クランの面接を突破せよ
翌日、俺は再びランナーズストアに訪れた。
ちなみにだけれど昨晩は野宿だ。食事は昨日学校で食べた昼食を最後に何も食べていない。水だけは街に噴水があったのでそれを飲んだ。
つまり、今のところ俺は完全に無職のホームレスだ。
こんな生活長くは続けられそうにない。なんとしてもどこかのクランに入れてもらわなければ。
俺は気合いを入れてランナーズストアに入店した。
「紹介できるクランが見つかりましたよ!」
カウンターに行くと昨日と同じ店員さんがにこやかに言ってくれた。
「本当ですか!?」
「ええ。先方のリーダーさんが一度お会いしたいと言っています。タツルさんのご都合がよろしければすぐにでもということですが、いかがいたしますか?」
「よろしくお願いします!」
俺はさっそくそのリーダーという人と会うことになった。
場所はランナーズストア店内の一室。
緊張しながらその部屋で待っていると、やがて男性が姿を現した。
「やあ! 君がタツルくんで間違いないかな? 僕の名前はシューゾ。クラン『バーニグライフ』のリーダーだ。よろしくね!」
その男性はにっこりと笑って言った。
種族はどうやら俺と同じヒューマン。
そして熱血なタイプの人のようだった。
「はい、よろしくお願いします」
差し出された手を握ると、シェーゾさんは俺の手を強く握った。
面接開始。
「いやあ、話は聞いたよ。何もできないのにスペースランナーになろうとしているんだって?」シェーゾさんが言った。
「あ、はい。恥ずかしながらその通りです」
「いやいや、恥ずかしいことなんてないさ。僕はそういう向こう見ずでまっすぐな若者が大好きなんだ。まだできないことに挑戦する姿勢。僕はそこを高く評価するね!」
「あ、ありがとうございます!」
「ところでタツルくん、出身の星はどこだい?」
「えっ? 出身?」
「いや、誤解しないでくれ。別に出身の星によって採用・不採用が決まるわけじゃない。ただちょっとタツルくんが緊張しているみたいだから、雑談でもしようかと思っただけだよ。それで、どこなんだい?」
「えっと、地球です?」
「チキュウ?」
「はい」
「それはまた聞いたことのない星だな。国名で言ったらどこなんだい?」
「日本って言うところなんですが……」
「ニホン?」
その瞬間、シェーゾさんは険しい顔をして立ち上がった。
「タツルくん、ふざけているのかい? そんな星も国もこの銀河にはないじゃないか」
「いや、でも……」
「タツルくんにはがっかりしたよ。僕は能力で人を判断しない。そんなものはあとから伸ばせばいいと思っているからだ。だけどね、平気でウソをつくような人。これはダメだ! まっすぐじゃない! そんな人を僕のクランに入れるわけにはいかないな! 悪いけどこの話、なかったことにさせてくれ」
「ちょ、ちょっと待っ……!」
しかし俺の言葉は届かず、シェーゾさんは部屋から出て行ってしまった。
俺は呆然としたまま部屋に佇んだ。
「ええええええええええ?」
俺は無意識に、そんな声を発してしまった。
「面接はどうでしたか?」
受付のある部屋に戻ると、店員さんが訊ねてきた。
「いや、ダメでした」
「そうですか。それは残念……。でも紹介できるクランはまだまだたくさんあります。元気を出してください!」
「は、はい。ありがとうございます」
俺は意気消沈しながらそう答えた。
その翌日、再びランナーズストア。
「紹介できるクランが見つかりましたよ!」
受付に行くとやはり同じ店員さんがにこやかに言ってくれた。
「本当ですか!?」
「ええ。今からお会いになりますか?」
「よろしくお願いします!」
昨日と同じやり取りをして、昨日と同じ部屋で待つ。
するとやがて、男性が姿を現した。
「お待たせしてすみません。私の名前はウキョン。クラン『アインボウ』のリーダーです。どうぞよろしく」
その男性は静かに言った。
種族はヒューマンではなく、青い白い肌に大きな黒い目を持っていた。
そしてクールなタイプの人のようだ。
「よろしくお願いします」
シェーゾさんと違ってウキョンさんは握手を求めず、静かに席に座った。
面接開始。
「さて、さっそくですがいくつか質問をしますのでお答えください」ウキョンさんが言った。
「分かりました」
「では始めます。タツルさんの種族はヒューマンで間違いないですか?」
「はい」
「スペースランナーは未経験とのことですが、今まではどんな職業を?」
「学生をしていまいた」
「ほう。なんと言う学校ですか?」
「えっと……、三田東高校というところに通っていました」
「ミタヒガシ。それはまた変わった名前ですね。どの星にあるのでしょう」
またこの展開か!
