第十四話 エメはダンジョンをデザインする

──次は目次メニューから、「ダンジョン管理」頁を開いてください。


 エメは中表紙を一枚めくって目次メニューを表示する。「報酬受け取りリワードボックス」の時と同じように、「ダンジョン管理」の文字を残して、他の文字が薄墨色薄いグレーになる。そして「ダンジョン管理」の隣に青白い光の矢印が現れた。


「これって、この文字に触って『ダンジョン管理』って言ったら、ダンジョン管理の頁が開ける感じですよね」


──素晴らしい理解力です。魔道書わたしの文字に触れてその言葉を命令することで、その操作が行えます。操作の基本なので覚えておいてください。

──それでは「ダンジョン管理」頁を開いてください。


 グリモワールは大袈裟だとはエメは思ったけれど、褒められて悪い気はしなかった。口元をわずかににやけさせながら、「ダンジョン管理」の文字に指先で触れる。ほわりと、指先に虹色の光の輪が現れた。


「ダンジョン管理」


 その言葉と共に、エメの指先の虹色の光がぎゅっと集まるように輪を縮める。


──こうやってポインタが広がらずに輪を縮める時は頁移動が必要な命令です。頁から手を離すと命令が確定されるので、この状態になったら手を離してください。長時間手を離さないでいると、命令は解除キャンセルされてしまいます。あるいはこの状態の時に「解除キャンセル」と命令すれば、すぐに解除キャンセルされます。


 グリモワールの言葉に、エメは頷いて手を離した。光の輪が頁全体に広がった後に、ぱらぱらと頁がめくられる。そうやって何頁かめくられると、グリモワールはその動きを止めた。

 目次メニューに似て、左側の頁に文字が書かれて右側の頁は真っ白だ。


──

〜 ダンジョン管理 〜

活性化アクティベート記録ログ


設計デザイン一覧(0 / 3)

 1. 未登録

 2. 未登録

 3. 未登録

 4. 未解放


集客マーケティング

 >魔水晶で集客マーケティング(魔水晶 15個)

 >魔虹石で集客マーケティング(魔虹石 1個)

──


 エメは頁に書かれた言葉を読んで、首を傾けた。書かれてあることの意味がよくわからない。グリモワールがすぐに言葉を綴りはじめる。


──この頁では、実際に冒険者をダンジョンに迎え入れる準備や、冒険者の探索の記録を確認できます。まずは、冒険者を迎え入れるためのダンジョン設計デザインを用意しましょう。

──実際に試しながら説明していきます。「設計デザイン一覧」の中の「1. 未登録」という文字列に触れてください。


 グリモワールの文章の後に、「1. 未登録」の文字の隣に青い矢印が現れて点滅を始めた。わけがわからないまま、エメはグリモワールの指示の通りにその文字に触れる。虹色の光の輪が頁の上に広がり、右の頁に文字が現れた。


──

〜1. 未登録〜


 >新規設計デザイン作成

──


 そして今度は「>新規設計デザイン作成」という文字の隣に青い矢印が移動する。


──新しい設計デザインを作成する場合は、この頁で「新規設計デザイン作成」を命令してください。


 エメが「新規設計デザイン作成」を命令すると、頁が一枚めくられた。その見開きの頁の上には、薄い水色ライトブルーで格子状に線が引かれている。左側に「S」と書かれた場所があり、青い矢印がそこを指していた。


──では、この「S」の文字に触れてください。


 エメが「S」の文字に触れると、四角い線ウィンドウに囲まれた文字が現れる。


──

スタート地点(特殊) 配置コスト:10

 入り口エントランスの魔法陣の転送先。配置必須。

・モンスター配置:不可

・アイテム配置:可

・内装配置:可

──


──この文字は「スタート地点」を表しています。ダンジョンの入り口エントランスの魔法陣を起動すると、ここに転送されます。スタート地点は必須なので、必ず設置してください。

──もう一つ「ゴール地点」の設置も必須です。スタート地点から入った冒険者がゴール地点まで到達して魔法陣を起動することで攻略クリアとなります。スタート地点とゴール地点が存在しないと設計デザインとして保存できないので注意してください。

