
「みんなを起こしと方がよいの。何か近づいてくる」
ビョウブとタマテは黙ってうなづき合うと、ビョウブはたき火から離れ、タマテはテントは走って行った。
ビョウブは光線銃の引き金を極弱い力でひき、銃口にほのかな明かりを灯した。
火を付けた時の応用だ。
腰を落として、ゆっくりと歩く。
風に吹かれて、森の木々が揺れる。
一瞬、生臭い匂いを感じたと思ったら、突然何かが飛びかかってきた。
召喚書を持った左手に噛みつこうとしてくる。
ビョウブが左腕を振りながら、見やると、灰色の毛に黄色い眼、鋭い牙を剥き出しにしている獣がいた。
オオカミだ。
しかも、その背中には
ビョウブは左腕を大きく振って、オオカミを弾き飛ばすと、その眉間に光線銃を放った。
悲鳴をあげて、地面に伏すオオカミ。
その背中から
オオカミを従えた
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