刺客と光線銃(後編)
小楯と片手剣を持った兵士三人が、ビョウブへ向かって駆けてくる。
対するビョウブは、しゃがみこみ、引き金を素早く三回ひいた。
同時に男達のうめき声が聞こえ、三人の兵士は、それぞれ武器を取り落とした。
男達は右肘を押さえながらうずくまっている。その場には血がしたたっている。
ビョウブは次に、左前方に全速力で駆け始めた。
まだ、太刀の男と弓を持った兵士、槍を持った兵士が残っている。
ビョウブが駆け出したのを見るや、槍兵士も同じ方向へ走ってくる。
さらにビョウブの進行方向に向けて矢が放たれた。
ビョウブは全速力で駆けながら、矢を避けた。
光線銃を水平に寝かし、照星に弓兵士を捉えると、躊躇無く引き金をひいた。
一瞬の後、弓兵士の左手が吹き飛ぶのが見えた。
(出力が高すぎた!?)
光線銃にはまだわからないことが多い。いくら使用方法について記載があると言っても所詮は異界の道具だ。
(じいちゃんは書物の中で、それを探っているのかもしれない)
などと、一瞬考えを巡らせていたが、すぐに打ち破られた。
槍兵士が、こちらへ真っ直ぐに突き進んでくる。もちろん、槍の刃先はこちらへ向けられている。
ビョウブは、男の足下を狙って二発撃ったが、その結果を確認する前に、太刀男の肉薄を許してしまった。
「仕事だ。許せ」
男は目にも止まらぬ速さで抜刀すると、ビョウブへ向けて振り抜いてきた。
咄嗟に光線銃で受けるビョウブ。
金属と金属とがぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
太刀男は一太刀目で決まらなかったのをみるや、口角をやや上げ
「いい反応だ」
とだけ言い、右へ左へと刀を振り抜いてくる。
光線銃でただただ受け続けるビョウブ。
一撃一撃が重い。
ビョウブは後ずさりながら、攻勢に転じる隙を窺っていたが、それが訪れる気配がない。
さらに太刀男は上段に太刀を振り上げると、重力に任せて一気に振り下ろしてきた。
もう一度、光線銃で受けるビョウブ。
刀と銃、異なる武器でのつばぜり合いが始まった。
徐々に押し込まれるビョウブ。
左手は召喚書を持っているだけに力が入れにくい。
ビョウブは召喚書の処遇に思いを巡らせ、次の瞬間には召喚書を、太刀男の後方へ放っていた。
さらに、右手の光線銃を消した。
突飛な行動に太刀男の注意が一瞬逸れた。
ビョウブはその隙を逃さず、左前方に体を躱した。
支えるものが急になくなって、つんのめる太刀男。
ビョウブは消した光線銃を詠唱のみで再召喚すると、太刀男めがけて撃った。
ビョウブは射撃の瞬間、背中から撃ってしまったことに少し罪悪感を覚えた。
光線が太刀男の背中に吸い込まれようとしたとき、男は驚くべき速さで身を翻すと、刀身で光線を受け止めた。
「と、止めた!?」
「なんと」
ビョウブとカモイは驚きを隠せない。
太刀男は、さらに跳躍して、上段から太刀を振り下ろそうとしたが、寸でのところで止めた。
刀身が、光線を受けたところで折れている。
太刀男は、珍しそうに自分の太刀を眺めると、腰の鞘に収めた。
「見事だ」
太刀男は踵を返すと、広場から離れる素振りを見せた。
「おいおいおい。先生どういうことだよ。おれっちの剣やるから、これでやっちゃってくれよ」
兵士の言葉に耳を貸す様子もなく、歩く太刀男。
兵士はさらに説得の言葉を重ねていたが、
しばらくすると
「お、覚えてやがれっ」
という定型文句とともに走り去って行った。そのあとを太刀男が飄々と歩いて行く。
「あれぞ、王国兵士よ。わしが従軍しとったころは、ああいう気骨のあるもんが、ぎょうさんおったんじゃがのう」
召喚書の表紙で、上半身だけのカモイが髭を撫でている。
「なんにせよ、無事でなによりじゃわい。しかしもう、この街にはおれんかのう」
ビョウブは旅の予感を胸に空を仰いだ。
初夏の空はどこまでも青く、爽やかに街を包み込んでいた。
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