第7話 おあずけですか!?
白い髪、白い肌……寒空の下で再会した小柄な女子は、ゲームの中で出会った魅力的な彼女だった。
そんな彼女がリアルに会いに来て、俺を慕い、可愛さ全開で言いなりになると言い出した。
ただし、ぼっちを引退すること。
本来、ぼっちから抜け出すことはとてもいいことであり、男の友達が出来たのちに、次から次へと親し気な女子が近付いて来る上、ムフフな展開が待ち受けているといっても過言じゃない。
まして目の前にいる狂戦士のリンこと赤名リンは、絶大的なリーダーだった長身エルフというか俺に惚れていて、その感情をそのままリアルに持って来ている。
たとえ現時点でぼっちだと判明していても、俺にほとんど逆らっていない。
「どうします? 引退すればわたしは、イツキくんの思うがままに……クスッ」
ぼっちを引退……大した問題じゃないのは分かっている。
すでにリンの自己紹介によって、モブメートたちが名前付きのクラスメートにランクアップを果たしたことは、周知の事実。
俺がクラスメートに打ち解けなくても、ぼっちに戻ることは不可能だということも理解している。
さらには、他のクラスに潜んでいるかつての攻略組女子たちが、連携を取りに来るのは避けられない。
迷ったところで無駄だろうし、そもそもリンが俺をタゲり出している時点で、物語は動き出しているということだ。
「よ、よし、じゃあ俺の言うことを何でも……」
「あっ、時間切れですっ! 教室に戻らないと、叱られちゃいますよ?」
「うぐぅ……」
「いくらわたしでも、こんなところではしませんよ~それとも、イツキくんは羞恥プレイがお好みなんです?」
「ははは……そんなわけないだろ~?」
「ですよね! そんなわけで、言いなりになるのはおあずけ! ですっ」
おあずけってことは、後で有効になるという意味だろうか。
それにしたって、あんまりだ……しかもおあずけをくらったという時点で、俺のぼっち生活は今のやり取りでピリオドを打たれたということになる。
何かをしたわけでもないのに、そんなバカな。
授業開始のチャイムが鳴る前を見計らって俺を廊下に誘い、ムフフな誘い文句を放って俺をアクティブにさせるとか、狂戦士の時のリンそのものじゃないか。
ぶつくさと心の中で文句を言いながら次の休み時間を待っていると、前の席の男子が振り向いて、早速声をかけて来た。
「災難だったな、小野瀬!」
「……お、おー」
「まるきり話をしない奴だと思ってたけど、話せる奴だったんだな!」
「それはどうも……で?」
「興味が持てない野郎だからって、名前も聞かないとか、そりゃあないだろ!」
「どう持てと……ビクッ!?」
直接話しかけられても、いつも通り過ごせばいい……そう思ってぞんざいな態度をしていると、どこからともなく冷気のような視線が、俺の元に届いている。
もちろん教室の中は暖房でポカポカしているし、寒さを感じることは無いのだが、想像しなくても出所は大体判明。
その気配を辿りたくないので、素直に話をすることにしたものの、生理現象がタイミング悪く出て、思わず身震いをしてしまった。
「ど、どうした? 急に震えて青ざめるとか、保健室連れて行くか?」
「ト、トイ……あ、いや、というか保健委員?」
「おうよ。保健委員のコウタツだぜ!」
「コウタツ?」
「
「コ、コウタツに頼んでも?」
「寒気が止まらないんなら行くしかなくね? ほれ、立って先に廊下出ていいぞ。俺が説明しとく。っつっても、もうすぐ休み時間なんだけどな」
「わ、悪いな……」
ぼっちからの脱却と同時に、早くも頼れる男に助けられた。
元々後ろの席にいる俺が席を立って教室を出ても、いちいち気にする奴は、妹をのぞいていなかった。
しかし世話好きな奴に助けられたのは、早くもいい傾向になって来ているということか。
寒気を感じた原因は、間違いなくリンからの気配だったが、寒い廊下で話をしていたことで、トイレに行きたくなっていたのも事実。
ここは素直に保健室……に行くと追い返されるので、保健室近くのトイレに向かうことにした。
次の休み時間まで残り20分弱。長いことトイレにいても仕方が無いので、保健室に入るそぶりをしたりしなかったり、ウロウロしていると――
「キミもサボり?」
「……っ!?」
「安心してね? 多分、キミと似た思いだと思うし。でも、このまま後ろを振り向かずに、背中を押されたまま突き進んでくれる?」
「……あ、ぅ……」
「そんなに震えなくても、痛いことはしないよ? むしろ……とにかく、そのまま歩いてね」
急に背後から声をかけられてしまった。
しかも俺の背中に両手を付いた女子は、俺を強制的にグイグイと前進させ始めた。
保健室じゃなくて、同じサボリ女子とか……これから何をされるんだろう。
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