旅立ちの光線銃

 太刀男たちを倒した翌日。


「ビョウブよ、都へのぼるぞい」

 カモイが言い出した。


 ビョウブは、旅の予感を抱えていたものの、まさか都へ向かうとは思っていなかったので、これには面食らった。


「でもじいちゃん、王国軍に狙われているんだよ?」

「そうじゃな」

「都に行ったら、もっと兵士に会うんじゃない?」

「そうじゃな」


「・・・え、えっと、うん、そうだね」

 ビョウブは根負けした。

「つまりな、可愛い孫よ」

「はい」

「仇討ちという名分があったにもかかわらず、わしらを襲ってくる。これがいかんのじゃ」

 カモイは腕組みをして首を縦に振っている。

「こんなことではこの国は立ちゆかん。わしが若い頃はな・・・」

 ビョウブは雲行きが怪しくなってきたのを感じた。ビョウブの耳を昔話が通り過ぎてゆく。


「とにかく!わしは国王陛下にモノ申すことに決めた」

「え」

「だから、都へ行くのじゃ」

 カモイは思い切り胸を反って立っている。鼻息が荒い。いや実際には空気は出ていないのだが。


 カモイの話はともかくとして、ビョウブは都を目指すことの是非を考えた。

 兵士に狙われるという意味では、全くの悪手だ。しかし、この街にいられない以上、余所へ行く必要はある。

 とりあえずは、カモイの提案に乗っておき、街から離れるのが先決なのかもしれない。


 ビョウブはそこで考えるのをやめ、

「わかった、準備するよ。じいちゃん」

 カモイはうんうんうなずいて、書物の中で荷物をつめ始めた。いったいどんな必要性があるのだろうか。

 

 ここ、ナントの街からラナの都までは、徒歩でおおよそ20日の行程だ。

 これはあくまで街道沿いを進むことができ、宿場町で休むことができた場合の日程である。


 王国軍に狙われながら都へ進む道を行くには、街道から離れる必要があるかもしれない。

 そうなると、山道、獣道の類を行くこととなり、それはそれでリスクが上がる。

 どちらを取るか、道中カモイとよく話し合う必要がありそうだった。


 ビョウブはひとまず、大学から持って出ていた荷物をまとめて鞄に詰め、その他ステッキ、替えの靴、それに数日分の食料を用意することにした。

 馬を使うことができれば、この旅行はもっと楽になりそうだったし、実際、大学から戻ってくる際にはそうした。

 しかし、山道を抜けるとなれば、馬を使えない状況にも遭うだろう。

 これも事情に応じて方法を使い分けることとし、ひとまずは徒歩で出発することにした。

 

 翌日、まだ夜も明け切らぬ内にビョウブ達はナントの街を出た。

 太刀男たちとの一件以来、街の人たちがビョウブを見る目は明らかに変わっている。

 自宅周辺への自警団の巡視も増えているような気がしていた。

 別段、悪いことはしていないのだが、波風を起こさないため、未明の出発となった。


「さむいっ」

 五月とはいえ、早朝の気温は低い。

 街の門を出ると一段と寒さを感じる気がした。人気ひとけが無いからだろうか。


 ビョウブは、鞄から茶色いポンチョを取り出すと、それを羽織った。

 左手には召喚書を持っている。

 護身のため、ということもあるが、なにより、カモイと会話するためであった。

「旅なんぞ何年ぶりかのう」

 カモイは表紙で口笛を吹いている。


 上機嫌な祖父を見て、ビョウブは自然と笑みがこぼれた。

 いくら楽しげに振る舞っているとはいえ、カモイは一度殺されたのだ。

 死んで召喚されるのがどういう気持ちであるのか、未だに怖くて聞くことができていない。

 そんな祖父が書物の中とはいえ、楽しげにしていることが、ビョウブにはうれしかった。


 そんなことを考えながら歩いていたら、あっと言う間に日暮れとなった。

 街道脇にキャンプ跡を見つけたので、そこを利用させてもらうことにした。

 焚き火をつけ、家から持って出てい

たパンと干し肉をかじる。

 塩味が疲れた体に染みる。


 幸いにしてカモイは睡眠の必要がないらしく、ビョウブは祖父に不寝番を任せることとして、寝袋にもぐり込んだ。

 荷物の邪魔になるのをいとわず持ってきた自分に感謝した。

 焚き火の暖かさを右半身に感じながら、ビョウブは眠りに落ちた。

 

 しかし、カモイの不寝番が早速役に立つこととなってしまった。

 第二の刺客の登場であった。

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