第35話 パーティーにもう一人イケメン現る!
ダイニングルームには、父親の仕事関係の人や友人などが、次々に入って来て席についた。彼らは荷物を部屋の隅へ置き、テーブルにつくと、談笑し始めた。
……その次に、真行寺龍が現れた。
彼は黒のジャケットに、濃紺のパンツをはき、柄の入ったシャツを着ていた。一見ラフに見えるが、実はそういうスタイルの方が、かなり気合を入れてお洒落をしたのだ、ということがわかる。一つ一つが凝っている。
こいつやるなあ、と思っていたら、女の子が一人後ろについてきていた。
―――あれ、彼と一緒に着たのかな。
―――誰だろう?
すると、真行寺は健人の顔を邪魔者を見るような目つきで見て、いった。
「やあ、君か。今日も執事としてきたのかい?」
「いいや、そうじゃない。茜さんの友人として参加させてもらうことになったんだ。お父様からご招待を受けて」
「そうなのか……それで、そんな恰好をしていたのか」
健人は胸を張ってそう答えたのだが、馬鹿にしたような言い方は変わらない。
―――失礼な奴。そんな恰好とは。
「借りてきた衣装で参加か?」
「パーティーだから、新調したんだ」
あからさまに嫌みを言ってきたので、反撃した。
この服をどのようないきさつで手に入れたのか、健人は黙っていることにした。茜さんにのお父さんに買ってもらったなんて、口が裂けても言えない。
「こちらのお嬢さまは?」
「一応紹介しておこう。俺の妹のくららだ。一つ年下の、中学三年生だ」
「中学生の妹がいたのか」
健人は彼女に挨拶した。
「ようこそいらっしゃいました。今日はお寛ぎください」
「ありがとう。茜さんのお友達なの? よろしくね」
彼女は、健人にウィンクした。
―――中学三年の妹か。
―――それにしては大人っぽい。高校生と言っても、立派に通る。
彼女はフリルの付いた白いブラウスに、赤と黒のチェックのミニスカートを履いている。肩まで垂らした黒髪も似合っている。
とても、キュートな印象を受ける。
くららは兄の龍に、囁いた。
「素敵な人ねえ、お兄ちゃん。後で、紹介してよ」
「あんな奴のどこがいいんだ。普段はこの家で執事見習いをしてるやつだぞ」
「構わないわよ。かっこいい! 私のタイプだわ~~」
「そうかなあ。お前の趣味は変わってるな」
―――そうか、こいつのタイプなのか。
龍は、にんまりと心の中でほくそ笑んだ。
家政婦の直子さんが、あらかじめ決めておいた席へ全員をいざない、会が始まった。始めは、形式ばって父親の挨拶があり、乾杯があった。
未成年者たちだけが座る席には、アルコール飲料は置かれていなかった。便宜上分けただけではなく、話しがしやすいように、と考慮して決められた座席だった。
こちらの席には、塁、茜、健人が並び、向かい側には龍、くらら、ゲストの息子で大学生の植松遥斗が座った。大学生の遥斗が自己紹介した。
「僕は茜さんのお父様の友人として招待して頂いた、植松の息子です。大学一年生なので、一番年上かな。気さくに話してください」
茜さんが、彼に気を遣って他のみんなにいった。
「じゃあ、みんな自己紹介しましょうか。堅苦しくならないで、気さくにね」
彼女の采配で、一人ひとり簡単に自己紹介をした。それが終わると、学校の事や趣味の事などを話し始めた。
真行寺は茜さんにばかり話しかけるが、話が途切れたすきを狙って、植松が茜さんに話しかけた。
植松も茜さんに興味深々だ。茜さんも今日の露出たっぷりのドレスを着ていると、大学生とでも似合いそうな雰囲気だ。彼の視線も、ドレスの胸元や両腕に注がれている。
健人もその二人の輪に割って入ろうと、その隙を狙った。
会話しているのか、スポーツをしているのかわからないような混戦状態だ。
「茜さん、もしよかったら、僕と映画でも見に行きましょう」
「えっ、植松さんと」
―――何故そんな話の流れになったんだ?
「映画の話を楽しそうにしていたものだから、僕もその仲間に言えてもらえればうれしいな」
「じゃあ、もし面白そうな映画があったら……」
「僕が見つけますよ。僕のおすすめのは、絶対面白いですよ!」
―――自分の見立てに、余程自信があるようだ。
すると、真行寺が嫉妬心を剥き出していった。
「茜さんは、大学生のような年上の人と一緒だと、寛いで見られないんだよ。ねっ、茜さん。彼女とってもシャイだから……」
すると、植松も負けていない。
「茜さん、そんなふうに見えないけど、本当はシャイなの。可愛いね。そんな茜さんと、もっと仲良くなりたいな」
「まあ、私って、シャイなところもあるかもね……」
―――茜さん、一体どっちの味方なのだ?
真行寺の妹くららが、健人に行った。
「わあ、お兄さんたちいいわね。私は健人君と行きたいわ」
「女の子の方から誘ってるんだ。健人君、何処かへエスコートしてくれよ」
―――龍が妹とグルになっているのか。
―――何たることか。
―――茜さんの前で、他の女子からの誘いを受けてしまった。
「ねっ、健人さん、今度デートしましょう」
「こんなに頼んでるんだ。一度ぐらいいいんじゃないのか」
―――殆ど脅迫じゃないか。
「ぼ、僕は……茜さんと……」
―――付き合ってるんだ!
―――彼氏なんだ!
と叫びそうになったが、茜さんに止められた。
「同級生なのよ」
「そうなんだ!」
植松は、だから何なのだ、という顔をしている。
「じゃあ、ダブルデートしようか?」
「誰と、誰?」
健人は、呆けた顔で訊いた。
―――一体、誰と誰がカップルなんだ!
「五人で行けばいいってことさ」
「はあ……」
龍が情けない声を出した。
みんなで行ったんじゃ、ちっとも面白くない。しかも茜さんには三人の男が付いていて、くららは僕がエスコートしなければならない。
「素敵! まだ中学生だから、それでも十分素敵だわ」
くららは、中学生の表情に戻り、健人に投げキッスを送った。
それから後も、混戦状態の会話は続けられた。茜さんも招待した側として、彼らを無下にはできないのだろう。そんな弱みに付け込んで、二人の男たちのバトルは続いた。
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