どうする、どうするの俺?
「そ、それは……」そして俺は陽気に言った。「秘密です♪」
「は?」
ウキョンさんの反応で盛大に滑ったことが分かった俺は、慌てて付け加えた。
「い、いや。言えないこともあるんですよ。個人情報っていうか、ねえ?」
「あのですね、タツルさん。私はクランメンバーの命を守るために、一人一人の正確な情報を把握しておきたいのです。それにご協力いただけないのであれば、タツルさんをクランに入れるわけにはいきません。分かってくださいますね?」
「は、はい。分かりました。正直に言います。決してウソじゃないですよ? 三田東高校があるのは、地球という星です!」
「ふざけるな! そんな星があるものか!」
やっぱりこうなるのか!
俺が心の中でツッコミを入れているあいだに、ウキョンさんは席を立ってしまった。
「ウソの情報を垂れ流すなど言語道断。申し訳ありませんが、この話はなかったことに」
そう言うとウキョンさんは部屋から出て行ってしまった。
俺は呆然としたまま部屋に佇んだ。
「どうしろっちゅうねん」
俺は無意識に、似非関西弁を発してしまった。
「どうでしたか?」
受付のある部屋に戻ると、店員さんが訊ねてきた。
「いや、ダメでした」
「そうですか。でもまだまだクランはあります。くじけず頑張りましょう!」
「は、はい。ありがとうございます」
俺は意気消沈しながらそう答えた。
その翌日、再びランナーズストア。
「紹介できるクランが見つかりましたよ!」
受付に行くとやはり同じ店員さんがにこやかに言ってくれた。
昨日と同じやり取りをして、昨日と同じ部屋で待つ。
するとやがて、女性が姿を現した。
「こんにちは。あなたがタツルくんね。私はミネフ。クラン『ルパルニア』の社長よ」
その女性はチャーミングに言った。
種族はヒューマンではなく、頭の一部がポニーテールのような形に伸びていた。
そしてセクシーなタイプの人ようだ。
「よろしくお願いしま……!?」
ミネフさんは俺にハグをしたかと思うと頬にキスをしてきた。
「よろしくね、タツルくん」
ミネフさんはウィンクをして言った。
面接開始。
「あなた、ひょろいと思ったけれど意外と筋肉付いているのね。何かスポーツでもしているの?」
「あ、はい。バスケ部に所属していたので」
「あら、いいじゃない。バスケは私も好きよ。と言っても私の場合は見るの専門だけどね。ところでタツルくん、年齢はいくつなのかしら?」
「17歳です」
「ふーん。体つきも顔も悪くない。今からでも磨けばいい男になりそうね」
「はあ……」
「たまにはまっ白な男の子を私色に染めていくのも楽しいかもしれないわね。うん、決めたわ。あなた、うちで雇ってあげる」
「ほ、本当ですか? 出身の星とか聞かなくて大丈夫?」
「別にいいわよそんなの。それに秘密がある男って魅力的じゃない?」
「な、なるほど!」
「それで、私たちのクランの主な活動場所はラーグなんだけれど、それは大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です!」
と、舞い上がって言ってしまってから俺は店員さんの言葉を思い出した。
クランの中にはひどい労働条件で働かせるところもあるんです。だから注意しないと。
その瞬間俺は、頭によぎっていた疑問を口にしてしまっていた。
それがトリガーだとも知らずに。
「あの、すみません。ラーグって地名ですよね? どんなところなんですか?」
「え? ラーグを知らないの?」とミネフさんが言った。
「あ、はい」
「じゃあ、エンシャントは?」
「分かりません」
