第21話 健人思いがけない人からのキスでビビりまくる

 食事を終えて水をグイっと飲みながらまきが言った。


「この六人で食事するなんて、今までなかったわよね、みんな。でも、案外楽しかったじゃない。午後は六人で遊ぶっていうのはどうお? ねえ、ハジメもいいでしょ?」


 男子数人と回っていた大月ハジメは、そちらをちらりと見たが振り切って答えた。


「いいよ、俺は。今日はあいつらと一緒じゃなくてもいいよ」

「そうよね、みんないいでしょ?」


 茜は健人やひとみの顔をちらりと見ながら頷いた。


「そうね、そうしようよ、健人とひとみちゃん、それからマコトもいいでしょ」

「俺は……まあいいけど。たまにはこの顔ぶれもいいだろう」


 本当は茜と二人きりがいいのだが、まきの提案で午後からは六人が一緒に遊ぶことになった。


「さて、人数が増えたことだし賑やかな所に行こうよ。ティーカップなんてどうお?」

「うん、いいねえ」


――なぜか篠塚が真っ先に賛成した。


 歩きはじめると相変わらず茜のそばをうろうろしている。今日はとことんくっついているつもりらしい。かくいう健人にもひとみがくっついているので、自然にそうなってしまっていた。そうなると必然的に図体のでかい大月ハジメと、体育会系の新堂まきが残った組み合わせということになる。遊園地の乗り物は大抵二人並んで乗るようになっているから、男女の組み合わせの方がカップルっぽくっていいと思う輩も多い。まきが大月ハジメに向かっていった。


「じゃあ、あたしたち一緒に乗ろうか、ハジメ」

「そういうことになるかな」


 ハジメも、そうなると思っていたようで納得していた。案外この二人も気が合うのかもしれない。と健人が思っていると背中をポンと叩かれてまきが顔を近づけてきた。


「じゃあ、二人ずつに分かれて乗ろうか」

「ああ、面白そうだ」


 マコトと茜、健人とひとみ、ハジメとまき、という組み合わせでカップに乗り込んだ。ハジメは動く前からハンドルを握ってしまい、ぐるぐるまわしている。小学生のようだ。


 軽快なリズムの音楽に合わせて六人を乗せたカップが動き始めた。健人はひとみとテーブルを握り少しずつ回していった。カップ自体の動きもあり、少しでも回すと回転はさらに大きくなった。


「うわ~~、やっほ~~」

「わあ~~~、ぐるぐる回る~~~う。目が、回る~~」


 結構回っているなと思い、手を離した。するとちょっと物足りない位になり、再び回してみた。ハジメの乗っているカップを見ると、二人でぐるぐる回しているせいか、急回転していて二人とも髪の毛を振り乱している。顔もよく見えないようなありさまだ。後で気持ち悪くなるだろうな、と思いながら茜の方へ視線を向けた。


「ちょ、ちょっと、ちょっとお。回しすぎじゃないの、マコト! もっと優しく回してよ!」

「そうお、僕は大丈夫だけど。じゃあ、優しく回すよ」

「マコトったら、はしゃぎすぎよ」

「キャッホウ! ご機嫌だぜ!」


―――篠塚のテンションは半端ではない。


―――これでもかというぐらいはしゃいでいる。


―――よっぽど嬉しいんだろうな。


 自分がいなければ、きっと茜さんに猛烈にアタックしていたことだろう。マコトの積極性に自分は対抗することができるのだろうかと、少々自信が無くなってくる。


「どうしたの? 健人君」

「あ、ああ。もっと回そう」


―――ぼーっとしていたら、ひとみさんに名前を呼ばれてふと我に返った。


 再び回転し始めると、周囲はぐるぐる回りだし、魔法に掛けられた世界のように見えてきた。ひとみとまるで別世界にいるような気分だ。そんな刺激も音楽の終了と共に終わり、乗っている人たちは満足げな顔をして立ち上がった。


「面白かったねえ、茜さん」

「ええ、まあ。マコトったら回転しすぎよ」

「そうかなあ。今日は本当に楽しい、実に素晴らしい日だ」

「まあ、調子いいわね」


―――大月ハジメたちも大喜びだ。


「スゲー回転したなあ、新堂さん」

「あんなにぐるぐる回してるんだもん、当たり前でしょ」

「アハハ、面白かったゼ」

「うわ~、目が回った。くらくらするわ。次は観覧車に行ってみようよ」

「賛成~! みんなどうする?」


 二人の勢いに押されて、次は観覧車に乗ることになった。


―――かなり高いところまで行くけどひとみちゃんは乗れるのだろうか。


「ひとみちゃん、観覧車は乗れる? かなり高い所まで登るけど……」

「あれなら大丈夫。ゆっくり上るから」


まきが、ひとみにいった。


「ジェットコースターほど怖くはないわよ。体がぐるぐる回るわけじゃないから」

「うん。乗ってみる」

「健人が付いていれば大丈夫でしょ」

「そうね、えへへ……」


―――今日は一日ひとみちゃんのエスコートをすることになってしまった。


―――最初の出だしが悪かったから仕方ない。


―――ひとみちゃんの方は思わぬ助っ人ができてうれしそうだ。


 


