ファンタジーと光線銃
黒井ごま
ファンタジーと光線銃
#01 祖父の光線銃
書物と光線銃
カモイは自分の死を悟った。
腹部を抑えた右手は真っ赤に染まり、今も血がとめどなく流れている。
これではもう、治癒術式も間に合わない。
カモイは立っていられなくなり、壁に沿ってずり落ちるように座り込んだ。もう足に力が入らない。
「じじいが、結構貯めこんでやがんなぁ」
兵士たちの乱暴な声が聞こえる。金目の物を探しているようだ。
兵士たちは隣の部屋にいるはずなのに、カモイの耳には、奴らの声が遠いことのように感じ始めていた。
(あれだけは・・)
カモイは、必死に念じていたが、それが通じたかどうかは知る由が無かった。
二度、むせるように血を吐き、カモイの意識は永遠にこの地上から去った。
※ ※ ※
ビョウブが祖父の死を知らされて、大学から戻った時、カモイはもう埋葬された後だった。
ビョウブは祖父の墓前に立ったが、ここに祖父が眠っているという実感がなかった。
両親を早くに亡くしたビョウブにとって、祖父・カモイは唯一の肉親であった。
祖父が召喚術で生計を立てていたのを間近で見ていたビョウブが、魔道大学に進んだのは自然の成り行きであった。
大学で身に付けた術式で祖父の仕事を助け、やがては静かな隠居生活を送ってもらうのがビョウブの夢であった。
しかし、それも今や破れた。夢はもう叶わない。
ビョウブは、祖父の家に戻ると、遺品の整理を始めた。
大学で下宿生活を始めてから一度も戻ってきたことがなかったので、3年ぶりの我が家となる。
村の世話役たちに聞いたことだが、強盗は兵士崩れだったらしい。祖父は書斎にいるところを襲われ、命を失った。
自慢の召喚術を使う暇もなかったのだろうか、家の中は強盗にあったにしては散らかっておらず、静かに時を刻んでいる。
生前、カモイはビョウブを書斎へ入れるのを嫌がっていた節があった。
面と向かって、入室禁止を申し向けられたことはないが、ビョウブが入ろうとすると必ず嫌な顔をされた。
ビョウブはいつしか、祖父からそのような顔をされるのが嫌で、書斎に入ろうとすらしなくなった。
今、ビョウブはその書斎に入ろうとしている。
書斎の扉を開くと、明かり取りの天窓から射す日光が目に入った。
部屋の三方は作り付けの本棚で囲まれており、天窓のある壁に向けて、執務机がおかれている。
椅子は、斜めにひかれたままになっており、カモイが最後に立ち上がった時のままなのかもしれなかった。
ビョウブの目が、向かって左手の本棚で止まった。
点々と赤い染みが残っている。
カモイの血の跡だ。
どこで絶命していたのか、ビョウブは聞いていなかったが、ここで最期を迎えたのかもしれない。
ビョウブはしゃがみこんで、血の染みの連なりを指でたどってみた。
うすくはなっているが、よく見ると床にも赤色の広がりがある。
相当の出血量だったのだろう。祖父は何回刺されたのか、痛かったのか、辛かったのか、苦しかったのか。
気がつくと、ビョウブの目からは涙があふれていた。
そしてふと、ひときわ血の汚れの激しい本があった。よく見ると、指の跡が残っている。
カモイが死の間際に開いた本だろうか。
そう思うと、ビョウブはその本を手にとらずにいられなかった。
なにかの皮だろうか。変わった装丁のその本は白い。純白といっていい。そこに血の指紋がはっきりと残されている。
ビョウブは本を開いた。
そこにはただ、こう書かれていた。
「我が名を唱えよ、されば開かれん」
ビョウブは、その本の名など知らなかったが、今呼べる名はこれしかなかった。
「カモイ・・じいちゃん」
その瞬間、本全体がまばゆい光を放ち始めた。
その光は部屋中に広がり、あまりの明るさにビョウブは目がくらんだ。
しばらくすると、光は止んだ。
ビョウブはおそるおそる本を手にとった。
そして再度本を開くと、
「あら、やっぱりビョウブかえ」
最愛の祖父・カモイの声がした。
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