出会った美少女は借金まみれ(その2)

「えっと、魔王を討伐するって言ったよな?」

「その通りよ」

「いったいどうやってするつもりなんだ? 何か策というか当てはあるのか?」

「当然じゃない。何のために10億エンスの借金をしたと思っているのよ」

 テッサは自信満々に説明を始めた。

「まず最高に速い宇宙船を用意してあるわ。その名もカラマリ号。銀色の美しい船よ!」

 言いながらテッサはタブレットを操作して、空中にホログラムを表示させた。これがテッサの言うカラマリ号なのだろう。流線型のスマートなフォルムの宇宙船が青白い光によって表現されていた。

「この船があれば魔王をどこまでも追いかけられるわ。これでもう、この銀河に魔王の安息の地はないも同然ね。そして魔王を追いつめたら今度はこれの出番よ!」

 そう言ってテッサは背中に装備していた剣を引き抜いた。

「これそこ魔王を討伐せし伝説の剣、その名も聖剣エリュシオン! これを使えば魔王なんてイチコロよ!」

「おお、そんなものが!」

 聖剣エリュシオン。それはシンプルなデザインの剣だった。

 ……って、ちょっと待て。

 俺はテッサが掲げた剣に違和感を持ち、目を凝らした。

 いや、本当のことを言えばよく見なくても分かる。

 その剣の素材は、金属ではなかった。

 黄色い剣身は円柱形に伸びていて、やわらかそうに見える。

 まあつまり、サクッと結論を言うとだ。

 聖剣エリュシオンは、どう見てもチャンバラごっこで使うような、おもちゃの剣だった。

「……おまえ、それが本当に聖剣だと信じているのか?」

「当たり前じゃない。だってこの剣、4億エンスもしたのよ?」

「おもちゃの剣が4億エンス!?」

「おもちゃとは失礼ね。いい? この剣は著名な起業プランナーの紹介で買ったのよ。それが偽物なわけないじゃない」

「ちょっと待った……。おまえ事業計画も著名な起業プランナーに指導してもらったとか言ってなかったか?」

「言ったけれど?」

 この時、点と点が繋がった。

 魔王討伐という無謀な事業計画。

 おもちゃの聖剣エリュシオン。

 そして、それらを指導した『著名な起業プランナー』。

 ……。

 真実はいつも一つ!

「お前、その起業プランナーとか言うやつ騙されてないか?」

 俺がそう言うと、テッサはムッとした表情になった。

「なんてこと言うの。彼はお金に困っている私に、『簡単にお金を稼げる方法がありますよ』って親切に教えてくれたのよ?」

「完全に詐欺なやつじゃねえか!」俺は確信して言った。「その自称起業プランナーはおもちゃの剣を売りつけるためにテッサに近づいたんだよ。お前はお金欲しさにその口車に乗っちまったんだ!」

 だがテッサは寂しそうな顔で言った。

「みんなそう言うのよね、魔王を倒せるはずがないだの、騙されているだのって……。どうして無理だって決めつけるのかしら? 夢は追い続けた者にしか叶えられないというのに、どうして止めようとするの? 本人は常識のある賢い大人のつもりかもしれないけれど、私からしたら人の努力をバカにするだけの口だけ人間よ。そんな無責任な言葉、私は耳を貸さない。私は信じたこの道を進み続けるわ」

「テッサ……」俺は彼女の肩に手を置いてしんみりと言った。「悪かったよ。もうこんなことは言わない。そこまで言うのなら信じたその夢を追い続けるがいいさ。ただし、一人でな!」

「何それ? 私のクランに入らないって、そう言いたいの?」

「当たり前だ。おもちゃの剣を振り回すクランに誰が入ろうと思うんだよ!」

「はあ? 何よ、困っていると思ってせっかく声をかけてあげたのに!」

「とか言って、どうせ誰も入ってくれないから仕方がなく俺みたいなやつに声をかけたんだろう?」

「そ、そんなことないわよ。追いつめられている人なら簡単に入ってくれるだろうなんてそんなやましい気持ち、これっぽっちも持っていないわ」

「心の声がだだ漏れなんだが!?」

「そんなこと言わないでお願いしますタツル様、私のクランに入ってください!」テッサが態度を急変させた。「魔王を倒すには私を含めて4人の仲間を集めるべしってオドのお告げが出ているのよ! だからどうしても4人集めたいの! だからおーねーがーいー!」

「なんだよオドのお告げって。ここに来てますますヤバイ臭いが増したんだが!?」

「わ、分かった。だったら一週間待ってあげる。そのあいだによく考えて決めたらいいわ」

「いや、だから断るって……」

「一週間! 待つから! よく! 考えて! 分かった!?」

「分かった! 分かったから離れろ! 顔が近い!」

 俺より25センチくらい背が小さいテッサは、一生懸命背伸びをしながら俺に迫っていた。

 端から見たらその仕草は可愛かったかもしれないが、テッサの表情を目の前で見ていた俺には恐怖でしかなかった。

「よろしい」テッサはやっと俺から離れた。「じゃあ一週間後にまたここに来るから、その時にいい返事を聞かせてよね。絶対によ。逃げたら許さないからね!」

 そう言うとテッサは店から出て行ってしまった。

 店内は嵐が過ぎ去ったかのように静かになった。

「なんだったんだ今のは……」俺は半ば放心しながら呟いた。

「なんだったんでしょうね……」それに応えるように店員さんが後ろで言った。

 なんかよく分からない子に目をつけられてしまった。

 これ以上は関わらないようにしたいものだが……。

 そんなことを考えていると、やがて店員さんがぼそりと言った。

「タツルさんに紹介できるもっとマシなクラン、探しておきますね」

「……はい、よろしくお願いします」

 俺は妙な疲れを感じながら、店員さんに頭を下げた。

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