第49話 新学期が始まり学園の姫にライバルが急接近

―――学校へ行っても、家へ帰っても、茜さんの周りは俺のライバルだらけだ。


 新学期が始まり、健人は朝食を摂り、学校への道を急いでいた。


―――今日からまた、茜さんを狙っている奴らから彼女を守らなければならない。


 宿題が無事に終わった安堵感はあったが、緊張しながら登校した。


「おはよう」


 教室に入って行くと、そこには神楽坂と茜の姿があった。茜が早く来ているのは分かるのだが、神楽坂も珍しく速く来ていて、茜の席の傍に立っていた。


「よう、おはよう」


 茜と朝から話しが出来て、優越感に浸ったような顔をしている。


―――おめでたいやつだな。


 健人は彼に声を掛けた。


「おはよう。夏休みはどうだった?」

「充実していた」

「そうか、良かったな」

「健人はどうだったんだ?」

「俺も、結構忙しかったけど、まあまあ充実してた」


 バイトに宿題と、あれこれやることはあった。茜さんとプールにも行った。本当は、これ程充実した夏休みは今までになかった。時々、茜の家で執事のアルバイトもしていた。口実を付けなくても、定期的に会うことができ、そのたびにデートに行くような楽しい気分だった。


「ふ~ん、俺も夏休み中は、茜さんとしょっちゅう電話で話しが出来て、楽しかったよ」


―――電話でだって! 


―――どういうことだ!


「えっ、何だって!」

「図書館で勉強したときに、お互いに電話番号を交換したんだ。それで、時々話をしてたんだ」

「そうなのか……」

「これからも、電話しても構わないって、茜さんがいってくれたんでね」


 茜は、ちらりと健人の方を向いたが、しっかりした口調で答えた。


「ええ、そうなのよ、健人。ただし、あんまり長電話はだめよ、神楽坂君」

「分かってるって。忙しい時は、メールでもいいよね」

「まあね。それなら、いつでもどうぞ」

「ねえ、この髪型どうかなあ」

「あら、いつもとちょっと色が違うし、何だか、前よりかっこよくなってる」

「そうか? 俺もちょっと髪型を変えてみたんだ。気分を変えてみようと思って」

「ふ~ん」

「似合うかなあ?」

「似合うよ。今までの堅物のイメージが変わりそう」

「ええっ! 俺ってそんなイメージだったんだ。じゃあ、髪型を変えてよかった。茜さんにも、気に入ってもらえて」


―――なぜ、彼はあんなに仲よさそうなんに話してるんだ! 


―――まずいぞ!


―――今までは、ライバルが現れても、茜さんの方が本気で相手をすることがなかったんだが、いい雰囲気になっている。話しかけずらい。


「茜さん……」

「な~に、健人?」


―――神楽坂の前で、特に話すことはない。


「いや、別に。後でいいよ」

「変な健人」


 すると、神楽坂は、健人の事を無視して話を続けた。


―――茜さんまで、俺の事が眼中にないみたいに見える。


「一学期に茜さんが交際宣言をしたんで、俺びっくりしたんだ」

「そうお。驚くことはないと思うけど」

「だって、今まで、茜さんが誰かと付き合ったっていう話は聞いたことがなかったから」

「そうね。ほんとに付き合ったことないもの」

「信じられなかったよ。健人と付き合ってるなんて」


―――何だよ。俺の悪口を言うつもりか。


「健人はいい人よ」

「……うん、まあ、そうかもしれないけど……意外だったんだよね」

「……まあ、確かに意外ではあると思うけど……」


―――まだ、俺の噂を続けるのか。


 いつまでも二人の目の前にいるのもかっこ悪いから、健人は少し離れた自分の席についた。


「もしよかったら、又図書館で勉強しよう」


―――えっ! 


―――図書館で、勉強? 


―――デートのつもりだろうが!


―――聞き捨てならない。


「二人だけで?」

「誰か一緒に居てもいいけど」

「いいわよ。だって、教えてくれるんでしょう?」

「そうだよ。そのつもりだ」


―――あいつは、頭脳を武器にとって、迫ろうとしている。


「じゃあ、明日はどうかな。都合が悪かったら、別の日でもいいけど」

「う~ん、明日。急ねえ」

「どうお?」

「明日は特に用はないから、お願いね」

「よ~し! 話しは決まった。忘れないでね。明日また、いうから。図書館で待ってるね!」


―――なんだ、なんだ、二人で決めてしまった。


―――でも、こんなことで怒っても仕方がない。


 すると、神楽坂は、鞄の中から小さな袋を取り出した。


「これ、茜さんに……」

「な~に?」

「ちょっと、水族館に行ったんで、マスコットを買ったんだ。お土産にね。開けて見て」

「うん」


 小さな袋を開けると、中からはラッコの付いたキーホルダーが出て来た。


「どうかな?」

「わあ! 可愛い~! これを私に?」

「うん、良かったら持ってて」

「ありがとう~~っ!」


―――茜さんは、ああいう物が好きだったのか! 


―――というより、神楽坂のお土産に感動しているのか?


「茜さんに彼氏がいても別に気にしない。幼馴染として、仲良くしてくれれば」

「まあ、そんな優しい人だったなんて、今まで誤解してたかな」

「そうだよ。俺は、そんな嫌な奴じゃない。気軽に声かけてくれよ」

「うん。分かったよ」


―――なんかすっかり、いい雰囲気になっている。


―――まだ、話は終わらないのか……。


「じゃあ、そろそろ朝のホームルームが始まるから」

「あ、ああ、そうね。じゃあ、又ね」


 茜の瞳は、彼の座った座席に向けられていた。ホームルームが終わり、茜の傍へ寄り健人は話しかけた。


「茜さん」

「あら、健人」

「さっきは、楽しそうだったね」

「あっ、ああ、神楽坂の事ね。お土産までもらっちゃった」

「それに、図書館でまた勉強するんでしょう?」

「あれ、聞いてたんだ」

「聞くつもりはなかったけど、聞こえちゃった」

「神楽坂は、幼馴染だから、気にしなくていいよ」


 健人の心配を打ち消そうと言ってくれた言葉だったが、余計に気になってし方がなかった。


―――今日からまた戦いの日が始まるのか!


―――いつになったら、茜さんの愛を手に入れることができるのだ~~!

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