紅茶派と光線銃
兵士たちは、ビョウブの構えるそれがなにかわからないようだ。
狐につままれたような顔をしている。
「・・はあ?なにそれ」
はあはあ星人なのだろうか。兵士の語彙力の乏しさにビョウブは頭を抱えたかったが、敵を目の前にしているのでとりあえずやめておいた。
「もう一度言います。祖父を殺した仇を討ちます」
「はあ?なに言ってんのか、わかんねーし」
先頭の男はニヤニヤ笑っている。後ろの男たちにいたっては
「ひょろいボーズが何言ってんだ」
「ひょろひょろー」
「ぼくちゃん、もう持っていられないでちゅ。腕おれちゃいまちゅ」
とビョウブを冷やかしている始末だ。
ビョウブはなるだけ冷静でいるつもりだったが、この程度の者達によって祖父の命が奪われたのかと思うと、無性に腹が立った。
「撃つぞ」
「はぁああ?」
先頭の男が何度目かの「はあ」を繰り返したその時、ビョウブは静かに引き金をひいた。
光線銃から発射される光線は赤く、発射音はほとんどない。
引き金をひいた際に、銃内で起きる物理的作業に伴って
プシュッ
というごく小さな音がするだけだ。
この時も、その小さな音が二度した。
先頭の男は、一瞬赤い線が走ったのを確認したが、それか一つだったのか二つだったのかわからなかった。
わかったのは、両足に力が入らなくなったことだけだった。
男は思わず膝立ちになると、目線を下ろして自分の脚を見てみた。
両太股にぽっかりと穴が開いている。自分のへその穴くらいの大きさだ。ちょうど大腿骨が通っているあたりだろうか。
「へへ、そりゃ力入んねぇわな・・」
男はそのまま気絶するかのように後ろへ倒れそうだったが、ビョウブのさらなる一撃が男の眉間を貫いた。
男は声にならない声でうめくと、今度こそ後ろへ倒れ込んだ。
「あ、あにきぃ」
「な、な、な、なにしやがった」
男達は口々にわめき始めたが、一番後ろの男が剣を握って、ビョウブにとびかかろうとするのを見るや、それに続いた。
「くそがぁああああ!!」
ビョウブと男達、被我の距離は約5m。
王国の兵士であれば一秒とかからず詰めることのできる距離だ。
ビョウブは飛びかかってきた男の顔面めがけて一発撃つと、横っ飛びに左へ避けた。
ビョウブがいた場所に突っ込む男。後頭部から血がにじむのが見えた。
続いて迫ってきた二人の男は、兜をかぶり、右手にブロードソード、左手にラウンドシールドという、王国純正装備でもって挑んできている。
ビョウブは相手の右側面に回り込むように身をかわすと、二発ずつ相手に撃ち込んだ。
男がまた一人、前のめりに倒れる。
もう一人は、剣を取り落とし、右脚のふとももあたりを左手で押さえている。
男の右太股はえぐれ、右手の甲には穴が穿たれていた。
「いってえええええ。いてえいてえ」
男は大声で叫び始めた。
「ふん。わしの痛みに比べたらこんなもん」
いつの間にか、召喚書の表紙にカモイの顔が浮き出ている。全身が描かれてなくてもいいらしい。
「本当に、一人残してていいの?」
「ええんじゃ。これで計画通りじゃ」
兵士を一人だけ生かしておくというのは、当初の予定にあったことだった。
「あいつが今日あったことの生き証人じゃ」
どうやらカモイは仇討ちの完全達成によって、この仇討ち自体が誰にも知られなくなることを避けたいようだった。
(別に兵士を残さなくても、いろんな人が見てるけどなあ)
ビョウブは周囲を見回した。
泥猫亭の主人、隣のパン屋のおばさん、道行く若者達、それに街の自警団もだ。
この街では暮らしにくくなるかもしれない、ビョウブはそう予感し、少しうつむくと黙って首を振った。
そうこうしているうちに、生き残った1人が脚を引きずって、その場を離れはじめた。
どこまで行くのだろう、今更、王国軍に戻るつもりだろうか。
追わない、殺さないことは決定事項なので、ビョウブは兵士を目で追うのをやめた。
代わりに、目の前の泥猫亭に入ると、スープとパンを注文した。
たしか、ここのかぼちゃのスープは絶品だと聞いたことがある。
ビョウブは、召喚書を閉じてテーブルに優しく置くと、椅子に座って主人に注文を始めた。
卓上の召喚書の表紙では、カモイが一足先に朝食を始めている。
ベーコンに目玉焼き、トースト、それに紅茶だろうか。カモイはカップを持って、匂いを楽しんでいる。
その表情は、いつもより少しだけ、にこやかに見えた。
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