第五話 エメたちはスライムを倒した
冒険者タグ発行の翌々日、エメとフロランは
エメは新品の杖を買おうとして、値段を見て怯んで悩んだ挙句、フロランと一緒に中古の装備屋に行った。そこで手頃な値段の杖とローブを買った。新品ではないけれど、使い込まれた雰囲気も悪くないかもと考え直して、今は割と気に入っている。
フロランは最初から考えている通り、最低限の装備として剣と胸当てだけ買った。これも今日のダンジョン探索が終わったらまた売りに行くつもりでいる。
冒険者ギルドで顔合わせしたメンバーも、みんな似たり寄ったりの格好だった。自己紹介の後にパーティ内での役割を話し合う。
エメの
前衛の
今回は
みんなでそんなことを話し合ってから、ダンジョンに向かった。
レオノブルにある初心者向けマップは、難易度が低めの素材採集が中心のものと、それよりは難易度が高い戦闘とモンスターからのドロップが中心のものの二つがある。
採集中心のマップは、一
ダンジョンの
魔法陣で転送された先は、オーソドックスな洞窟の中だった。土が剥き出しの地面に、壁は石で固めてある。通路はところどころ狭くなったり、天井が低くなったりしてはいるものの、まあまあな広さがあった。通路のところどころにランタンが付けられているが、光量はじゅうぶんとは言えなかった。
エメが杖を持ち上げ、自分の頭上になるように
壁に張り付いている蔦や壁と地面の隙間に生えている茸など、みんなで確認して移動しながら採集してゆく。
「この茸は胞子をばらまいて汚れるから、取ったらすぐに袋に入れた方が良いって」
採集に夢中になっている間に、天井の石の隙間から、ずるりとスライムが落ちてきてぼとりと落ちた。ニナがその音に最初に気付いて振り返って叫ぶ。
「スライム! モンスターだ!」
ぼと、ぼと、ともう二匹のスライムが落ちてきた。持っていた素材や布袋を床に放り出して、慌てて武器を構える。
ばたばたと陣形を整えようとするが、みんな背中を向けていたのもあり、スライムの動きにすぐに追いつけない。ニナが一匹のスライムの前に飛び出して挑発を使って抑えたが、他の二匹は手近にいたパスカルに近寄る。その体を膨らませて体液をパスカルに向けて飛ばし、パスカルのHPが100近く削られた。
「ひぃっ!」
パスカルは典型的な
「大丈夫だ! 落ち着いて!」
武器と盾を構えるのに時間がかかっていたレナルドが、パスカルとスライムの間に割って入って挑発スキルを使う。スライムの
同時に、マリエルもパスカルに向かって
フロランは少し逡巡した後に、一番手近にいたレナルドに向かっているスライムに攻撃する。剣を受けて、スライムの体が割れてまた戻る。その攻撃は50ほどあるスライムのHPを8削った。フロランは手応えを感じたが、そのせいかスライムはその
エメは
「
エメの放った
「あ、あ……どうしよう、
こんなタイミングで
スライム三匹、落ち着いて対応できれば初心者パーティでも問題なく対応できるくらいのモンスターだ。パーティメンバー全員、実際に戦闘が始まるまでそう思っていた。
初めての緊張、採集に夢中になっていて準備ができていなかったこと、先に攻撃を受けてしまったこと、連携を考えないばらばらな動き、それと
スライム一匹を一人で抑えていたニナのHPが半分ほどになって、ニナが叫ぶ。
「助けて!
その声にはっとしたように、マリエルが声を上げた。
「わたしがニナさんの方に行きます!