 歩くこと五分程で観覧車の乗り場についた。篠塚はここでも茜さんの傍にくっついて歩いている。茜さんがゆっくり歩くとそれに合わせ、急いで前を行こうとするとくっついていく。


 元気よく先頭を切って歩いていた大月ハジメと新堂まきが一番前に並んだ。次に篠塚と茜が、高いところだとしり込みをしていた健人とひとみが最後になった。


―――観覧車って、個室だから全くの二人きりになってしまうんだよなあ。


―――茜さん大丈夫だろうか。


「あのさ、茜さん。一緒に四人で乗らない?」


 すると、篠塚が後ろを向いて睨みつけてきた。


「二人ずつでいいだろ。なんか文句あるのか?」


―――茜さんの返事など聞いちゃいない。


 いつの間にか順番が回ってきて、茜さんの返事を待たずにさっさとつれて行ってしまい、別々に乗ることになった。


 篠塚と茜さんは二人向き合って座っていた。その次の車両に僕とひとみちゃんが乗り込んだ。


 ひとみちゃんと向き合って座ると、ミニスカートの膝小僧が気になるのか、膝をぴったりと合わせている。少し緊張気味の様子に、こちらまで緊張してきた。


「そんなに揺れないから、心配ないよ。観覧車はちゃんと軸について回ってるんだから」

「そうよね。今日は色んな乗り物に乗れたわ。健人君と同じ班でよかった」

「そうだったね」


 休んでいる間に決まっていた班だったが、個性的な連中ばかりで楽しかった。乗り物に乗るのもこれで最後か、頑張って乗ってもあと一つぐらいだろうなと思う。


「ドンドン高くなっていくね」

「うん。いい眺めだね。他の連中が小さくなっていく。ミニチュアの世界みたいだ」

「遠くの方まで見えるようになってきた」

「うわ~、天気がいいから富士山が良く見える」

「えっ、どこどこ」

「ひとみちゃんの後ろに、ばっちり見える」


 ひとみは後ろを振り返り、驚いている。


「わあ~~~、近くに見える!」


 もう一番上に来ているようだ。立ち上がり、良く見えるように健人の隣の席に移動してきた。ぐらりと観覧車が揺れたような気がした。


「高い、高~い! わ~ん、目がくらむ~~。本当に富士山が良く見える」


 健人はひとみの手を掴んで隣の席に座らせた。観覧車は下降を始めた。上っている時に比べると地上に近づいている分恐怖心は薄らいでいた。


 降りはじめると、斜め下に茜たちの乗った観覧車が見えて、二人が向き合っているのがわかった。篠塚が身を乗り出して、何やら話しかけているようだ。手を出したり妙なことはしていないようで安心した。


「健人君……」

「何?」

「健人君と友達になれてよかったな」

「うん。僕も」

「これからも仲良くしてね、よろしく」

「うん……まあ」


 隣を向いて返事をしようとしたその瞬間……


 ……ひとみは健人の頬にキスをした。


「えっ!」


 という反応をしてしまった。驚きの反応だった。しかし、ひとみは地上に近づくと自分の席に戻り、何事もなかったかのように健人の方を向いた。


 茜たちが降り、もう自分たちが降りる番になった。


―――誰にも見られてないだろうなあ! 


 焦りながら健人は下へ降りた。


 誰も何も気がつかなかったのか、楽しそうに声を上げている。


「観覧車に乗ったの、久し振りだよな」


ハジメがいった。


「そうね。小学生の時以来かな。私も」


 まきが大きく伸びをしている。茜の方を見ると、篠塚と話し込んでいる。ハジメはまだ元気よくみんなに声を掛けた。


「あと一つしか乗れないぞ。ゴーカートに乗ろうぜ」


 結局その一言で皆はゴーカートに乗ることになった。最後の最後まで遊んで、出口で先生のチェックを受けて帰ることになった。


 帰りは私鉄に乗り、途中で乗り換えてJR線で帰った。ここから近いという篠塚を残しJR線まで残りの五人で帰ったのだが、日頃見られない姿がお互いに見ることができ、みんなの距離がだいぶ縮まったが、これからまた一波乱起きそうな気がした。健人はひとみがキスした頬にそっと手を触れた。

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