第46話 学園の姫と本物彼氏として秘密基地で手を握る
健人はが新聞を持って座席に戻ると、神楽坂の茜への指導は続いていた。彼は得意になって、問題の説明をし、茜は納得して頷いている。
―――楽しそうだな。
―――学校にいると、いつもどこからか邪魔が入る。
―――だけど、同級生だから仕方がないや。
ごほん!
「だからここはね……、それで……、答えはこうなる」
「へえ、そうなの」
ごほん!
「つぎは、これこれこうで、こうなって、……、だから答えは」
「分かった! 神楽坂君、よくわかるわ!」
「そう、その調子! 流石茜さん、呑み込みが早い!」
ごほん!
「おい、健人! さっきから何度も咳払いばかりして、うるさいじゃないか」
「ああ、ごめん、ごめん。気になった?」
「喉の調子が悪いなら、向こうでやってくれよ」
「いや、もう大丈夫だ」
新聞を見ながら、レポートをまとめ、ちらちらと茜と神楽坂の方を見る。神楽坂の得意げな表情を見ると、無性に腹が立つ。茜はそんな健人の方を、たまにチラチラ見るのだが、神楽坂の説明に聞き入っているとそちらに夢中になってしまう。
―――頭のいい奴はいいな。
健人は、神楽坂に冷や水を浴びせたくなった。
「茜さんは、俺の彼女だけど、まあ勉強を教えてくれるのは許す」
そう言ってしまってから、健人は言わなければよかったと、すぐに後悔した。
「今更、何をいってるんだよ。そんなことはとっくに知ってるよ。前に茜さんが健人と付き合うって宣言したじゃないか」
―――ああ、そうだった。
他の連中は、その時から本当に付付き合っていると思っていたから、いまさらそんなことを聞いても誰も驚かないのだ。
―――そうだった。
―――前に彼女が宣言していた。
「だからって、一緒に勉強しちゃいけないわけじゃないんだから、話をしてもかまわないだろう」
「そうだな。ぼ、僕の彼女に勉強を教えてくれてるんだからな」
「そうだよ。感謝してもらわなきゃな」
なぜおまえに感謝しなきゃいけないんだと思ったが、もう言い返すのはやめておいた。すると再び、彼は絶好調になり説明を始めた。健人は、神楽坂に注意した。
「声が大きいんじゃないのか。ここは図書館だぞ!」
「周りに誰もいないじゃないか。君たちがいるだけだ。気にするなよ!」
「向こうの方に生徒がいたぞ」
「だいぶ離れてるから声は聞こえない。随分細かいことを気にする奴だな、健人は。お前みたいに細かいやつと付き合うと大変だな」
しまいには、嫌みを言われてしまった。茜さんが、少し困ったような顔をしていった。
「そんなことはないわよね、健人は。心の広い人よ」
「そ、そうだよ」
「僻みっぽくもないしね」
「そうだよ。その通り!」
茜さんがかばってくれたものだから、神楽坂が嫉妬している。
「そうか。茜さん言うんだから確かだな。よかったな」
「まあな」
そのやり取りを見ていたまきが、呆れていった。
「もう、ぶつぶつ言ってないで、宿題を進めようよ。そのために今日来たんだから!」
まきが、二人をなだめた。その代わりに、話の流れで健人はみんなに帰りに冷たいものをおごることになってしまった。仕方ない、心が広くて、細かいことに気にしない、太っ腹な男でいるのも大変だ。それを聞き、神楽坂は喜んだ。
「じゃあ、帰りを楽しみに、頑張ろう!」
「ええ、もう少しよ!」
茜さんも、それを聞き張り合いが出来たのか、張り切って宿題をやりだした。問題集を一通り終えると、皆レポートに取り掛かった。切りの良いところまで進めると、誰ともなく終わりにしようということになった。
時計を見ると、とっくに昼を回り一時近くになっていた。持参した昼食を食べ、四人は雑誌を見たり、小説をめくったりしていた。健人は茜と一緒に小説のあるソファのところへ行った。
「この場所いいよね。秘密基地みたいで……」
「本当ね。他の場所からは見えないのよね」
「ちょっとここで休憩していよう。あいつらに見つかるまでの間」
「そうね!」
茜と健人は、そこにぴたりとくっついて座った。本物の彼氏という言葉が浮かび、一人でにやりとした。他の人から見れば何も変わらないかもしれないが、自分の気持ちの中では大きな変化だった。
健人は茜の手をそっと握る。まだ、誰にも気づかれてないぞ。
―――しめしめ。
―――茜さんも、疲れたのか、目を閉じて眠そうにしているぞ。
「寄りかかってもいいよ」
「う~ん。つかれちゃったね」
ほんの少しだけ、肩をこちらへ傾けた。
―――甘えたような仕草に見えていいな。
すると……。
「おい、そんなところで何をやっているんだ!」
耳元で、神楽坂の声がして、ほんのしばしの二人だけの時間が終わってしまった。
「さて、あと少しレポートをやったら、健人のおごりが待ってる!」
「分かった、分かった。また始めようか……」
二人は、元の場所へ戻りレポートの続きを始めた。
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