第34話 学園の姫のドレス姿に魅了され思わずキスをする

 パーティーは、土曜日に昼食を振る舞い行われることになった。


 健人は、新品のスーツを着て、早めに森ノ宮家に到着した。朝から、招待客の食事を作る厨房では、バタバタと準備が進められている。厨房からは何とも言えない、良い香りが漂ってくる。


 健人はそっと厨房を覗いてみた。


「こんにちは。今日はお手伝いもしなくてすいません」

「いいんだ。今日は茜お嬢さんの友人として出席するんだろう。いいなあ。気にせず料理を食べて楽しんでくれ」

「いつも出されている素晴らしい料理が食べられるなんて、楽しみです」

「ああ、期待していてくれ」


 料理長の緊張した掛け声で、調理人は何種類もの料理を作っていった。座席は父親を中心とした大人たちの席と、若者や子供中心の二つに分けられていた。普段は一つのテーブルを使用していたが、パーティーでは、ダイニングルームのテーブルは二つ使うわれることになっていた。


 かなり早めに来たが、お洒落してきたので、できることはなさそうだった。


―――茜さんは着替え中だろうか。


 二階へ上がり、茜さんの部屋の前で声を掛けた。


「茜さん、準備中ですか?」

「ああ、健人。今着替えてるんだ。ちょっと待っててね」


―――着替え中かあ、茜さんは果たしてどんな服に変身するんだろうか!


 期待を込めてドアを見つめる。じっと待っていると、難前触れもなく、突然ドアが開き茜さんが姿を現した。


「あら、そんなに戸をじろじろ見つめちゃって。怖いわよっ!」

「あああ~~~、御免~~」


 何も言わず急にドアが開いたものだから、わっと後ろへ飛びのいた。


「どう? 今日の服装は?」

「ほお~~」


―――次の言葉が出ない! 


―――奇抜だからというわけではない。


―――全くその逆だ!


―――あまりにエレガントで、魅惑的で、大人っぽくて、高校一年生とは思えない。


―――いっぱしのレディーの出来上がりだ。


「黙っちゃって、どうしたの……」

「う~む」

「あまりよくないのかな? 似合わない?」

「そうじゃなくて、素晴らしすぎて、何と言ったらいいか……」


……そう、言葉が見つからないほど、セクシーだったのである。


 この前来ていたワンピースが十点だとすると、これは八十点ぐらいに相当する。


―――こんなに肌を見せていいのか! 


 健人がじっと二の腕や、胸元を見ている者だから、茜は言い訳じみたことをいった。


「ちょっと肌を露出させすぎよね。お母さんと買いものに入ったら、これを勧められて」


―――勧められたからって、どうして……。


―――胸元が空いて、ふわふわの生地で、袖が肩にちょっとしか乗っかってない、真っ赤な色のドレスを選ぶのだ!


―――眩しすぎて、肌の露出が多くて、全身の血が逆流してしまいそうだ!


―――始まる前から驚いていたんじゃ、エスコートできないぞ。


―――早くこの服装に慣れないと、見る度に焦ってしまうぞ。


「誰に? お母さんに?」 

「店員さんによ」

「店員さんは、売るためには、どんな服でも似合うって言うもんなんだ。セールストークってやつ」

「じゃあ、本当はあんまり似合わないの?」


 茜は、疑いの目で健人を見ている。


―――そんなにじっと見られると困るな。


―――本当は似合いすぎるほど似合っているし、肌の色ともよく調和している。


―――瞳の黒さが赤のドレスの色を引き立てていて、情熱的に見える。


 胸元が空いているから、上から見るとふっくらした二つの胸の膨らみが、強調されている。


……ワイアーが入ったブラジャーは、胸のふくらみを中心部に寄せて、胸の谷間を作るようにできているから、尚更そこが強調されているんだ。


「袖がこんなに小さいのよね」


 茜さんは、申し訳程度に肩にちょこんと乗っている三角形の袖を、片手でつまんだ。


「可愛い袖だね」


 こんなに小さいと、もはや、袖の役割をなしてない。健人には、水着に布を巻き付けたように見える。ちょっと考えすぎかなあ。



 健人の方は上下そろいの紺のスーツ姿に、グリーンの蝶ネクタイをしている。普通のネクタイより、年齢に合っていて、おしゃれで可愛い、という茜さんの意見で選んだものだ。


 髪の毛もほんのり栗色の染めて、さらりと横に流している。


「健人もかっこいいよ!」


 お世辞ではないと信じて、その言葉に気をよくして、健人は茜に手を差し出した。


 茜はその手をぎゅっと握って健人の傍へ寄る。体をくるりと回転させ、ポーズを取った。健人は茜の手をくいッと自分の方へ引っ張ると、再接近した。


―――近いっ! 


 すると、茜の顔が真正面に来て、健人の唇にチュッとキスした。


「茜さんっ! 悪戯が過ぎますよっ!」


 茜さんはおどけたようにちょこっと体を離した。へんなダンスをしているような体勢だ。


「今日は、執事じゃなくて彼氏だからね」


―――ということは……。


 今度は健人の方から腕を引っ張りくるりと体を回転させ、茜の唇にチュッと自分の唇を寄せた。


「彼氏の証です」

「あれ、あれ、そう言うこと」


 茜さんは今度は焦っている。


……今度は、二人一緒に唇を寄せてキスをした……。


「もう終割にして、そろそろ行こうか」

「そ、そうだね、お客さんを待たせちゃいけないから」


 二人で、ダイニングルームへ行き客人が来るのを待った。健人の胸は高鳴ったままだった。

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