──今はスタート地点だけが存在して、ゴール地点が存在しない状態になっています。ここにゴール地点を追加しましょう。ここに触れてください。


 グリモワールの言葉とともに、スタート地点から少し離れた箇所が青く光る。エメがそこに触れると、その近くに四角形ウィンドウが現れる。


──

素材オブジェクト

 ・モンスター

 ・アイテム

 ・内装

特殊素材オブジェクト

 >スタート地点配置

 >ゴール地点配置

 ・階層フロア移動

──


 四角形ウィンドウの中の「>ゴール地点」という文字がぼんやりとした青い光に包まれている。


──その場所に触れたまま「ゴール地点配置」と命令してください。指で触れている場所にゴール地点が配置されます。


「スタート地点と近いけど、これだとすぐに攻略クリアしちゃうんじゃ……」


 エメが指を触れている場所は、格子状の薄い水色ライトブルーの線で作られた並んだ四角のうち、「S」という文字が書かれた四角の、隣の隣だった。


──今回は練習です。広いマップを作るのは時間がかかるので、すぐに攻略クリアできる単純なマップを用意しながら操作に慣れてください。

──それと、配置した素材オブジェクトは、後から移動も削除もできるので、最初の配置位置はそこまで気にしなくても大丈夫です。


「そっか……」


 グリモワールの説明にエメは頷いて「ゴール地点配置」と宣言した。エメの指先に「G」という文字が表示される。


「出てきた!」


──おめでとうございます! これでこのマップは、スタート地点とゴール地点ができました。とはいえ、これだけではまだ保存できません。

──壁と床で囲みましょう。閉じた空間を作ることができれば、このマップを設計デザインとして保存できるようになります。


 グリモワールの指示通りに、エメはそのマップに素材オブジェクトの配置を続ける。壁や床は「内装」の中にある。現在使える内装は、壁と床が三種類ずつと壁に設置するタイプの灯り、それから二種類のドアだ。

 どれを選んでも良いと指示をされて、エメは石積みの壁と石の床にした。スタート地点とゴール地点、その間に一つ、合計で三つの灯りを設置したりもした。この距離だとスタート地点からゴール地点が見えてしまいそうな気がするけれど、練習なのでこれで良いのだろう。


──ダンジョンらしくなってきました。頁の右上を見てください。


 またあの青い矢印が頁の右上隅に現れた。今度は点滅せずにそこに書かれた数字の羅列を静かに指し示している。


──

階層フロア 1 / 1

広さ 3 / 16

配置コスト 34 / 300

活性化アクティベートコスト MPマナ 34

活性化アクティベートコスト 魔水晶 0

──


「ええっと……これは?」


──これは、この設計デザインのステータスです。例えば「階層フロア」の後ろに書いてある数字の「1 / 1」は、現在の階層フロア数と階層フロア上限を表しています。現在は1階層フロアが上限、つまり階層フロア移動するような構造は作れません。階段などは置けないということになります。

──「広さ」は、全フロアの広さの合計です。広さ上限は16ですが、これは頁に表示されている格子の1マス分で1使います。今は3マス使っているので、広さ3です。

──「配置コスト」は、配置した素材オブジェクトが関わってきます。素材オブジェクトをマップに配置するためには、素材オブジェクトが持つ配置コストの合計が配置コスト上限を上回らないようにする必要があります。今は配置コストが10のスタート地点、ゴール地点、それから壁や床や灯りは全て配置コスト1なので、合計で34の配置コストがかかっている状態です。

──強かったり珍しかったりする素材オブジェクトの方が、より配置コストが必要になる傾向があります。

──活性化アクティベートコストには、MPマナと魔水晶の二種類があります。これについては、また後で説明します。


 グリモワールの長い説明を読みながら、エメは口を開く。


「ごめんなさい、あんまりよくわかってないけど……この辺りの上限に引っかからないように、マップを作らないといけないってことですか?」


──素晴らしい。最初のうちは、配置の際にこの辺りの数値が収まっているかを気にしていればじゅうぶんです。余裕が出てきたら、この辺りの数値を見ながら細かな調整を行うと良いでしょう。


「わ……わかりました」


 なんとかエメが頷くと、グリモワールは話を続けた。


──さて、これだけでも設計デザインとして登録はできますが、よりダンジョンらしくするためにモンスターとアイテムも配置しましょう。今回は、スタート地点とゴール地点の間に、スライムを配置します。


