第三十五話 エメはアダンの弟子になった

 アダンは当然のように、エメとエルヴェのテーブルに同席した。持っていた杖をテーブルに立て掛けて椅子に座る。

 エルヴェはその杖を見て、息を呑んだ。エメの買い物に一緒に行って、装備品のアドバイスをしながら選んだ杖だった。エメは杖を手放しても平気だということだろうし、貸したのか譲ったのか、ともかく装備品を渡せるほどに信頼している相手なのだろう。


「アダンさん、お帰りなさい。どうでしたか?」

「時間かかった、面倒クセェ」

「お疲れ様でした。アダンさんに相談したいことがあってですね」

「あー、はいはい、ここじゃマズいだろ、後で部屋でな」


 エルヴェは胸がじくじくと痛み始めるのを感じながら、ぼんやりと二人のやり取りを眺めていた。アダンは随分とエメに対して気安そうだ。

 アダンがちらりとその鋭い目付きをエルヴェに向ける。


「で、誰?」

「エルヴェさんです。冒険者だった時にしばらく同じパーティで、いろいろと親切にしてもらったんです。わたしが冒険者だった時の楽しい思い出は、ほとんど全部エルヴェさんのパーティでのことなんですよ」


 エルヴェを紹介するエメの声には一切の屈託が感じられなかった。エメにとってエルヴェはもうすっかりなのだと、エルヴェは思い知る。


「あぁ……ふぅん」


 アダンは値踏みするように、エルヴェの姿を眺めた。エルヴェからはまるで、睨み付けられているように感じられた。


「あの、エメさん、この人は……」


 エルヴェの控えめな声に、エメは慌ててエルヴェにアダンを紹介する。


「あ、この人はアダンさんです。ええと……」


 エメは言葉を止めて、隣のアダンを見た。アダンとの関係を聞かれると、いつも困る。関係を説明する言葉をエメは持っていない。しばらくアダンを見詰めたまま悩んでいたが、しばらく前に苦し紛れに言った言葉を思い出して、エルヴェの方を見た。


「わたしの、師匠のような人です」


 エメの言葉を聞いて、アダンは吹き出した。


「え、なんで笑うんですか」

「いや、だって、師匠って」

「だって、他に言いようがなくって」


 アダンはまだ笑ったまま、頬杖をついてエメを見る。


「わかったよ、師匠で良いよ。師匠になってやるから」


 エメはアダンの言葉に、嬉しそうにくすぐったそうに笑った。

 注文した料理が運ばれてきて、アダンはエメにもエルヴェにも頓着せずに食べ物を口に詰め始めた。


「話してるとこ邪魔して悪いな、気にせず話を続けてくれ」

「あ、いえ……もう話は……」


 エルヴェははっきりしない声でもにょもにょと応える。アダンは塩漬け肉ハムを口に放り込んで、テーブルに置かれたままになっていたメモを見付けた。メモの文字を追いながら塩漬け肉ハムを飲み込んで、睨むような視線をエルヴェに向けた。


「エメをパーティに誘いにきたのか?」

「え、ええ、はい……」


 パーティに誘うこと自体に問題はないはずだ。エルヴェは正直に頷いた。アダンはまたメモに視線を落とす。


「へぇ……」


 次にアダンはエメに視線を向けた。すっかり冷めてしまったスープを口にしていたエメは、その視線を受けて動きを止めた。


「で、エメはどうするんだ?」

「どうするって……?」


 エメは何を聞かれているのかわかっていなかった。きょとんと首を傾ける。


「パーティ、どうするんだ? またダンジョン探索するのか?」


 アダンはなんでもないことのように言って、また塩漬け肉ハムを口に放り込んだ。

 エメは大きく首を振る。エメがダンジョン探索をするということは、ダンジョンマスターをやめるということだ。それは、エメには考えられないことだった。そんなことはアダンだってわかっているはずなのに、なんでアダンにそれを聞かれているのかがエメにはわからない。