マリエルはスライムから距離をとるように下がって、ニナへ
「フロラン! パスカル! 二人でニナが相手してる方を先に! 一体ずつ仕留めるんだ!」
レナルドの声に、フロランはニナの方へ走った。それを追いかけようとするスライムにレナルドが攻撃を仕掛けて
パスカルもニナの後ろ側に移動して、杖を構える。
「エメ! こっちに
「あ……はい!」
「
心配していたような
「
それは
HPが減る速度が減少したことで、レナルドに少し余裕ができる。レナルドは自分に
エメは駄目押しとばかりに、レナルドに
もともと、レナルドの攻撃力はさほど高くない。
それでも、ここまで攻撃すればスライム相手に4か5はダメージを与えられていたし、それでここまでの間に多少なりともHPを削ってきていた。それが、せいぜい1か2のダメージしか与えられないようになった。命中しているのにダメージが0になることもある。
「あ、ご、ごめんなさい……!」
また
「大丈夫! 問題ない! フロランに
エメはぎゅっとつむった目をすぐに開いて、少し離れたところにいるフロランに杖を向ける。
「
攻撃力が上がったフロランの剣が、ニナが抑えていたスライムにトドメをさす。パスカルはすぐにレナルドの前のスライムに魔法を放った。
「
パスカルの炎がスライムを包み、HPが削られたスライムがパスカルに向かおうとする。その目の前にニナが滑り込んで、挑発を使ってスライムの
この少しの間で、四人は連携の取れた動きができるようになってきていた。
フロランとパスカルは力を分散させず、一体に対して二人で攻撃する。そうやって確実に一体ずつ仕留めて、ようやく六人は初めての戦闘を終了した。
スライムはヒールポーションをドロップした。
ニナがそのヒールポーションを拾い上げて、それからパーティメンバーを見渡して、まだ実感が湧かないというようにぽつりと呟く。
「倒した……んだよね」
「倒せた、と思う」
それにマリエルが応える。マリエルは自分の杖を胸の前で抱き締めた。
「やった! 俺たち、結構うまくやってたと思わないか!?」
パスカルが上気した頬で叫び、そこでようやく実感が湧いてきた。戦闘の興奮が冷めないまま、六人は初勝利を喜び合った。
近くに小部屋のようなスペースを見付け、罠がないことを確認してからそこで少し休息することにした。パスカルが
そうやってみんなで座って休息しながら、会話は自然とさっきの戦闘のことになった。
一番の問題は最初に不意打ちのような形になってしまったこと、というのは全員の意見が一致した。全員で採集するのは危ないので、採集の時もニナとレナルドは周囲を警戒しておくことになった。
それから細かな連携を再度確認する。ニナが一体を引っ張って、その一体にパスカルとフロランで協力してダメージを与えるというやり方は良かった。マリエルは基本的にニナの
その間レナルドはそれ以外のモンスターを引き寄せて、自分に
「あの……ごめんなさい。二回もファンブルを……」
役割分担の話になって、エメは俯いてメンバーに謝る。
「まあ、びっくりしたけどさ。
レナルドは素直な感謝を述べた。他のメンバーも
何より
「俺さ、最初にスライムに攻撃されたとき、全然体が動かなかったよ。どうしたら良いかもわかんないし、いきなりHP減るしさ。前衛じゃないから攻撃されることはないって思ってたけど、そんなことないんだよな。考えたら、そりゃそうなんだけど」
パスカルが少し恥ずかしそうに、耳の後ろをかきながら言う。フロランも頷いた。
「俺も自分のHPが減るのは、結構怖かったな」
「わかる。わたしなんか一体がやっとだったもん。マリエルの
ニナの言葉に、マリエルは首を振った。
「でも、わたしは焦りすぎて……何度か
「同時に
レナルドが自分たちの動きを思い出して苦笑する。
完全回復を待つほどの時間はない。ある程度回復したところで、パーティは立ち上がった。エメが頭上の
「エメさん、その
マリエルの言葉は思いがけなくて、エメはぱちりと瞬きをした。
「わたし、
マリエルの笑顔に釣られて、エメも笑顔を返す。この子と仲良くなれたら嬉しいなと思った。
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