「まさか、コントラルを知らないってことはないわよね?」
「すみません……」
それを聞いたミネフさんは大きなため息をついた。
「ごめんなさい、タツルくん。私が選ぶ男にはひとつだけ譲れない条件があるの」ミネフさんが立ち上がって続ける。「それは教養。いくら顔がよくても教養がない男は絶対にダメ。それで言ったらあなたは教養どころか、一般常識すらないわ。銀河の中心都市コントラルを知らないなんて信じられない! そんな男をクランに入れたら私の品性まで疑われるわよ! 悪いけどこの話、なかったことにしてちょうだい」
そう言うとミネフさんは部屋から出て行ってしまった。
俺は呆然としたまま部屋に佇んだ。
「いい男になるのって大変なんだなあ……」
俺は無意識に、場違いな言葉を発してしまった。
こんな感じのやり取りがしばらく続いた。
「カワサキ市? どこですかそれ?」
「スマートノートは使える? え? スマートノートが何かわからない?」
「変わった服を着ているわね。ウニクロ? 何そのブランド」
「スワンプオールスターズってバンド知っているよな? はあ? 知らねえの?」
「異世界転移して来た? 君、アニメの見過ぎじゃないかね?」
別の世界から来た俺の素性はかなり怪しく映るらしい。そのうえ俺はこの世界の常識をまったく知らなかった。彼らからしたら俺は何の能力もないうえに、まともな人間ではないのだろう。そんな俺を雇ってくれるクランは、なかなか見つからなかった。
「悪いけど、この話はなかったことに」
俺は採用試験に落ち続けた。
そうこうしているうちに異世界に来て一週間が経った。
たぶん俺は、採用試験を20連敗くらいしたと思う。
俺はもう限界だった。
精神的に、ではない。
たしかに精神的にも来るものがあったが、それよりもっと深刻な問題があった。
肉体的限界である。
「め、飯……。何か食べるものを……、おくれ……」
そう、俺はこの一週間ずっと野宿で、しかもほとんど食事を口にしていなかった。前に言った通り噴水の水を飲んでいたのでなんとかここまで生命を維持してきたが、それもそろそろ限界のようだった。
「もう、ダメかもしれない」
俺はランナーズストアのテーブルに顔を突っ伏して呟いた。
もう疲れたよパトラッシュ……。
さようなら、異世界。
俺も異世界ものの主人公みたいに、おいしい生活がしたかった。
だけどそれは儚い夢。
家族のために社畜として働いてくれた、お父さん。
毎日料理を作ってくれたりサボったりしてくれた、お母さん。
こんな俺と仲良くしてくれた、学校の友達。
ごめんなさい。
そして、ありがとう。
俺は異国のこの地で朽ち果てます。
万が一そっちの世界に異世界転生することがあったら、また会おう。
約束、だぜ。
そんな風に走馬灯のようなものを思い描いているその時だった。
おいしそうな肉のにおいが俺の鼻を刺激した。
俺は欲望に従って顔を上げた。テーブルの俺の目の前に唐揚げの乗った皿が置いてあった。においに刺激されて俺の腹が大きな音を立てる。その瞬間俺の食欲が暴走を始めた。ああ、食べたい! この唐揚げに思いっきりかぶりつきたい! 俺は誰のものとも分からないその唐揚げに手を伸ばした。だが皿は対面に座る何者かによって遠ざけられてしまい、伸ばした手が唐揚げに届くことはなかった。
ああ、唐揚げ……。
いったい誰だ、こんな意地悪をするのは……。
俺は対面に座る人物に目をやった。
それは一週間前に出会った美少女。
10億エンスの借金を持つクランのリーダー。
テッサだった。
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