「まさか。無理です」


 エメの否定にはなんの迷いもためらいもなくて、エルヴェは少し泣きたくなった。さっきまであれほど言葉を尽くしたけれど、そもそもエメにとっては可能性はカケラもない話だったのだ。


「まあ、そうだよな」


 アダンは当たり前だと言わんばかりに頷くと、パンをちぎって皿のソースを付けて口に放り込む。すごい勢いで、テーブルの上の料理がなくなっていく。

 エルヴェは小さく溜息をついて、立ち上がった。これ以上、エメとアダンの親密さを見ていられないと思った。


「話は終わったし、部屋に戻るね」

「あ、はい。あの……ごめんなさい」


 エメが何に対して謝っているのか、エルヴェにはもうわからない。エルヴェはそれでも、未練がましくエメに言葉をかけてしまう。


「俺はしばらくメテオールを拠点にするつもりだし、もしダンジョン探索をしたくなったら、声をかけてもらえると嬉しいかな」

「えっと……」


 エメは困ったように目を伏せる。その視線がちらりとアダンの方を見て、それからエルヴェを見上げて、困惑した様子のまま笑ってみせた。


「メテオールにいるなら、きっとまた会いますね。よろしくお願いします。ダンジョン探索は……わたしは、もうできませんけど」


 エルヴェは穏やかな笑顔を取り繕って手を振ると、部屋に戻った。エメを困らせたい訳ではなかったのにと思う。エメが笑顔を向ける相手が自分じゃないことが、ひどくやりきれなかった。やっぱりあの時に諦めてはいけなかったのだろうと思い返して、部屋で独り、ベッドに沈み込んだ。




 エルヴェが部屋に戻って、アダンが食事をしている間、エメはわかりやすくそわそわとしていた。アダンは呆れたような声を出す。


「気になってるんだろ」


 エメは瞬きをして、それから誤魔化すように笑った。それからアダンに少し顔を近付けて、小さな声で応える。


「今日は、まだ記録ログを確認してないんです」


 アダンは周囲をちらっと見て、それからエメの耳元に口を寄せた。他には聞こえないような小さな声で、エメの耳元で囁く。


「俺が食ってる間にグリモワール見に行ってこい。戻ってくるまで待ってるから」


 エメは弾かれたように立ち上がった。


「はい、じゃあ、行ってきます。すぐに戻りますから!」


 エメがほとんど駆けるような急ぎ足で食堂を出ていく。アダンは小さく舌打ちしてそれを見送った。




 エメは部屋に戻ってまずグリモワールを開いて記録ログを確認した。魔水晶を信頼度を上げるアイテムと交換して、残りを素材オブジェクトのレベル上げに使う。

 魔水晶を減らしてから、エメは落ち着いてグリモワールをそっと閉じてベッドサイドに戻した。それから、アダンにもらった帳面ノートを肩掛けのバッグに入れる。インク瓶と羽ペンは迷ったけれどもったいなくて持ち歩けなかった。

 走って食堂に戻ると、アダンはエメの姿を見て呆れたような顔で溜息をついた。そして、二人でアダンの部屋に向かう。

 部屋に入って最初に、エメはバッグからアダンの冒険者カードを取り出した。


「これ、返しておきますね」


 アダンは荷物をベッドに放って、それから差し出された冒険者カードを見下ろして、変な顔をした。


「え、いや、別に……あんたにやるよ」

「なんで!? え、これ、大事なものじゃないんですか!?」

「別に……もともと邪魔だったし、冒険者タグが手に入ったから、別にカードとかもういらないだろ」

「だって、貴重なものじゃないですか、百五十年前のカードなんですよ!?」

「そう言われても……使い道も多分ないんだよな。俺が持ってて下手に使えてもヤバそうだし」


 エメはぽかんと自分の手の中のカードを見下ろして、それから胸元にぎゅっと抱き寄せた。


「じゃあ、本当にもらっちゃいますからね? わたしのものですよ!?」

「だからやるって言ってるだろ。好きにしろよ。売るわけにもいかないだろうけど」

「売りません!」


 アダンにとってはただ邪魔なものを処分しただけだというのに、エメは嬉しそうに笑ってアダンの冒険者カードを抱きしめている。ゴミを押し付けられて喜んでる理由がアダンにはわからなかったけれど、エメが喜んでいるのでそれ以上は何も言わなかった。

