#04 王国兵団と光線銃
路地裏と光線銃
それから2日ほど歩いて、ジョウゴの街についた。
ジョウゴの街は山あいに開かれた宿場町だ。
西から延びてきた交易路がここで南北の国道と交わる。
次の町へは歩いて4〜5日かかるため、山あいの小さな集落だったこの町が栄えることとなった。
町には一応門番が控えてはいたが、とくに詮索されることもなく、中に入ることができた。
人の出入りを制限するよりも、町の繁栄を優先するのがこの町の方針らしい。
ビョウブはこれまでにも何度かこの町に来たことがあったが、旅人を快く受け入れてくれる雰囲気が非常に好ましかった。
ビョウブは以前も泊まったことのある宿を選んだ。「山猫亭」という名前だ。
山猫亭の女主人は、ビョウブのことを覚えていたようで、宿代を少し負けてくれた
部屋は二階で、窓からは町の大通りを見下ろす事ができた。
通りはにぎやかで、ところどころに人だかりができていた。屋台が出ているようだ。
ビョウブは散策がてら、買い物に出ることにした。
ジョウゴの町の道は、町の発展に伴って、野放図に広がったらしく、曲がりくねったあげく行き止まりになっている箇所がいくつもあった。
町の屋台は、青果や肉、穀物を売っているもの。麺類や飯類を出すところもあった。新鮮な魚を扱っているところがほとんど無いのは、いかにも山あいの町であった。
唯一見られたのは、酢漬けにした魚を竹の葉で包んだ保存食だ。ビョウブは次の町までの弁当代わりにこの竹の葉包みをいくつか買った。
「こりゃうまそうだのう」
「じいちゃんは、ジョウゴに来たことがなかったの?」
「わしは従軍したとき以外ほとんど町を出なかったからの。孫のお前が大学に行くために町へ出ると聞いたときは誇らしかったわい」
ビョウブは時折出てくる、カモイの孫びいき話がむずがゆかった。
「本の中でも食べられるといいね、これ」
「いや、食べれるぞい」
「え、そうなの」
「そうじゃ。召喚書の中では望んだものがたいていなんでも手に入る。食べたいものが食べられるし、読みたい本が読める。まさしく極楽じゃ、わはは」
死人が言うだけに、文字通り極楽なのだろうか。そんなところなら、自分も入ってみたいと思ったビョウブであったが、死なないと入れないとなるとハードルが高すぎる。
ビョウブは包みを鞄にしまい込むと、次にどこの屋台へ行こうかと通りへ目をやった。
しかし、その目に映ったものは、どちらかというと見たくないものだった。
フルメイルを着込んだ大柄の男が通りの真ん中に立ってこちらを見ている。
男のすぐ隣には、赤毛の女性が立っていた。皮の胸当てをしており、装備は身軽そうだ。背中に弓を背負っているのが見える。右手首あたりに包帯をしている。
また、ビョウブにとってはさらに悪いことであるが、男の周りには、王国正式装備に身を包んだ兵士が、10人以上いる。
王国軍制でいうところの一個小隊(一個分隊が5人、三個分隊で一個小隊となる)であろう。
ビョウブと大柄の男の目が合う。
「いよう」
男はビョウブに声を掛けた。左頬に稲妻型の傷があるのが見える。
ビョウブが黙っていると、
「なんだい、いい大人は挨拶ぐらいするもんだぜ」
男は至って軽い調子だ。
「な、なんでしょう」
「おまえさんだろ、光線使いってのは?」
「自分で名乗った覚えはありませんよ」
「ハハッ、そりゃ認めたも同じだな」
ビョウブは苦笑いした。
「特段な、俺はお前さんに恨みはない。しかし、これも仕事だ。王国兵を手にかけたということがどういうことかは知っておいてもらわにゃいかん」
「あんまり知りたくないですね」
「そうだろうな。だが、町の人間への示しってのもある。恨むなら俺を恨んでくれていいぜ」
これから戦闘になるというのに、この大柄な男は倒す相手に説明責任を果たしたい、ということなのだろうか。
「わかりました。あなたのことを恨みます」
ビョウブは術式を唱えて光線銃を召喚した。
「ワッハッハ。物わかりがいい奴は好きだぜ」
男はそこまで言うと居住まいを正して
「俺はサンジョウ。この国の騎士団長をやっている」
そういうと男は背中から両手剣を鮮やかに抜き去ると、地面に突き刺した。
それを合図に、周囲にいた兵士たちが一斉に抜刀した。
サンジョウは、再度両手剣を地面に突き刺した。ドンという鈍い音が響く。
周囲の兵士が半円状に広がり、一斉にビョウブへ迫ってきた。
ビョウブは右方向に向きを変えると、早足で駆けた。
半円状になっていた兵士達は円錐状になって、その先端をビョウブへと向けてくる。
ビョウブは大通りを離れて、路地に入ると、
先頭の兵士が無言で前のめりに倒れるが、後続の兵士はそれを無視して突き進んでくる。
戦場において、仲間の兵士の死に心を乱されることがない。十分に訓練された兵士だ。
ビョウブはさらに路地を進む。
ジョウゴは、街の発展とともに野放図に道を伸ばしてきた経緯があり、通りと路地が縦横無尽に走っている。
道路整備に統一性はなく、同じところを周回する道や、曲がりくねった挙句に行き止まりになる路地など、初めて街に入った者は市中遭難の危機を肌で感じることになる。
ビョウブが入った路地もその一つだった。
周囲の家の形状に合わせて微妙に蛇行しつつも、延々と続く路地。
家と家とに挟まれて、道は前と後ろにしか無い。
ビョウブは敵を引き込んで、直線状に並んだ敵を各個撃破するつもりでいたが、自分の正面にも兵士が現れたことで、その目論見はあっけなく崩れた。
王国兵士の中にこの街出身の者がいたのだろうか。それかあの騎士団長の采配だろうか。
ビョウブは行き場の無い路地の真ん中で挟撃される立場となった。
兵士たちはビョウブから2メートル離れた位置で立ち止まり、一方は剣を上段に構え、もう一人は正面に構えている。
ビョウブが上段の兵士に目を見遣ると、後方の兵士がにじり寄ってくる。
命をかけた「だるまさんが転んだ」がスタートしている。
ビョウブは体を路地を挟んでいる家の壁に向けると、両手を真っ直ぐに伸ばした
右手には光線銃、左手には召喚書が握られていたが、ビョウブは召喚書を取り落とした。
いや、正確には手放した。
そうして大きく息を吐き出すと、右手で引き金を2度ひいた。
右手の兵士が倒れたが、左手の兵士が飛びかかってくる。
ビョウブは右手から光線銃を消すと、左手に召喚し直して連射。
そしてまた右手。左手、右手、左手、右手、左手、右手、左手・・・。
無心で連続召喚を繰り返す。
照星で狙いをつける余裕は無いので、ただただ引き金をひき続けた。
ビョウブの指の動きと兵士のうめく声、倒れる音、それを乗り越える足音、兵士のあげる気声。
十数秒の間にそれらの音が路地に入り混じってこだまし、そして、消えた。
「ビョウブ、もうよいぞ」
召喚書からカモイの声が聞こえる。
気がつくとビョウブは目を閉じていた。戦闘中だというのになんと迂闊なことだろう。
瞼を開けて、左右を確認すると、路地は鉄と血と肉で溢れていた。
そこに生命の痕跡はない。
夢中でやった思いつきの動作であったが、その結果は体験したことのない恐ろしいものだった。
カモイが「おそろしいから使わなかった」と言っていた意味が、少しわかった気がした。
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