焚き火と鍋と光線銃

 結局、ビョウブは夕方まで目がさめなかった。


 夕方にもそもそ起き出してきたビョウブは

「おなかすいた」

と言うと、森に入って食料を集め始めた。


 ビョウブのいた魔道大学では教養科目として薬草に関する授業が開かれている。

 魔道薬師まどうくすしの道を歩みたいものは、専攻課程へと進んでいくのであるが、無論、ビョウブは違う。

 一般教養程度の知識ではあったが、森での採集には十分だった。

 食べられるもの、食べられないもの、この区別ができるだけで今のビョウブの要求を十分に満たすことができた。


 ビョウブは両手にいっぱいの山菜とキノコを持ち帰ってくると、さっきまで寝ていた場所をキャンプにしてしまった。

 薪になりそうな小枝を集めると、そのうち何本かをナイフで削ってささくれを作った。

 ささくれの枝の周囲に杉の葉を配し、その上に小さめの枝、大きめの枝の順で置く。

 そうすると、ビョウブは光線銃を召喚した。


 光線銃は馬鹿正直に引き金をひくと、赤い光線が撃ち出されるが、柔らかくじんわりと引き金をひくと、高温の球体が銃口に溜まる。

 ビョウブはこれを利用して、銃口をささくれの枝に近づけて火を付けた。


「そういう使い方もあるんじゃのう」

「火起こしにも使えそうだなとは思ってたんです」

「火打ち石いらずじゃのう。ほっほ」

 カモイは器用な孫が誇らしいようだ。

「しかし、ただの武器にあらず。光線銃もなかなか使いようじゃな」

「そうですね。使いようによってはもっと色々なことができるのかもしれません」


 そう言いながらも、ビョウブの手は料理の準備を続けていた。

 街を出るときに持って出ていたパンがすでに固くなってしまっていたので、これをすりつぶしてパン粉にした。

 そして、山菜と一緒に森で見つけた鳥の卵を割って、パン粉と混ぜ、よく洗った山菜にしっかりとまぶす。

 そして旅行鞄からオリーブオイルを取り出すと、鍋に数センチほど注いで、火にかけた。

 鍋の温度が上がるのをじっと待ち、頃合いを見計らって、パン粉をまぶした山菜を投入した。

 オリーブオイルの中で山菜が踊り、衣の揚がる優しい音がする。


 名付けて「山の幸のオリーブオイルフライ」

 ビョウブはむしゃぶりつくように食べ始めた。

 衣のサクサクとした音がさらに食欲を誘う。

 寝起き直後に、この油っぽさはやや暴力的でもあったが、一晩中召喚を続けていたビョウブにとっては必要なカロリーであった。

 どういう仕組みなのか、召喚書の中ではカモイも同じようなものを食べている。


「うん、こりゃうまい」

 ビョウブは、それはオレが作ったやつではありませんよ、と心の中で思ったが、それは心の中に置いたままにしておいた。


 二人の腹が膨れたころ、森はすっかりと日が暮れていた。

 いまさら歩き出すわけにもいかないので、今日はこのまま休むことにした。


 ついさっきまで眠っていたはずなのに、もう眠い。

 ビョウブは人間の身体の不思議を感じながらも、自身の体力が相当削られていたこと、そしてまだまだ鍛える余地のあることを自覚した。

「じいちゃん、オレもうちょっと戦えるようになるのかな」

「なにを言うとるんじゃ。お前はもう十分に戦えとる。王国の兵士相手に負けなしではないか。しかも、ただの兵士ではない。あの太刀使いにしろ、昨晩の弓使いにしろ、一流の使い手にもひけをとっておらん」

「あの二人にはたまたま奇策がはまっただけだよ」

「奇策を閃くのも強さのうち。自信を持つことじゃ」

 ビョウブはカモイの言葉に答えないまま、瞼を閉じた。


 激闘の疲れは、心地よい疲労に変わっていた。

 ビョウブが寝ているそばでは、たき火がパチパチと音を立て、暗闇の中にほのかな明かりと暖かみをもたらしている。


 もし次に戦いがあったとき、勝てるかどうかはわからない。命の保証はない。


 そう考えると不安の尽きない旅であったが、今は腹が満ち、四肢を伸ばして寝袋に入ることができている。


 ビョウブはなぜか、それだけで満ち足りた気持ちになれた。


 森の中で、地べたに寝袋ではあったが、今はそれで、満ち足りた気持ちになれた。

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