 ベッドに腰掛けて、背中を伸ばす。一日馬車に乗っていたので、体が硬くなっていた。


「それで、冒険者登録は無事にできたんですよね?」

「前に登録してた時のMPマナの情報が残ってたらしくて、ちょっと面倒だったけどな、まあ、なんとか」

「それ、大丈夫だったんですか?」

「俺は何も知らないで押し通した。向こうも百五十年前のMPマナがまさか本人とは思わなかっただろうな」


 登録時のことを思い出したのか、アダンは苦笑した。それから首に下げていた冒険者タグを引っ張って、エメの前に出してやる。

 エメは膝を屈めて、アダンの骨ばった手にぶら下がっている冒険者タグを眺めてほうっと息を吐いた。まるで自分のことのように嬉しそうな笑顔がアダンに向けられる。


「おめでとうございます。レベル、21なんですね。もうレベルそんなに上がったんですか?」

「ああ、いや、登録した時は18だったから、三つ上がったか」

「登録したらみんなレベル1からだと思ってました」

「まあ、経験ないとそうだよな。俺はむしろ、70あったレベルが20ないのかよと思ったけど……1からじゃなかっただけマシか」


 アダンは冒険者タグをローブの内側に引っ込めたので、エメは椅子に座った。そして、手の中の冒険者カードを見る。


「そっか、もともと72でしたもんね、レベル。また上げるの大変ですね」

「んー……まあ、メテオールここならすぐになんとかなるだろうけど。なあ、他のダンジョンもあんな感じなんだよな?」

「あんな感じ、ですか?」

「何するにも待たされるからすっげぇイライラした。講習受けるのにも待ったし、それでじゃあダンジョン探索してくださいって言われてからも二日待って、ダンジョン探索もいちいち順番待ちすんのとか、ダル過ぎて無理」

「レオノブルでもそんな感じでしたし、だいたいそのくらいなんだと思います」

「確かにアレならレベル上げレベリングは大変だろうな。レベル70であんたが騒いだ理由はわかったよ」


 エメはアダンの冒険者カードを握りしめて身を乗り出す。


「だから、レベル70超えてるのスゴイって言ったじゃないですか」

メテオールここならすぐに超えられるって。他のダンジョンがあんな具合なら、順番待ちがないのがメテオールの最大の利点だろ。むしろなんでみんなちんたら何日かおきに探索してんだよって思うけど」

「ダンジョン探索ってそういうものだと思ってましたけど……。うーん、一回探索するのに、準備の時間も必要ですし、探索したら翌日は休みたいですし。講習でもありませんでしたか? 体を休めましょうって」

「アレは順番待ちに不満が出ないための方便だろ。なんかそういうとこもさ、みんな、お行儀良いよな。全然揉めたりトラブルとかないし」

「それは、問題トラブル起こしたらタグ停止か剥奪ですから」


 エメは首を傾ける。なんだか話が噛み合っていない気がしていた。エメの冒険者としての経験が少なすぎるせいだろうか。

 アダンはエメの顔をじっと見ると、ふっと息を吐いて笑った。


「まあ、昔みたいに治安が悪いのもアレはアレで面倒だし、今の方が良いんだろうな、平和で」


 それとも、とエメは考える。アダンが冒険者をやっていた百五十年前のことを知っていれば、もう少し理解できるのだろうか。手の中の冒険者カードを眺めて、それが使われてた時代について思いを馳せてはみたけれど、うまくイメージすることはできなかった。