 配置したい場所に触れて、モンスターの一覧を開いてスライムを選んで配置する。エメはこの操作にも段々と慣れてきていた。

 配置したモンスターのステータスを変える方法も、グリモワールからエメに伝えられた。スライムは、通常なら配置コストが5だけれど、弱体化して配置するとコストが4になる。もちろん、より強くすることもできて、その場合は配置コストが上がる。ただし、強くする場合は別途モンスターを育てて上限レベルを上げる必要があるので、今はできないと説明された。

 エメは指示の通りに配置したスライムを弱体化させた。配置コストには余裕があるのにと不思議に思ったけれど、グリモワールは「後で説明します」と言って話を先に進めてしまった。


──次はアイテムです。今回はスライムを倒したらドロップするようにしましょう。


 モンスターを配置したことを表す「M」の文字に触れて四角形ウィンドウを表示させる。そこからアイテム配置を行うと、スライムのドロップアイテムにできる。

 エメは配置コストが5のヒールポーションを配置した。配置の際にドロップ率も設定できる。今回設定したドロップ率は100%で、必ずドロップする設定だ。その後に、そのヒールポーションも弱体化させて配置コストを4にした。

 同じ種類のモンスターでも少し強かったり弱かったり、マジックアイテムも効果に多少差があったのはこういう調整の結果だったのかと、エメはこれまでの数少ないダンジョン探索経験を思い返して感心した。


 配置コストが42になって、ずっと0だった「活性化アクティベートコスト 魔水晶」の数字が4になった。


──「活性化アクティベート」というのは、冒険者を受け入れる時のコストです。設計デザインはただの設計図で、まだ実体がありません。冒険者を受け入れる際に、実際に中に人が入って探索をできるように実体化する必要があります。それが活性化アクティベートです。

──「活性化アクティベートコスト」というのはそのためのコストです。基本的にはダンジョンマスターのMPマナが使われますが、冒険者が手に入れて持ち帰るためのアイテムなど、ダンジョンの外に持ち出すことが想定されたアイテムについては魔水晶を使う必要があります。

──今回はヒールポーションのコストが4なので、必要な魔水晶も4です。


「魔水晶、減っちゃうんですね」


──そうですね。詳しくはまた説明しますが、今は、ダンジョンの外に持ち出すアイテムには魔水晶が必要とだけ覚えておいてください。

──魔水晶を消費しないようにして、ダンジョンの外に持ち出せないアイテムを作ることも可能です。試しに今から、スライムを倒すための武器を配置してみましょう。


 スタート地点に木製の剣を配置する。木製の剣は配置コストが20で、多少の攻撃力ボーナスがあるだけの、要するになんの効果もない武器だった。配置すると配置コストが62に、活性化アクティベートコストの魔水晶の数字が24になる。

 エメは一度配置した木製の剣に触れて、グリモワールに教えられるままに「持ち出し不可」属性を付与する。そうするとさっき24になった数字がまた4に戻った。配置コストは62のままだ。


──このマップに入った人は、ダンジョン内であればこの剣を使うことができますが、ダンジョンの外に出る時に剣は消えてしまいます。バランス調整に便利なので、やり方を覚えておいてください。


 そして、グリモワールは設計デザインの完了を告げた。


──今回の設計デザインはこれで完了です。頁のどこでも良いので触って「保存セーブ」を命令してください。


保存セーブ


 そして、先ほどの「設計デザイン管理」の頁に戻ってきた。


──

〜 設計デザイン管理 〜

設計デザイン一覧(1 / 3)

 1. ダンジョン1 下書きドラフト

 2. 未登録

 3. 未登録

 4. 未解放

──


 その頁で「1. ダンジョン1」に触れると、さっきまで作っていたマップの情報が右の頁に表示された。


 ──さて、後少しです。先ほど作成したこの設計デザインは、今は「下書きドラフト」状態になっています。この設計デザインをマップとして公開パブリックして、訪れた人を受け入れるために、この設計デザインを「公開パブリック」状態にします。

 ──作った設計デザインは、必ず下書きドラフト状態で保存され、公開パブリック状態に更新しないと入り口エントランス操作石コントローラーに表示されないので気を付けてください。


 エメは頁に触れて「公開パブリック」と命令する。命令はすぐに実行されずに「設計デザイン公開パブリックすると、マップとして探索可能になります。よろしいですか?」という確認の四角形ウィンドウが表示される。それに「はい」と応えて、エメの作ったマップが操作石コントローラー選択画面メニューに追加される。


 こうして、メテオールのダンジョンは、長らく停止していた活動を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る