第47話 ライバルは甘~い物が好き

 さらに二時間ほどが経過し、しばらくぶりに勉強したせいか、皆くたくたになってしまった。


「よ~し、だいぶ終わったぞ!」


 神楽坂が伸びをしていった。茜も勉強道具をしまいながらいった。


「今日は、はかどったわ~! 集まって宿題が出来て、よかったあ!」

「そうだね、茜さん。偶然ここで僕に会えてよかったでしょう」

「ま、まあね」


―――わざといることを知っていて来たくせに、そんなことを言っている。


 まきは、嬉しそうに三人にいった。


「じゃあ、約束通り、何か冷たいものでも食べに行こうよ! ねっ、みんな。いいよね!」

「そうだ。健人のおごりでいいんだよな」


 しっかりそういうことは覚えているんだな。


「まあ、行ってみようか……」


―――何をおごらされるのか、行ってみなければわからない。


 パックのジュース一個ずつにしてくれればいいんだが。


「せっかくだから、美味しいもの食べたいな!」


 まきがいった。


―――なぜまきまでが、この話に乗ってくるんだよ。



 四人は駅へ出ると、ビルの中にあるフルーツパーラーを目指した。誰言うともなく、というよりはまきが先頭切って歩いている。彼女の知っている店なのだろうか。店頭には、様々なフルーツを使ったパフェの食品サンプルがディスプレイされている。目にも鮮やかで、いかにも女子が好みそうな食べ物だ。


「ねえ、ねえ、ここどう? 入ろうよ!」


すると、何と神楽坂の目の色が変わった。


「うわ~、うまそうだなあ。ここでいいよな。決まり!」


―――神楽坂も、こういうのが好きだったのか。


―――あとは、茜さんが賛成すれば決まってしまう。


「いいわねえ! 美味しそう! まき、いいお店知ってたね。入ろう、入ろう、健人。いいでしょう?」


―――もう、この時点で反対するだけ無駄だ。


 高校生が奢るには、パフェは大人の値段だった。しゃれた店内には、カップルや、大人の女性のグループなどが多い。高校生の姿はなかった。高校生が学校帰りにちょっと寄るような店ではないことがわかる。


「じゃあ、みんながいいんだったらここに入ろう」


 メニューを見ると、様々なフルーツの盛られたパフェが並んでいる。三人が夢中で、ああだこうだと言いあっている隙に、健人は鞄の中に入っている財布の中身をちらりと見た。ああ、五千円札が入っていた。何とかこれで足りるだろう。


「あたしこのマンゴーパフェがいいわあ! すっごく美味しそう……」


 まきが、指さしたのは、アイスクリームの上に、マンゴーがてんこ盛りになったパフェだった。値段を見ると、千円を優に超えている! メニューの中では最も高価なものだ。


「あたしは、こっちのストロベリーパフェにしようかな。どうかな、健人?」

「あ……ああ、いいんじゃないかな」


 こちらの方がいくらか安いが、やはり千円は超えている。茜さんが食べたいんじゃ、嫌とは言えない。茜さんだけだったら、喜んで奢るんだが……。


「それじゃあ、俺はフルーツあんみつにしようかな。アイスだけじゃなくて、寒天も好きなんだ」

「そうか。おれは……チョコバナナパフェにする」


 これがパフェの中では、最も値段が安かった。選び終わると、まきがカップルの方をちらりと見て、ため息交じりにささやいた。


「あ~あ、あたしもこういう所に彼氏と来たいなあ」

「真紀ちゃんなら、すぐ素敵な彼氏ができるよ」


 珍しく、神楽坂が優しいことを言っている。機嫌がいいから、人にも優しくできると見える。


「だといいんだけど、なかなかねえ」

「まきもそんなこと考えてたんだ」


 茜が意外そうにいった。まきは、いつも屈託がなく、悩みなどないように見えるからだ。まきは、長身でスタイルがいい。スポーツが得意で、男子は誰でも気軽に声を掛けてくる。


「あ~ん、あたしの王子様はどこにいるの~~っ」

「まき、どこかできっとまきの事を見ているよ」


 茜が慰める。それを神楽坂が面白そうに見ていった。


「まきの王子様なんて大変そうだな。よっぽど強いやつじゃなきゃ務まらない」

「そんなことはないよ。繊細で優し~い人だっていいんじゃないのかな」


 健人が、思い付きで言った。全く別のタイプが意外と合うということもある。


「そうね、繊細で優しくって、スポーツも万能な人がいいわね」

「じゃあ、俺じゃないか」


 神楽坂が調子に乗っている。


 話しをしていると、パフェが運ばれてきた。それを見ると、まきは先ほどまでとは打って変わって元気になった。


「わあ、美味しそう! 感激だわ!」 


 皆口々に喜びの声を上げ、スマホを出して写真に収めた。


「今度いつ食べられるかわからないから……」


 まきは、アイスクリームの周りを取り囲んでいるマンゴーをパクリと頬張り、満面の笑みを浮かべた。神楽坂も、あんみつに蜜をたっぷりかけて、食べ始めた。



……しばし、皆無言で至福の時を過ごしていた。

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