第3話

「あんまり期待しない方がいいんじゃない?」

 桜子が机に肘をつけながら言った。

「どうせ、とんでもなく大きな期待してるんでしょ。」

 そう、している。尚央にも、これからの尚央との関係にも。

 よくわかっていらっしゃるわ……。

 桜子は、中学校のときからの親友で、柚葉が抱く「いつか運命の恋人が、わたしだけの王子様が」なんていう、職場の人間には誰にも言えないような想いを知っている数少ない人間だ。その、高すぎる理想とも言える幻想のせいで、柚葉に恋人ができたことがないのもこの親友は知っている。

「仮に、運命の恋人がいるとしてもよ?その人の全てが大好き、なんてことはないと思うよ。」

 そんなことを言いながら、フライドポテトをつまむ桜子の左手の薬指には光る指輪がある。高校生のときから付き合っていた彼氏と二年前に結婚していた。ほとんど何も言わないからそこそこ上手くはいってるんだとは思っていたけれど。

 まさか結婚しちゃうなんて思わなかった。

「桜子は旦那さんのこと大好きじゃないの?」

「いや、好きだけどね。やっぱり価値観が合わないことはあるでしょ。」

「そういうときはどうするの?」

「許せるようなときは受け入れて、許せないときは言う。言って向こうがわたしに合わせてくれるときもあるし、お互い譲れないときは話し合う。そういうときは大体二人とも妥協して解決かなー。」

「うーん、そういうもん?」

「そういうもんだよ、結婚は。」

 尚央と自分が対等に話合いをしている姿が想像できずに、柚葉は首をかしげた。

「だからさ、そんなに完璧を求めずに、楽しんでみればいいじゃない。」

「そうかなあ……。」

「そうだよ!というか、まだ付き合ってもいないでしょ。」

 そう、あの日以来、スマホでやり取りはしているものの一度も会っていない。その内容も、恋愛要素はほぼほぼゼロの、どちらかと言えば友だち同士のやり取りだ。

 うーん、どうやってここから進展するの……?

 恋愛経験が少ない柚葉にとって、この問題の難易度は星三つだった。

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