第8話 二人目の刺客?

 俺の背中をグイグイと押しまくる後ろの彼女は、一体どういうつもりで保健室辺りにいたのだろうか。


 サボリ女子とかいうことなら、迷わずに保健室に行くはずなんだが。

 すでに慣れた感じだったし、同学年じゃなくて先輩だろうか。


「セ、先輩、あの、どこまで行くんですか?」

「先輩ぃ~? コホン、この先にサボりに適した部屋があるので、そこまでオートウォークしていいからね」

「オ、オートって……」


 押されて歩いているだけで、むしろ自分のペースから外されているから疲れるだけだが。


 転校したてのリンに逃げるようにして廊下に飛び出したまでは良かったものの、トイレに長く籠るわけにも行かなかったところに、予想外の出会い。


 義妹のイツキにも筋の通った言い訳をしなければならないし、リンの相手もしなければいけないし、そういう意味では新しいイベント発生は歓迎すべきかと思われるが……。


 しばらく歩かされていると、サボり部屋ならぬ生徒会という、恐ろしい部屋が見えて来る。


「ひぃっ……!? こ、ここ……ここは」

「どうしたのかな? 君に拒否権は無いのだよ? とにかくこのまま部屋の奥まで進んでもらおうかな」

「か、かか、帰りますんで! もうすぐ昼休みで、だから……」

「それならなおのこと、帰れないし帰さないよ?」

「え、俺サボり扱いなんすか? トイレから出たばかりでこんな、こんな扱い……」


 何となく結末が想像出来るので、背中に当たっている先輩らしき彼女の手から抜け出して、隙を見つけるつもりで振り向こうとした――


「おぉっと、決めつけ良くないなぁ。人の顔を見る前に逃げ出すなんて、らしくないよ? リーダーくん?」

「……な、なんっ!?」


 俺のことをリアルにリーダーと呼ぶのは、転校して来たリンだけ。

 それがどうして、生徒会の人が俺にそう呼ぶのか。


「ま、とにかくさ、部屋に入るだけでどうこうならないんだから、黙って静かに部屋に入る! オッケー?」

「お、おk……」


 疑う余地なし。

 生徒会室に入室を果たした俺に、今さら逃げ場などあるはずもない。


 生徒会室は想像していたよりもこじんまりとした作りで、会長が座っていそうなゴージャスなソファと、お疲れモード用のリクライニングシートが置かれているだけだ。


 あまりじろじろと全体を見回すことが出来ないが、隠し部屋がありそうな雰囲気は感じられる。


 そんなゴージャスなソファを気にすることなく、部屋の奥、それも袋のネズミ状態な俺に対し、彼女は怒涛の勢いで迫って来た。


 ストレートロングで整えられた真っ黒な髪をした彼女は、もちろん出会ったことのない女子だ。

 カラーコンタクトなのか、瞳の色は濃い茶色をしている。


 当たり前だけど姿勢が良くて、制服も整えられているし腰に手を置いて立つその姿は、生徒会長と疑えない存在感がある。


 俺に保健室近くで声をかけた時とは打って変わって、ハスキー声の彼女は眉をキリっとさせながら、俺を見つめている。


 その眼は、獲物を狩る時に感じる威圧だ。


 よくよく見なくても肌荒れも起こしていない健康的な肌をしていて、活発的に動きまくる美人さんだ。


「さて、と……」

「え、あの、何故に部屋の鍵をかけてるんですか? も、もうすぐ昼休みとはいえ、まさかの説教ですか?」

「そんなに警戒しないでいいよ? 別に取って喰うわけじゃないし。それと敬語いらないよ。先輩でも何でもないし」

「え? そうなの!?」

「安心したからって、すぐに馴れ馴れしくするのは悪い癖だと思うなぁ。君がリーダーをしていた時も、そんな感じしてたけどそのまんまだよね!」


 まただ。また俺のことをリーダー呼びしている。

 ということは、この子もLOR(レジェンド・オブ・リアル)の中の人か。


「それって、LORのことを言っているのかな?」

「ふふん、気付かせようとしているのがミエミエだよ? それじゃあ問題です! わたしは誰でしょう? 正解したらひざまずく、不正解なら跪いてイイコトしてあげる」


 どっちも跪くのか……。


「いや、駄目だ。俺が正解したら、ここから出してもらうよ」

「え~つまんない! まぁいいや、わたしのジョブと名前は?」

「……ハンターだろ?」

「おー正解!! すぐに分かったんだね。じゃあ名前は?」


 何で俺は生徒会室の中で、クイズを出されているんだろう。

 先輩じゃないのは良かったけど、じゃあ誰なんだって話になる。


 ハンターとして攻略組にいたのは二人いたが、どっちが正解なのか。

 リンと同じ白い髪のキャラはミズハだったと記憶しているが、リアルで白い髪をさせて俺の前に現れたのは、リンくらいなものだ。


「ミズハ……?」

「はっずれ~!! お仕置き決定だよ? でも名前を当ててもらわないと許したくないなぁ。ヒントは、終わりの名前。はい、どうぞ」


 終わりの名前……フィン……じゃなくて、女子だからもしや。


「キ、キミはフィーネか? ハンターのフィーネシア……?」

「おめでと! そうだよ。思い出してくれたね、リーダーのイツキくん! でも本名はそうじゃないよね? 教えて欲しいな!」


 どうするべきなんだ、この子がもしリンと通じていたら……。


「あ、そうそう、LOR攻略組で仲がいい子のリアルは知らないよ? リーダーだけは知ってるけどね。駄目だよ? リアルのことをベラベラと教えちゃ」

「――う、確かに。小野瀬おのせミキだけど、キミは?」

「ミキくんなんだ、可愛いね。フィーネは、緋奈。黄前おうまえ緋奈ひなだよ。ヒナって呼んでいいよ?」

「ヒナ……そ、それで、ここから出してくれるんだよね?」

「駄目だよ? せっかくだし、昼休みまで一緒にいて欲しいな」

「で、でも……」

「そうしないと、見つかっちゃうよ? 見つかったら、大変なことになるけどそれでもいいのかな?」

「ううう……」

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