第11話 放課後デートの幕開け!?

 ちょっとトイレに行きたかっただけで教室を抜け出した俺に、まさかの出会いと発覚が訪れた。

 リンの言うように、元攻略組メンバーが今か今かと息をひそめていると思うと、その足取りは重い。


 昼休み前に起きたことはどうやらあまり気にされていなく、放課後までスムーズに過ごすことが出来た。

 もっともイツキからは、休み時間の度に念を押されるような小言を逐一されていたが。


「うし、帰るか」

「お? 早いな! リンお嬢様の所に行くんか?」

「何でリンの名前が出て来るんだ? えっと……」

「コウタツな。んで、急いで帰るってことは、そういうことなんだろ?」

「約束してない。てか、もう帰ったっぽい。俺も帰るよ」

「そか、じゃあな、小野瀬」

「じゃあまた!」


 トイレ経由の生徒会室に行っている間、クラス連中との親交でも深まったのか。

 気にしても仕方ないので、妹に声をかけるだけかけて昇降口に向かった。


『やっ! イツキくん! それともリーダーとお呼びする方がいいですか?』


 朝と休み時間のことだけで一日が簡単に終わるわけが無い……そんな予感があったとはいえ、待ち伏せされていたなんて、リンにすっかり油断した。


「小野瀬……で頼むよ」

「そんなつまらない呼び方は駄目ですよ? ん~でも、外と中と内々とで使い分けるのも面白いのかな? それじゃあ、二人だけの時はリーダーとお呼びしますね!」

「……イ、イツキで」

「はい、イツキくん!」


 白髪はくはつで小柄な子なのに、妙な迫力を感じるのはどうしてだろうか。

 

 中の人が狂戦士だったと判明してから、いつかのことを思い出してしまうのが関係しているかもしれない。


「もしかして、俺を待っていた?」

「はい~! 帰りのことは心配しないでくださいね! お家までお送りしますので」

「うん?」

「イツキくん。リンと放課後デートしませんかっ?」

「デ、デート……!?」

「イツキくんに会えたのがすっごく嬉しくて、教室も一緒で、だけど話が出来る時間が限られているじゃないですか。だから放課後しか、時間を多く取れないなぁって思ったんです!」

「え、いや、でも……えぇ?」


 昼休み以降の休み時間に絡んで来ることが無いと思っていたら、そういうことか。

 することが無いとはいえ、妹からは『真っ直ぐ帰って来てね』なんて言われたし、これはどうすれば。


『イツキ様。こちらでは、お初にお目にかかります』

 目を閉じて考えを巡らせていたところに、車のドアが閉まる音と同時に大人な女性の声が聞こえて来た。


 イツキ様だなんて、返事をしていいのか迷う。

 恐る恐る目を開け、声がした方を見るとそこには、白と銀に輝く長い髪の女性が立っていた。


 スーツに身を包んだ女性は、お付きの執事だろうか。 

 リンの白い髪にも驚いたが、執事の女性の髪はまさしく白銀はくぎんに輝く美しさだ。


「……は、初めまして?」

「この度、リンお嬢様とのご再会おめでとうございます!」

「いや、ど、どうもです……」


 何とも言えない美しさがある執事さんだ。リンに長く仕える人なのだろうか。


「イツキくん、彼女はわたし付きの執事で、赤名みこ。わたしの姉なんです!」

 髪色だけ見れば姉妹と言っても疑いはない。


 姉で執事をしているなんて、徹底している感じだ。

 みこさんは俺に対し、軽く会釈をしている。


「お、お姉さん!? あれ、でも……みこさんってどこかで……」

「――紹介も出来たので、放課後デートですっ! イツキくん、隣へどうぞっ!」

「す、すご……!」


 何ともデラックスな車にも驚くし、全長どれくらいあるかってくらいの長さには、感動しか出来ない。

 

 執事のみこさんはドアを開けて待ってくれていて、先に乗り込んだリンを見届けた後、俺が乗り終えるのを待って、そのまま運転席に乗り込んだようだ。


 運転もするなんて、万能チートすぎる姉じゃないか。


 庶民な俺には絶対縁がないと思っていたデラックスカーはもちろんのこと、快適すぎる真っ白な座席とスベスベな手触りを感じる毛皮のシートには、ただただ驚くばかりだ。


「イツキくんの為に、白一色にしたんですっ! 嬉しいですか?」

「た、確かに……これは何といえばいいのか」


 誓って言うが、白にこだわっているわけでは無く、単にLORキャラの色合いが好みだっただけである。


「あっ! イツキくんに言うのが遅れたんですけど、ぼっち引退おめでとですっ!」

 近い近い、距離が近すぎる。


「い、いいのか悪いのか……」

「そんなの、決まってるじゃないですかぁ! だってイツキくんがぼっちのままだったら、面白くないですもん」

「へ?」

「リーダーをしていたイツキくんは、常にハーレム状態を築いていたんですよ?」


 黒い歴史を自分の記憶の奥底に、埋めたままにしておきたかった……。


「LORの中だけだからね? はは……」

「カリスマリーダーだった人が、リアルでぼっち生活に満足していたら、リンはおろか彼女たちに会う機会も得られなかったんです! そんなのって勿体ないですよ~」

「……そう言われても、知らないままならそれはそれで」

「ライバルは現実にもいるんですよ? それに、LOR内ではどうにも出来なかったことも、リアルではやりようによっては……ふふっ!」


 嬉しそうに話すリンの横顔が、一瞬狂戦士に見えたのは気のせいだろうか。


「と、ところで、放課後デートの行き先は……」

「それなんですけど、開幕はリンのお家にしますね! そこから徐々に、徐々に……」

「か、開幕って……」

「もうすぐですから、遠慮なくリンにもたれかかって来ていいですからね!」


 可愛いことを言ってくれるが、そんなことが出来るはずも無い。

 それにしても外の様子が全く見えないけど、俺は妹の待つ自宅にきちんと帰れるのだろうか。

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