第36話 いい加減、偽名をやめようか
リンとみこさんの狭間に挟まれたことは、中々に恐ろしい経験だと記憶。
それはひとまず記憶から抹消するとして、家に帰った時はすっかり夜だった。
『バカッ!! こんな遅くまでどこに行ってたの!! ミキちゃんに何かあったんじゃないかって心配しまくったんだよ?』
玄関から上がった眼前に、般若顔な一樹がいたのは正直驚いた。
相当に心配をかけてしまったようだ。
「ご、ごめん」
「謝る相手が違うでしょ!! ほら、リビングにいるから謝っといでよ!」
「そ、そうか」
「私、お部屋に戻ってるから、寝る前に声かけてね」
「分かった」
――義妹の一樹でも怒っていたので、想像していたが親にこっぴどく怒られた。
こってりとしぼられ、足が痺れまくったまま部屋に戻るとぴょこんとドアの隙間から、一樹の顔が見えている。
何だそれ、可愛いぞ。
「あのね、大事な話があるんだ。部屋にお邪魔していい?」
「い、いい……いや、駄目だ。話なら一樹の部屋で聞く」
俺の部屋に黒歴史な……でも無いが、儚い青春に溺れたゲームの数々が散らかっている。
そんな空間に入れてしまえば、もしかしたら一樹もハマってしまう可能性が無くも無い。
「わ、私のお部屋に?」
「駄目なら駄目で――」
「い、いいけど……何にも触らないって約束してくれる?」
「物色する趣味は無いから心配ないぞ」
「そ、それなら、いいよ」
義妹ではあるが、さすがに女子の部屋でもあるのでお邪魔したことが無い。
なのでこうして改まって部屋に入ることに、何となくの緊張感がある。
何をするという訳でもないのにだ。
「お、お邪魔する……」
「なにそれ、武士?」
「何でだよ! そんで、大事な話って?」
何だろうか? 何やら甘そうな雰囲気を感じなくも無いが、そうじゃない可能性の方が高そうな予感もしなくも……。
「ミキちゃんにやめて欲しいことがあるの。明日からやめてもらいたいんだけど、聞いてくれるよね?」
「……な、何……でしょう?」
「私の名前で呼ばれてるミキちゃん。何かやっぱりおかしいって思うんだ。私が知らない沢山の女子たちが、私の名前でウワサとか立てたりして何かそういうの嫌だよ」
「あー……」
リンだけならまだ良かった件だ。
それが次から次へと、かつての攻略組メンバーの中の人が出て来るなんて、想像もしていないことだった。
リンと一樹は、俺の名前の件についてはすでに理解済み。
しかし他の女子は、そもそも一樹のことを知らないわけで。こうなると偽名というか、実在の一樹があらぬ疑いをかけられることにつながるわけだ。
とうとうそんな時が来てしまった。
「何で私の名前が有名で、しかも色んな女子がミキちゃんに言い寄っているのかなんて、聞きたくも無いけど。でも、いい加減偽名って良くないし、凄く嫌」
「ですよねぇ」
「そういうことだから、明日学校で説明してくれるよね? ね?」
「あーえーうー……」
「してくれるよね?」
「そ、そうだね……」
「次の日までに直してなかったら――」
「直す直す、直しましょう!!」
「うん。それじゃあ、おやすみ! また明日ね」
「オヤスミー……」
一樹の強さは半端ない。握力もそうだし、投げ技もやばい。
こうなるともう、リンを筆頭に修正していくしかないだろうな。
果たして本名で、これまでと変わらずに接してくれるかは分からないけど。
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