第六話 エメたちはダンジョンをクリアした
そこからの探索は、初めてダンジョン探索をするパーティにしては、うまくいっている方だった。パーティメンバーはだんだんと慣れてきて、採集も戦闘も連携が取れるようになってきて、危なげなく探索できるようになってきていた。
本当にうまくいっていた。エメの
ダンジョン
二体のスライムが出てきた時は、最初に三体相手にした時よりもずっと楽だった。その戦闘の間に、エメは
「でも、
マリエルが空気感を振り払うように明るい声を出す。エメが小さな声で「ごめんなさい」と呟いて俯くと、レナルドは困ったような顔で首を振る。
「いや……
レナルドはそれ以上何を言えば良いかわからなくなって、黙ってしまった。
他のメンバーも、エメの
フロランが心配そうにエメの腕を引くと、エメはフロランを見上げて、無理矢理笑ってみせた。そしてそれから、服の上から胸に下げている冒険者タグと
その次の戦闘では、二匹のノーマルなスライムと一匹の
ノーマルなスライムよりも少し強い
パーティは、厄介な
最初は順調だった。エメはレナルドに
それから、
トドメを刺しやすくするために、エメは
エメの
ニナの挑発は失敗した。マリエルは急いで
マリエルはニナのHPをそのままにして、フロランの
マリエルは泣きそうになるのを堪えて、それでも
誰も
エメの
それでも、どうしてもパーティの中に「あの時のファンブルがなければ」という空気が漂っていた。あそこまではうまくいっていたのだから、あれがなければもうちょっとマシだったのでは。実際にどうだったのかはわからない。もし
休息中、誰も何も言わなかった。エメのせいじゃないというのはわかってはいて、だから誰も何も言わなかった。
さっきまでは明るい声と笑顔でみんなの気持ちを盛り上げようとしていたマリエルも、今は戦闘の疲労に押し黙って休息しているだけだ。
「大丈夫か?」
小さな声で、フロランがエメに問い掛ける。エメは小さく頷いて、聞こえるかどうかという声で「大丈夫」とだけ応えた。エメ自身も、自分の
頭上の
もうすぐで
「ボス!?
「ボスとはいえ、相手は一体だ、落ち着けば大丈夫だ!」
ニナの驚きの声に、レナルドが落ち着いて返す。みんなそれで戦闘態勢に入った。これを倒せば
エメはレナルドとニナに順番に
慌ててもう一度
「もう何もしないで!」
仲良くなれたら良いななんて思っていたけれど、それはもう諦めようと、マリエルのその表情を見てエメは思った。そのまま、持ち上げて構えた杖をどうして良いかわからなくなり、ただ突っ立っているだけになってしまった。
ニナとレナルドが二人がかりでボススライムの動きを止める。片方のHPがある程度減ったら、もう片方が割り込む。そこへすかさずマリエルの
フロランとパスカルがダメージを与え続け、そのダメージでボススライムの
ボスらしく範囲攻撃があったり、パーティメンバーも初心者らしい失敗やミスはあったけれど、エメなしでもみんなはなんとかボスモンスターを倒しきった。自分は必要なかったのだろうかと、エメは悔しくなって俯いた。
ボススライムを倒してドロップしたアイテムは、
パーティメンバーは全員、レベルが4になった。
ダンジョン探索で集めた素材と共にナイフも売って、そのお金をパーティメンバー全員で山分けした。エメはどんな顔をして良いかわからず、俯いたままそれを受け取った。
別れ際に、マリエルはエメに謝った。戦闘中のこととはいえ「何もしないで」は言い過ぎだったと言って「ごめん」と謝る。エメはその謝罪をどう受け止めれば良いのかわからず、曖昧に頷いた。
フロランには、次も一緒にパーティを組まないかというお誘いがあった。フロランは鍛冶の仕事があるからと、誘いを断った。エメは、誰からも、何も言われなかった。
「誘われたんだから、また一緒にダンジョン探索したら良かったのに」
エメが拗ねた声でそう言うと、フロランはいつものつまらなさそうな顔で、頭を掻いた。
「いや、もう、いいかげん修行始めないとだし」
「もったいない。
「良いよ、俺は」
フロランは小さく溜息をついて、言葉を続ける。
「冒険者、試しにやってみたけど、やっぱり俺には合わない。鍛冶仕事の方が向いてるよ」
エメはフロランの言葉を聞いて、悔しそうに唇を噛んで俯いた。フロランは困ったような顔をする。
「エメは……まだ冒険者、続けるのか?」
エメは弾かれたように顔を上げてフロランを見る。泣きそうな顔で、でも涙はこぼさずに、フロランを睨み上げた。
「当たり前じゃない! やっと冒険者になれたんだよ! まだこれからなのに!」
エメの勢いに圧されてか、フロランはもうそれ以上何も言わなかった。
それからも、エメは何度かダンジョン探索をした。
フロランは本人が言っていたように、鍛治の修行を優先して、冒険者の活動は何もしなくなった。最初に買った武器と防具もまた売ってしまった。冒険者講習で身に付けた鑑定のスキルだけは役に立っていると言っている。
どのパーティでも、最初はエメの大量の
規格外の
諦められないまま、二年経ってしまった。
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