第十三話 エメは初めての報酬を受け取った

 グリモワールの導入説明チュートリアルは、まず目次メニューからだった。グリモワール自身が表紙を閉じて、また開く。中表紙には、先程と同じようにエメの名前が書かれている。


「この、名前の下のレベルとかって何ですか?」


──あなたのダンジョンマスターとしてのステータスです。詳しくは後で説明します。今は目次メニューについて説明します。頁をめくってください。


 親切に、中表紙の右隅に青白い光の矢印が現れ点滅する。ここをめくれということかと、エメはその指示の通りに中表紙をめくった。

 見開きの左の頁に錆色ラスティーの文字が書かれていたけれど、目次メニューらしく全て単語の羅列だった。右の頁は真っ白だ。その真っ白な頁に文字が綴られる。


──この頁から、様々な機能へアクセスできます。一度わたしを閉じてこの頁を開けば、必ず目次メニューが開けますから覚えておいてください。あるいは、見開き左の頁の左上に触れて「目次メニュー」と命令すれば、わたし目次メニューを開きます。

──一回やってみましょう。


 グリモワールは本の中程までぱらぱらと頁をめくった。何も書かれていない頁の左上に矢印が現れた。その脇に、言葉が綴られる。


──ここに触れて「目次メニュー」を命令してください。


 言われた通りにエメは頁の左上、光の矢印が点滅している箇所に指先で触れる。その場所からほわりと虹色の光が丸く浮かび上がり、矢印の青白い光と混ざり合って揺れる。


目次メニュー


 エメの声と共に、指先の丸い虹色の光が、その光を強めながらぎゅっと輪を縮めた。


──目次メニューを開きます。一度手を離してください。


 エメが手を離すと、指先にあった光が弾けるように頁全体に広がった。それからグリモワールは一度本を閉じて、開く。開いた頁は、さっきの目次メニューの頁だ。


──目次メニューこの本わたしの基本機能です。全ての機能は目次メニューから辿ることになります。目次メニューへの戻り方は覚えておいてください。


「あ……はい」


──では次は目次メニューの内容について説明します。隣の頁を確認してください。


 言われるがままに、エメは左側の単語を読んでゆく。


──

〜 目次メニュー 〜

通知事項お知らせ

追加報酬ノルマボーナス

報酬受取リワードボックス


・ダンジョン管理

・モンスター一覧

・アイテム一覧

・内装一覧


召喚ガチャ

交換所ショップ


・ダンジョンマスター情報

・ダンジョンマスターアイテム

投影石モニター操作

機能説明ヘルプ

──


 目次メニューの内容が、エメにはよくわからなかった。なんとなく意味がわかる項目もあるし、意味はわかるけど何をするのかわからない項目も、何をするのかさっぱりわからない項目もある。

 戸惑っていると「報酬受取リワードボックス」以外の文字が、急にすっと薄墨色薄いグレーになった。そして「報酬受け取りリワードボックス」の隣に青白い光の矢印が現れる。


──契約書に定められた通り、本日分の報酬が振り込まれています。報酬受取リワードボックスから報酬を受け取りましょう。


「一つ上の『追加報酬ノルマボーナス』というのは、違うんですか?」


──追加報酬ノルマボーナスについても後で説明します。今は報酬受取リワードボックスを開きましょう。導入説明チュートリアルの順番があるので。


「そっか……わかりました」


 後で説明してもらえるなら大丈夫かと思ってエメは頷いた。ただ、目次メニューの項目の多さを考えると、全部覚えられるか少し不安にもなっている。

 グリモワールの言葉は続く。


──目次メニュー内の報酬受取リワードボックスの文字に触れて「報酬受取リワードボックス」と命令してください。


 とにかくエメは言われた通りに報酬受取リワードボックスに触れる。触れたところに虹色の光の丸い光が出るのは変わらない。


報酬受取リワードボックス


 エメの言葉に反応して、今度は指先の光がすぐに頁全体に広がる。右の頁に綴られていた言葉が消えて、そこに新しい文字が浮かび上がってきた。


──

〜 報酬受取リワードボックス 〜


・契約報酬(1日目)

  魔水晶 100個

  魔虹石 50個


>まとめて受け取る

>履歴

──


 その余白に、濃藍色ブルーブラックの文字が綴られてゆく。


──報酬受取リワードボックスでは、ダンジョンマスターへの報酬リワードを受け取ることができます。契約書に定められた毎日の定期報酬ログインリワードや、それ以外にも臨時報酬ボーナスが振り込まれることがあります。

──定期報酬ログインリワードは、ダンジョンマスター業務を行なっていることが前提のものです。ダンジョンマスター業務を放棄していると判断された場合は報酬リワードが振り込まれなくなるので気をつけてください。この本わたしを開いて操作すれば業務を行なっていると認識はされるので、一日一回はこの本わたしを開くことをお勧めします。


「ええと、ちょっとまだよくわかってないけど……グリモワールさんでしたっけ、毎日あなたを開けば良いってこと、ですよね」


──理解が早いですね。ダンジョンマスター業務を行うのであれば、この本わたしの操作は必須なのでさほど問題はないでしょう。


「わかりました」


 そんなに難しいことを要求されなくて、エメはほっと頷いた。グリモワールは言葉を続ける。


──それらの報酬リワードを受け取ることができるのが、この報酬受取リワードボックスです。

──報酬リワードを受け取る場合は、受け取りたい報酬リワードに触れて「受け取り」と命令してください。あるいは、下の方にある「まとめて受け取る」に触れて「まとめて受け取り」と命令すれば、頁内の全ての報酬リワードを受け取れます。

