第52話 学園の姫と再びフルーツパーラーへ

「しかし、タイミングよくお前に会うもんだな」


―――まるで、待ち伏せしていたようにも思えるのだが。


「健人、俺は君たちの行動はお見通しなんだ」

「そうか、まきちゃんも一緒にいるなんて、出来すぎだ」


―――どうせ、俺たちが裏山へ登って行く姿でも見ていたのだろう。


 降りてくる姿だって、丸見えなはずだ。校舎の中から、こちらへ向かって歩いて来るのも見計らって、出て来たんじゃないだろうか。いわくつきの洞窟の話だって、僕たちをからかおうと思って作った話なのかも知れない。


「まあ、いいだろう。茜さんとも約束していたんだ。四人そろったんだ、行こうぜ。意義はないだろう?」


 すると、神楽坂と一緒に出て来たまきが、手を挙げて言った。


「意義な~しっ!」

「もう、まきちゃんが一緒じゃ、叶わないや」

「えへへ、美味しい物には目がないから……」


 茜は、まだ涙目でとぼとぼ歩いている。


「美味しいものを食べれば、少しは気持ちも晴れるわね、健人」

「茜さん……ごめん」


 健人は、ただただ茜に元気になってもらいたかった。



  

   ――・――・—―・――・――・――・――


 再び四人でやって来たフルーツパーラー。


 平日でもあり、店内は空いていた。店内奥の大きなソファ席が空いていて、そこへゆったりと座ることができた。神楽坂が座るなり早く茜に行った。


「茜さん、僕の事を毛嫌いしないで、昔みたいに仲よくしよう」

「べ、別に毛嫌いなんかしてないけど……」

「そうかなあ。健人に、何か弱みでも握られてるの?」

「う~ん、そんなことないわよ。健人は、私の彼氏なのよ」

「ああ、そうだったね」


 神楽坂は、それを聞いても全くひるまない。


―――どういう神経をしているんだろう。


「何か、お互いに隠してることでもあるのかと思ったよ」

「そ、そんなことないわよ。何を疑ってるの?」


―――この話題だけは、避けてほしいが、執拗に絡んでいる。


「健人はいつも茜さんの後について行ってるけど、何かありそうだなあと思ってさ」

「ない、ない、な~んにもない! 私たち見ての通り、普通の関係だから」

「そう、茜さんが言うなら、これ以上追及しないけど……なあ、健人。お前は何か隠してることはないの?」


―――急に、こちらに話しを振ってきた。


―――本当のことなんて、言えるはずがない。


「な~んにも、秘密なんてない。僕たちは、普通に付き合っているだけなんだから」

「そうか、君もそう答えるのか。、怪しいもんだが……」


―――こいつ、何か掴んでいるのか。


―――もしかして、俺が茜さんの家で執事をやっていることを知っているのでは。


―――いや、いや、そんなことはないだろう。


―――でも、嫌な感じだ。


「お前たち、本当は一緒に住んでいるとか、実は、いとこ同士だったりしない?」

「とんでもないっ! 俺たちに血のつながりはない」

「ふ、ふ~ん。血のつながりはないけど、何か他のつながりがあるんじゃないか?」


―――しつこいやつだ。


「あ~~っ、もう。いい加減にしろ! そんなにしつこいと、今後一切一付き合わないぞ!」

「あ、そう。いいよ、一緒に行かないんだったら、三人でどこへでも行くから」

「それは許さない」


―――三人で何処かへ行くなんて、許せない。


―――何が起こるかわかったものではないし、二人の秘密を聞きだされてしまうかもしれない。


 

 言い争っていると、店員さんがパフェを持ってテーブルへやってきた。


「プリンアラモードは」

「は~い、私たちで~す」


 まきと茜さんが、手を挙げた。プリンの周りにバナナやオレンジ、キウィなど数種類のフルーツと生クリームが飾られている。なかなか豪華だ。


「フルーツパフェは?」

「僕です」


 健人が返事をした。奢ってもらうので、値段を気にせず、豪勢にミックスフルーツが盛られたパフェを選んだ。


 そして最後に残ったあんみつを、神楽坂の前に置き、店員さんはテーブルを後にした。やっぱり彼は、あんみつには目がないようだ。


「この寒天が、何とも言えないんだよなあ。ぷりぷりした歯ごたえが最高だ!」

「そうかなあ」


 彼は、幸せそうな顔をして寒天を頬張っている。みなそれぞれのお皿から、一匙すくっては、口の中で解けていくアイスクリームとフルーツの味を堪能している。


 茜さんが、まきにいった。


「今日は、本当に偶然だったわね。神楽坂とまきちゃんもなぜか一緒にいるんだもの、驚いたわ」

「まっ、まあ、そうね。あたしも偶然帰りに会ったもんだから。一緒に帰ることにしたんだけどね」

「ふ~ん、そうなの」

「そうよ」


―――何だろう、この沈黙は。


―――しばしまきちゃんは黙り込んで、ひたすらプリンアラモードを食べている。


―――きちゃんが、彼と帰ったのは偶然ではないのかもしれない! 


 健人はさりげなく訊いてみた。


「まきちゃんは、付き合っている人いるの?」

「あ、あたしは、さあ、いないわよ」

「じゃあ、好きな人は?」

「突然、何を聞くのよ、健人。びっくりするじゃない!」

「いるの?」

「まあ、それは好きな人はいるけど……」


 まきは、かなり焦っている。こんな質問をしたのは初めてだ。


「俺の知っている人?」


―――俺ってかなり意地悪だよな。


―――性格悪いかな。


「まあ、知ってるんじゃないの」

「そうなんだ」


 茜までもが、この話題に乗ってきた。でも、彼女はまだ気がついていない。


「まきちゃんみたいにさっぱりとして明るい子だったら、告白すれば、絶対付き合うと思うよ」

「何言ってるのよ、茜まで!」

「そうだな、まきちゃんは気軽に傘を貸してくれたり、本当にきさくでいい。女子の中では、意識しないで付き合える貴重な存在だ」


 今度は、神楽坂がいった。傘のところに、茜が興味を持った。


「なに、傘を貸してくれたって、二人で同じ傘に入ったの」

「……そうだよ」


 冷たいものを食べているのに、まきの耳たぶはしだいに赤くなっていく。二人が一つの傘に入って、歩いている姿が目に浮かぶ。これ以上言うのは、止めた方がいいだろう。健人は、訳知り顔をしていった。


「誰でも好きな人の一人や二人いるもんだよな。その方が張り合いがあっていい」


 それを聞いた神楽坂は、健人に行った。


「何だ、変な奴だなあ」


―――鈍感な奴だなあ。


―――これでもう決まりだ。


―――まきちゃんは、気がついたらいつの間にか神楽坂の事が好きになっていたんだ。


―――鈍感な神楽坂はそれに気がついていない。


 神楽坂の気持ちをどうにかまきちゃんの方へ向けさせたい。いつまでも茜さんに小判鮫のように、くっついていてほしくないからな。

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