「あんた、遅くなる前に帰れよ」


 アダンの言葉に、エメは慌ててバッグから帳面ノートを取り出す。


「待ってください、相談したいことがあるんです」

「少しだけだからな、今日はここで寝るなよ」

「大丈夫ですよ、最近はちゃんと睡眠時間とってますから。前は……ずっと眠かったんです」

「アレはもうほとんど気絶だ、二度とあんなことやるなよ」

「もうじゅうぶんわかりましたから」


 エメが帳面ノートの表紙を開こうとするのを止めて、アダンは溜息をついた。


「これ、ダンジョンの設計デザインだろ。だったら、俺は見れない、悪いけど。あんまり情報を入れるとダンジョン探索に差し障るんだよ、契約上な。面倒だけど」

「え……あ、そうなんですね。どうしよう、見てもらおうと思って纏めたのに」

「まあ、見なくても、その範囲で良ければ相談には乗るから。答えられないこともあるだろうけど」


 エメは取り出した帳面ノートをどうして良いかわからずに、表紙を閉じて両手で持ったままアダンを見上げる。


「その、最近追加した設計デザインなんですけど……その、アダンさんがいない間に新しく追加したものなんです。手持ちの素材オブジェクトだけで」

「それで?」

「その、他にも作りかけたりしてはいるんですけど、なんだかうまくいかなくて、納得いかないんですよ。こう、目新しさがないっていうか、面白みにかけるっていうか、何か足りない感じがして。何が足りないんだろうっていうのをアダンさんに見てもらいたいなって思ってたんですけど」


 アダンはエメが持つ帳面ノートに視線を落としたままエメの言葉を聞いていたが、最後に小さく舌打ちをした。そして顔を上げて、睨み付けるような視線でエメを見る。


「それなら、見なくても答えられるな。その設計デザインの間、あんたが何を考えていたか当ててやろうか」

「え……?」

召喚ガチャがしたい、召喚ガチャをすればもっとできるのに、召喚ガチャができないからうまくいかない」


 エメはぽかんと口を開けて、何か言おうとしたけれど、何も出てこなかった。アダンは鋭い視線でじっとエメを見ている。エメは何度も口を開け閉めして、そしてようやく声を絞り出した。


「そこまでは……思ってません」

「そうか? でも召喚ガチャがしたいってのは思ってたんだろ」

「それは……」

「足りないのは、少なくとも召喚ガチャじゃない。魔虹石でもない。あんたが召喚ガチャしたいって思ってる限り、あんたが自分に満足するのは難しいよ」


 エメは俯く。何も言えないのは、その通りだと思ってしまったからだった。湧き上がってきた感情をどうすれば良いのかわからないまま唇を噛むと、アダンの手がエメの頰に触れた。親指がエメの唇を撫でて、噛み締める歯を柔らかく解いた。


「その上で、少しだけ助言アドバイスだ」


 エメの頰を離れるアダンの手を追いかけて、エメは顔を上げる。アダンは相変わらずの意地悪そうな目付きで、にやりと笑った。


「実際に探索しないとわからないけど、公開パブリックしてる設計デザインなんだろ。で、大きな問題もないんだよな、バランスが悪いとか。だったら、それで良いんじゃねえのって俺は思うけど」

「でも……目新しい何かがないと、すぐに飽きられちゃう」

「逆に言えば、飽きられるまでは大丈夫なんだよ」


 エメは瞬きをしてアダンを見た。何も言わないけれど、アダンの言葉が飲み込めてないという顔をしている。


「ペティラパンのマップは、もう長いこと変わってないらしいな。たまに微修正マイナーチェンジがあるらしいけど」

「だけど、それと同じにしていても人は呼べません」

「そうだな。すでに近くに大きなダンジョン街が二つもあって、その中で新しく冒険者を集めないといけない、そのために違うやり方を目指したのは悪くないと思う。ただ、新しい設計デザインを作るのは、ダンジョンマスターに負担が大きいだろ? ペティラパンで設計デザインを変えないのは、それが大変だからだよ。変えなくても安定して人が集まってる、なら大変な思いをして変える必要はない、そうだろ?」

