浮き出る光線銃

 ビョウブはあまりの気味の悪さに思わず本を放り出してしまった。


 本からは


「あい・・・・・こ・・・」


 くぐもった声が聞こえる。


 ビョウブは二度深呼吸すると再度、本を手にとり、意を決してもう一度本を開いた。


「ひぃいいい。なんちゅうことするんじゃい。唯一の肉親のこのワシを放り投げるとは。ああ、嘆かわしい。都会の大学に行ったらこんなもんかのう。田舎もんをバカにしよってからに・・」


 中表紙には小さなカモイが描かれており、この書斎にあるものとよく似た机に向かい、椅子に座っている。ティーカップを持っているようだ。

 なにより、早口で何事かまくしたてている。


「じいちゃん?」


「おお、そうじゃ。お前のカモイじいちゃんだ」


「え?なんで?どうして?」


「話せば長くなるが、お前が名前を呼んでくれたからの。この本に入ったんじゃ」


 カモイの説明は簡潔だが、ビョウブの頭にはさっぱり入ってこない。


 ビョウブが「え?なんで?」を10回ほど繰り返した結果、やっと次のことがわかった。


一つ、カモイは死んでいる

二つ、この本はカモイが生前、召喚術のあれこれを書き留めた本である

三つ、この本自体に召喚術式がかけられており、死者を呼び出せる


「ま、つまりじゃな、わしはこの本におって、お前に召喚術を教えてやれるということじゃ」


 ビョウブは、別に頼んだ覚えはないと思ったが、文字通り死者に鞭打つことになりそうだったので言わなかった。


「この本はの、生前わしがやばいと思った術式ばかりを集めておる。この死者召喚もその一つじゃ」


 死者を呼び出すとか、今にも暗黒面に落ちそうなことを言っているのにカモイは明るい。


「じゃあ、この本はあんまり使わない方がいいんだね!」


 ビョウブはこれ以上、奇妙な状況に首をつっこみたくない一心から言ったが


「いいじゃんいいじゃん、使っちゃえ」

カモイは大変軽い。

「わしもう、別に怖いもんないし」


 オレには怖いものがある、とビョウブは強くそう思ったが、一応ぐっと我慢した。


「とりあえず、いっぺん使ってみぃ」


 カモイがそういうと、本のページがひとりでにパラパラとめくれ、

「異世界物質召喚」

のページで止まった。


 カモイもいつの間にかそのページの右肩に移動している。さっきよりはやや小さくなったようだ。好きなように大きさを変えられるのだろうか。


「これは、わしが生前見つけた中でもとびっきりやばいやつじゃ。怖くて一回もよう使わんかった。でも、これが一番いいと思うんじゃ」


「いいって何に?」


「そりゃ決まっとろうが。リベンジじゃよ、リベンジ。わいを殺しよったごろつき兵士どもに目にモノ見せてやるんじゃい」

 紙の中のカモイが椅子から立ち上がって、ゴリラのように胸を叩いている。


「え、いや、リベンジとかそれはちょっと。軍司令官に申し入れをするとか、領主にとりなしを頼むとか、別の方ほ・・」


「ならぬならぬ。やるといったらわしはやる。ほれ、術式を唱えい」


 ビョウブはこれ以上言っても無駄だと思い、カモイの言うページに記された召喚術式を読み上げ始めた。

(まさか、大学での知識がこんなところで実践されることになるなんてな)


「・・・パライソ・・コーセンジュー!」


 ビョウブが唱え終わると、本に描かれた魔法陣から

「コーセンジュー」

が出現した。


「おほぅ、これか。光線銃は!どれ、説明は次のページじゃぞい」

 カモイはビョウブより先にページをめくってしまった。


 次のページには今召喚したものとそっくりな物体の絵が書かれており、それぞれの部品の名称などが書き込まれている。

 この召喚物は「光線銃」と言うらしい。


 その後のページにも光線銃の性能に関することや使用方法についての記載がなされている。古代文字で書かれていたが、大学で身に付けた知識で読むことができた。


 ページの右隅では、カモイが顎に手をあてて「ふんふん」うなっている。

 自分の書物なのに見るのが初めてなのだろうか。


 カモイはビョウブの疑問に答えるように


「この書物はの、召喚した物の解説が自動書記されるスグレものなんじゃよ。わしが作ったんじゃよ、えっへん」


 胸を反らして威張っている。

 さらにカモイは勝手にページをめくって読み進めている。


「ふむふむ。ようはあれかの。恐ろしく速い矢を打ち出すようなもんかの。非力な者でも使えるだけ、ビョウブにも向いておるの」

 カモイはひとり得心している。


「非力な人間でも簡単に扱えるなんて、こんな武器が世の中に出回ったら大変なことになりますよ」


「だからこそ、怖くてよう使わんかったんじゃ。でも安心せえ、こんな書物作れるのはわしぐらいじゃろて」

 ガハハハと笑う祖父を見ながら

(じいちゃん、そんなすごい人だったのか)

とビョウブは素直に感心していた。


「ともかく、これを使いこなすには訓練じゃな訓練。すぐに始めるぞぃ」

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