──どちらでも、お好きなやり方で今日の報酬ログインリワードを受け取ってください。


 エメはそっと「契約報酬(1日目)」と書かれた文字に触れる。


「ここで良いのかな」


──はい。素晴らしいです。そこであれば「受け取り」と命令すれば、この報酬リワードの受け取りが可能です。


 エメの呟きにグリモワールが応え、エメは頷いた。


「受け取り」


 エメがそう声に出すと、エメが触れていた「契約報酬(1日目)」という文字に横線が引かれ、白い光が頁から溢れ出した。

 そしてそれと同じタイミングで、部屋の隅にも白い光が現れる。エメがグリモワールから視線を外してそちらに目を向けると、白い光は徐々に小さくなってゆき、やがてそこに白と虹色の鉱石の山ができていた。

 グリモワールから溢れた光も収まっていて、「契約報酬(1日目)」という文字が書かれていた箇所には、代わりに「受け取れる報酬リワードがありません。」と書かれていた。


──おめでとうございます。これで受け取りは完了です。受け取った報酬リワードの内容を見返したい時は「履歴」という文字に触れて「履歴」と命令すれば確認できます。導入説明チュートリアルが終わったら試してみてください。

──今は導入説明チュートリアルを先に進めます。


「あれが、報酬リワードですか……?」


 エメは部屋の隅に現れた鉱石の山をぱちくりと瞬きして眺めていて、グリモワールの綴る言葉を見ていなかった。グリモワールはエメの視界にその体を滑り込ませる。


──はい。近付いて、手に取ってみてください。




 その鉱石は、魔水晶と魔虹石というのだとグリモワールは綴った。

 透明な中に仄かな白い光を湛えているのが魔水晶。その色を様々に変えて輝く不思議な石が魔虹石。それぞれ使い道が違うが、魔虹石の方が貴重レアらしい。

 エメはしゃがみ込んで、魔水晶を一粒手に取った。親指の爪ほどの大きさだ。


──これは注意点ですが、魔水晶はダンジョン内で保管できる数が限られています。今はダンジョンのレベルが1なので、魔水晶の最大所持数リミットは1,000までです。


最大所持数リミットを越えるとどうなるんですか?」


──一時的に最大所持数リミットを超えて保管することは可能です。ですが、あくまで一時的なものなので、すぐに使用しなければ最大所持数リミットを超過した分は徐々に溶けてしまいます。


「え、そんなの不便じゃないですか。なんでそんなことになるんですか?」


──魔水晶の性質仕様です。魔水晶は、MPマナを特殊な方法で結晶化したものです。本来その形を持たないMPマナなので、結晶化してもすぐに溶けてしまいます。ダンジョンの機能でダンジョンマスターの力を使ってそれを留めている状態です。ダンジョンから出すと溶けてしまうので、気を付けてください。

──もし最大所持数リミットを超えてしまったら、急いで使ってください。


 エメは手にした魔水晶を見下ろす。手のひらの上でほんのりと淡く白く光る石は綺麗で、それが貴重なものなのだということはわかった。せっかくこうしてあるのに溶けてしまうのはもったいないなと思いながら手の中の石を眺めていた。


「これ、数ってどうやって確認したら良いんでしょうか。数えないとわからない?」


──この本わたしの中表紙を開いてください。


 グリモワールがエメの目の前にすっと入り込んできて、エメの操作を待つ。エメは言われた通りに頁を目次から一枚戻して中表紙を開いた。


──

ダンジョンマスター エメ

 ダンジョンレベル 1

 魔虹石 50

 魔水晶 100 / 1,000

 MPマナ 13,732 / 13,782


> 詳細

──


「ここで確認できるんですね」


 エメの声に、グリモワールは頷くかのように頁を揺らした。


──この頁では、ダンジョンマスターとしての簡易なステータス表示を確認できます。「詳細」という文字に触れて「詳細」と命令すれば、より詳細なステータス表示を確認できます。

──より詳細なステータス表示は目次メニューにある「ダンジョンマスター情報」と同じ頁を示しています。ダンジョンマスター情報については、また後で説明します。


「そうだ、他にも聞きたいことがあるんですけど」


──どうぞ。


 エメは、グリモワールに見せるように手の中の魔水晶を持ち上げた。そうして、本当にグリモワールが見えているのかはわからない。けれど、グリモワールはまるでそれを見ようとしているかのように、本の角度を変えた。


最大所持数リミットを超えると溶けちゃうって言ってたけど、これの使い道ってなんですか。後、もう一つの方、魔虹石でしたっけ、そっちにも最大所持数リミットはあるんでしょうか」


──魔水晶の使い道については、この後説明します。魔虹石には最大所持数リミットはありません。魔虹石は魔水晶よりもずっと安定しているので、一度生成されるとダンジョン内であれば存在し続けます。


「だったら全部魔虹石にすれば良いのに」


 エメの独り言のような呟きに、グリモワールは応える。


──ダンジョンは通常、MPマナを結晶化して魔水晶を生成します。その際に、ごく稀に魔水晶ではなく魔虹石が生成されることがあります。原因はいくつか考えられるのですが、狙って生成することは難しく、最終的には確率の問題です。

──それとは別に、魔虹石を確実に生成する方法もあります。詳細は後ほど説明しますが、どちらの方法にしても、魔虹石は貴重なものです。


 エメは魔虹石の方も手に取って、魔水晶と並べて手のひらに乗せた。魔虹石も魔水晶と同じくらいの大きさだ。違うのはその色合いだけ。ほのかに光を放っている様子は、どちらも神秘的にも見える。

 エメはしばらくそうして、魔水晶と魔虹石を眺めて指先で転がしたりしていたけれど、やがて満足したのか、そっと山に戻して、それからグリモワールの方を見た。


──次はダンジョン運営の導入説明チュートリアルです。ソファに戻りましょう。

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