「でも……メテオールはそうじゃないですから」

「あー、何が言いたいかっていうと、他のダンジョンでは手抜きしてるってことだよ。あんたも、手を抜くことを覚えろ。このままこのやり方を続けてもしんどいだけになるぞ。前に話したパターンを作るってのは、手を抜く方法の一つだな。パターンで考えることで、思考の負荷が減るんだ」


 エメは眉を寄せて、困惑した顔でアダンを見る。手を抜くというのがどういうことか、わからないでいるのだろう。


「力の入れ方というか、メリハリというかだな。言ってる意味、わかるか?」


 エメはゆるゆると首を振る。アダンは口元に手を当てて、親指の腹で自分の唇を撫でる。しばらくそうやって話すことを考えていたけれど、はたと顔を上げてエメに人差し指を向けた。


「今メテオールで公開パブリックしてる設計デザインはいくつだ」

「今は六つです」

「それだ、多いんだよ」

「でも、メテオールにいる冒険者のバランスを考えるとそのくらい必要で」

「数は良い。ただ、その全部を全力でやるには多すぎるって話だ。わかるか? 目玉になるような目新しくて面白くて、あんたがやりたいことをぶち込んだ全力の設計デザインは、その中でも一つかせいぜい二つあれば良いんだ。他は、この設計デザインみたいな、悪くない程度で良い。飽きられたらすぐ変えれば良い。手抜きで追加できる設計デザインのパターンをいくつか用意しておいて、それを組み合わせてすぐに変えられるようにしておけ」


 アダンはエメが持っている帳面ノートの表紙をノックするように軽く叩く。そして、エメの顔を覗き込む。


「全力で設計デザインするときには、手を抜いた分の余力を全部ぶち込むんだ。それが魅力的なマップになれば、冒険者はそこを目指して他のマップも探索する」


 エメは胸の前で帳面ノートをぎゅっと抱き締めた。アダンはエメの顔を覗き込んだまま、にやりと笑う。


「今度はわかったか?」

「……はい、わかったと思います」


 エメは頷いて、それからほうっと息を吐いた。ずっと新しい設計デザイン公開パブリックしないとと思っていて、少し追い詰められるような気分になっていた。そこにアダンが割って入ってくれて、エメは少しだけ緊張感から解放された。

 アダンはベッドから立ち上がって、大きく伸びをする。エメはそれを見上げた。


「あの、ありがとうございます」


 アダンは上に伸ばしていた両腕を降ろすと、エメの真っ直ぐな視線を受け止めて、少しだけ居心地悪そうにした。


「ああ、うん、まあ、師匠だからな」


 アダンの言葉に、エメはくすぐったそうに笑う。アダンはそれを見て、小さく溜息をついた。


「続きは明日な。今日はもう帰れよ、送ってくから」

「近いし大丈夫ですよ、一人で帰れます」


 小さな押し問答の末、二人で夜道を歩く。こんな時間でも食堂は賑やかで、きっと良いアイテムをドロップできた冒険者たちが祝杯を上げているのだろう。

 エメが来たばかりの時はこじんまりしていた人家の灯りは、今は随分と大きい。こうやって、メテオールもいずれレオノブルやペティラパンほどに大きな街になるだろうか。


「やっぱり治安良いよな」


 街並みを眺めてそう呟いたアダンの声は、どこかぼんやりしていた。


「そんなに悪かったんですか」

「うん……いや、平和なのは良いことだよな」


 エメは隣を歩いているアダンを見上げる。アダンは苦笑しながら、メテオールの街並みを目で追っている。エメの目には、百五十年前の街並みを思い出しているように見えた。

 百五十年前のメテオールがどれほどの規模の街だったのか、エメは知らない。どんな街だったのかも。アダンから見て、今のメテオールはどう見えているのだろうか。物足りないのではないだろうか。

 エメはアダンの横顔を見ながら考える。今は当たり前のようにこうして隣にいるけれど、この先もずっとここにいてくれるだろうか。

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