狙いすます光線銃
それから三ヶ月、ビョウブは訓練に明け暮れることとなった。
指導はカモイだ。
カモイは、若かりし頃、王国軍隊に従軍していたことがある。
召喚術師としての所属であったが、攻撃的な術式はあまり得意ではなかったため、兵站部門に所属していた。
ただ、五年に及ぶ従軍の中では、敵軍の突撃を受け、魔力も尽きた中で弓一本で生き残ったこともあるという。
なにしろ、カモイじいさんの思出話なので、信憑性は低いが、五割引きしたとしても、じいさんはそれなりに戦闘経験があり、術式も弓も戦時に通用するレベルではあったのだろう。
でなければ、今まで生きてはいないだろうし、なによりビョウブが生まれていない。
カモイの訓練は厳しかったが、ビョウブはこう考えていた。
「この訓練が長引けば、そのうち、じいちゃんの仇の兵士が異動してどっかに行ったりしないかな」
この考えは、甘いものだったことが後に露呈するのだが、ビョウブはこの考えを支えに三ヶ月を乗り切った。
主に取り組んだのは、基礎体力の向上、術式の早詠み、そして射撃。
大学に入ってろくに運動していなかったビョウブも、この三ヶ月で新人兵士並の体力は手に入れることができた。
もとより、体力向上に素質があったのかもしれない。
ビョウブは
(存外、兵士になるのもいいかもしれない)
と、考えるまでに至った。
訓練最終日、カモイは仇の兵士崩れ4人を町の安宿に見つけた。
ビョウブはせめて、騒ぎを小さくすべしと思い
「じいちゃん、光線銃で遠距離狙撃はどう?こいつなら100mかそこいらは狙えるし、絶対バレないよ」
と助言してみたが、
「ぶぁっかもん。それでは、わしらがやったって分からんじゃろうが」
「古来、仇討ちとはそのようなものと相場が決まっておる」
一蹴されてしまった。
ビョウブは首をかしげたが、土台、これまで仇討ちなどしたことがあるわけもなかったので、カモイの意見に従うこととした。
最終日の訓練メニューは、仇討ちの実行計画を練ることだった。
※ ※ ※
翌日。
ビョウブは深緑に染まった麻のシャツとパンツに、丈夫な皮のグローブを身につけ、左手にはカモイの本(そう呼ぶことにした)を抱えた。
目指すは、仇の兵士たちが宿泊している宿「泥猫亭」。いかにも安そうな名前だ。
朝8時。ビョウブは祖父宅を出た。
これまでの調べによれば、兵士崩れは4人。
いつも夜に出て朝方に帰ってきている。どこかで盗みをやっているのだろうか。
夜通し働くだけあって、奴らはいつも疲労困憊で帰ってくる。
そこを狙う。
誰に卑怯と言われようが、この作戦は成功せねば意味がない。そもそも、後期高齢者の祖父宅に強盗に入って殺してしまうような非道な奴らだ。
手加減する必要は無い。
ビョウブが泥猫亭の建物の陰に潜んで、兵士崩れの帰りを待つこと一時間。
奴らは帰ってきた。
戦闘のリーダー格の男は片手で荷物を背負い、髪をかきわけている。まだ体力に余裕がありそうだ。
対して後ろの三人は、所々鎧も薄汚れており、やや頬もガレている。
野盗退治にでも狩り出されたのだろうか。
四人全員とは行かなかったが、内三人はほぼ戦力外と考えることができそうだ。
ある程度の勝算を思い浮かべることができたビョウブは、仇討ちを決行することとした。
「やあやあ、我こそは」
ビョウブはカモイに教えられた口上を述べ始めた。
「・・はあ?」
リーダー格の男は、小指で耳を掻いている。こちらの意図が伝わっている様子はない。
たまらずビョウブは
「カモイの仇、ここで取らせてもらう!」
と普通にしゃべった。
「・・・はあ。」
(あ、だめだ、これ。こいつら殺した人間のこととか気にしないやつだ)
兵士崩れの反応を、ビョウブは割と冷静に受け止めていたが、カモイは違ったようだ。
召喚書が小刻みに震えている。カモイは怒りを覚えている。
ビョウブは、兵士崩れの従順な反応を期待することをあきらめ、召喚書を開いて術式を唱えた。
書物から浮き出てきた光線銃を握ると、先頭の兵士を狙って構えた。
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