#02 剣士と光線銃

刺客と光線銃(前編)


 兵士崩れをぶちのめして三日は静かだった。


 ビョウブは祖父の家で体を休めていた。

 カモイは召喚書の中でなにやら書き物をしているようだった。

 書物の中で書き物をして、どんな生産性があるのかは疑問だったが、ビョウブはそこにはツッこまないことにした。


 今のところ、ビョウブが光線銃を召喚していられるのは、半日が限界だ。

 それ以上は魔力が続かない。

 もとより、召喚書を手に持っていなければ、数分ともたない。


 魔力+召喚書の補助=半日の異世界物質召喚


 というのが、今のビョウブの限界だった。


 祖父の家にこもって三日が過ぎ、そろそろ街の様子をうかがおうかと思っていたところ

に事は起きた。

 逃げた兵士崩れが家に訪ねてきたのだ。


「おい、出てこい、光線使い」


(光線使い?妙な名前がついてるな・・)


「いるのはわかってんだ、さっさと出てきやがれ」


(ここは居留守で・・)


「・・ちっ、しゃあねえか」


(お、いいぞいいぞ。帰ってくれ)


「先生、お願いします」


(え、なんて古典的な・・・)


 ビョウブは、玄関が叩き壊される暴力的な音の波を覚悟していたが、予想に反してほとんど音はしなかった。


 代わりに、兵士崩れのダミ声が鮮明に聞こえてきた。


「出てこいよぉ。じゃないと、先生にここらのもん全部ぶった斬ってもらっちゃうぜえ」


(斬った?音も無しに?)


 ビョウブが驚いているの知ってか知らずか召喚書からカモイが話しかけてきた。


「こりゃ、出ていった方がええかのう」


 たしかに祖父の家をこれ以上斬られるのは不本意だ。

 ビョウブは、召喚書を片手に玄関へと赴いた。


「お、出てきやがったか」


 兵士崩れが玄関の豚の置物をいじっている。

 後ろには太刀を携えた男が立っていた。すらりとした長身の男で、髪は黒色短髪。切れ長の目に、色白の肌。筋肉質ではないが、無駄のない体つきをしているのが、コート越しにもわかる。


 さらにその後ろには、王国軍の兵士と思われる男が五人、それぞれ鉄の胸当て、鉄兜姿で立っていた。手には剣や槍、弓とそれぞれが得物を持っている。


「外で話しましょう。これ以上壊されたらかなわない」


「そーだろそーだろ。そうこなくっちゃあなあ」


 ビョウブが声を掛けると、兵士崩れはヘラヘラ笑いながら、家の外へ出ていってくれた。


 祖父の家は、街の噴水広場に面しており、玄関から外にでると、ちょうど天使の噴水像が目に入る。


 正午前の空に太陽がまぶしい。雲は少なく、厄介ごとさえなければ、外で昼寝するにはもってこいだったかもしれない。


 ビョウブは、快晴の日に厄介事が持ち込まれたことを少し恨んだ。


「なんの用です?」


「なんの用です、だあ?そりゃもちろん、この前のリベンジさ」


「あれは仇討ちです。法に定められ、許容される決闘です」


「はあああ?なに言ってるかわかんねえ」


 ビョウブは、はあはあ兵士のことを思い出して陰鬱な気持ちになった。

 本当の意味で彼らに言葉は通じないのかもしれない。


「おまえは、王国兵士にたてついた。よって死刑!」


 死刑という言葉よりも、兵士崩れだと思っていた者達が、まだ兵籍を持っていたことにビョウブは驚いた。


「驚いた顔、いいねえ。やりがいがあるねええ」


 ビョウブは否定するのも馬鹿らしくなり、術式を唱え始めた。


「やる気満々じゃねえか、じゃこっちもな」


 男が他の面々に目配せすると、王国装備の兵士五人が前面に出てきた。

 太刀の男は後ろに控えている。


 召喚を終えたビョウブは、右手に光線銃、左手に召喚書を持って、やや腰を落とした。


 兵士らは楯を持って、じりじりと間合いを詰めてくる。


 噴水広場に居合わせた人たちは、この異様な状況に凍り付いている。


 噴水の縁に座って、棒つき飴をなめていた坊やが、あまりの静けさにおののき、手に持っていた飴を落としてしまった。


 飴が広場の石床に落ちて砕ける。


 その音が合図になって状況は動き出した。

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