第5話
何駅分か電車に乗り、駅からバスに乗って到着した工場は、柚葉の予想とはかけ離れていた。西洋風の建物は、お城にも見えなくはない。中に入るとふんわりと甘い香りがした。どうやらここは洋菓子の工場のようだ。柚葉を連れて、なにやら受付を済ませた尚央はパンフレットを差し出しながら言った。
「まだ時間があるから先にショップでも行く?色んな種類の洋菓子が売ってるらしいよ」
柚葉は逡巡することなく頷いた。
ショップには、今まで見たことがないくらいの種類と数の洋菓子が並んでいた。柚葉のテンションは爆上がりしたが、どれを買おうか、と商品を眺めているうちに少し冷静さが戻ってくる。
来たばっかりなのに沢山買ったら荷物になるな。これから何かやるっぽいし。噓でしょ……。こんなに美味しそうなお菓子が色々あるのに買えないなんて!
熱が冷めるのを感じながら、せめて目に焼き付けようと商品を凝視していると、少し離れた所でお菓子を見ていた尚央がやってきた。
「思ったより食べたいの沢山あるし、また帰る前にも寄っていいかな?」
「……!うん、いいよ」
「ありがとう」
なんでもないように答えた柚葉の脳内では拍手が鳴り響いていた。
そのまましばらく洋菓子を物色していると、尚央から声が掛かった。
「そろそろ時間になるから行こうか」
少し名残惜しく思いながらも、表情にはおくびにも出さずにその場を離れた。
尚央が受付していたのは工場見学ツアーだった。他の参加者と共に、ニコニコしながら説明してくれるお姉さんについていく。“自分だけのオリジナルマドレーヌ”も作った。なかなか聞くことのできない裏話を聞くのも、機械が規則的に洋菓子を作っているのを見るのも楽しかった。横の尚央も楽しんでいるようだった。最後に自分のマドレーヌを受け取り、ツアーは終了となった。
「どこかでお昼を食べようか」
時計を見ると、お昼のピークをちょうど過ぎたくらいの時間だった。この工場はもともと商業施設のような位置付けらしく、食事をできる場所が何か所かある。柚葉には、その中で一つ気になっている店があった。
「ここに行ってみたいんだけど……。どうかな?」
そこは、この工場で作られている洋菓子を使ったスイーツが食べられるカフェで、パスタやサンドウィッチがあるにはあるが、やはりメインはスイーツのようだった。男の人はあまり行きたくないんじゃ……という考えから、提案する声は恐る恐るといった感じになってしまった。
「いいね!俺もちょっと気になってたんだよね」
柚葉の心配をよそに尚央は乗り気なようで、柚葉はつい笑顔になった。
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