第6話

 カフェでは、ほとんど待たずに席に座ることができた。

「すげーおいしそう!」

「うん!ねぇ見て!『キャラメルとビスケットのアイスクリーム』だって」

「なにそれ食べたい!あっなんかでっかいマカロンがある!」

「えっ、なにそれ気になる」

 たっぷり時間をかけて、それぞれ一つずつスイーツを選んだ。セットでドリンクも頼み、商品が届くのを待つ。

「今日楽しかった?」

「ええ、ものすごく」

 連れて来てくれた本人に「つまらなかった」なんて言う大人はそうそういないんじゃ、と思わないわけでもないが、尚央はあまりそういうことを考えない。やりとりをするなかで気付いたことだ。

 でも、わたしが楽しかったのは事実だし。

 そもそも柚葉は、楽しくなかったとしたら「ものすごく」なんて表現は使わない。返事は「うん」がいいところだろう。そのことに尚央は気付いているだろうか。

 気付いてほしい、なんてね。

 今まで、柚葉のそのような性格を見抜いた男性はいない。そこまでの時間を一緒に過ごしたことがある男性はいない、とも言えるかもしれないが。まず、多くの時間を共にするような仲にならない。“リアクションがつまらない女”にそう何度も話しかけてくる男はいないのである。

 「つまらないのはわたしじゃなくてお前の話だ!」中高生のときはそう思っていたが、いかんせん多すぎる。話のつまらない男が。それに、多くの女子(というか人間)はつまらない話にもそこそこ楽しげに相槌をうてる。当時は「じゃあ噓をつけってことか!?嘘つきがいいってことか!??」とキレていたが、今はぼんやりと思う。あれが女子力だった。要するに、彼女たちは男を楽しい気持ちにさせるのが上手だった。

 そりゃそうよねぇ。誰だって話してて楽しい方がいいに決まってるわよねぇ。

 柚葉もそれに気づいてからは多少変わった。が、気付くのが遅すぎた。恥ずかしいのだ。モテるためには必要なものだと学んでしまっているが故に。

 でも、もしかして気付く機会がない……?

 なぜなら、尚央といるときはいつだって面白いし、楽しい。

 じゃあ、もしつまらないときが来たら?

 一気に冷めてしまうかもしれない。自分も、尚央も。尚央が一緒にいたいのは楽しげに笑うわたしだけだろうか。わたしのことを、全然違う性格だと勘違いしてはいないだろうか。

 尚央には好かれていると思っていた。今だって思っているけれど。

 好かれているのは本当のわたし?

 なんだかコーヒーが飲みたくなった。

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