第5話 侵入

放課後、夕暮れ迫る体育館の裏には2つの影があった。楠田と和田は牽制し合うようにお互いを睨みつけている。飯尾は治療のため、既に学校を早退してしまっていた。横風が強い。太陽も隠れてその様子を窺うかのように地平線に消えようとしている。


「おい、てめえが仲間呼んで飯尾をボコったんか?」

和田は低い背を高く見せるように胸を張って楠田に詰め寄る。背は楠田の方がやや高いが、威圧感は十分にあった。勿論、和田は飯尾を負傷させたのは楠田の仲間ではなく、ましてや楠田本人であるわけがないことまで理解していた。これは単純に楠田に因縁をつけたいだけだった。ただ単純に、飯尾がやられたことに対してのフラストレーションが溢れ返り、自分よりも弱い者に当たって発散したい。ただそれだけの情けない感情であった。


「犯人捜しはしないの」

楠田も昨日よりやや強気で和田に尋ねる。楠田もまた、これが和田のただの八つ当たりであることは認識していた。そして、今日は楠田自身よりもガタイが良く、いかつい顔をした飯尾がいない。相手は自分よりも体格の小さい和田のみだ。恐れるに足らない。楠田はそう思っていた。


「うるせえ。お前が白状してからの話だ」

もはや無茶苦茶である。ただ、楠田を殴りたいだけ。楠田は全てを見透かしたような表情で不気味に笑う。


「和田君。飯尾君がいないと、何もできないんだね」

和田はハッとした表情を見せる。しだいに和田の顔がみるみる紅潮していく。怒りの念が強まり行くのを感じた。


次の瞬間、楠田の左頬に和田の右拳が炸裂した。口の中が切れるような熱い感覚。鉄の味。一瞬何が起こったのか、楠田は理解できなかった。思わず、急に熱くなった左頬を左手でかばう。そのまま呼吸が荒くなり、その場にうずくまった。間もなく、容赦ない鉄拳が楠田の頭頂部に振り下ろされた。鈍い音がした。ぐわっとうめいて右手で頭頂部を押さえる。どうやら和田の逆鱗に触れてしまったようだ。


「うるせえ。黙れ黙れえ」

血走った目で我を忘れ、目の前にうずくまるそいつを暴行する和田。何度も何度もうずくまる楠田に向けて拳や足を振り下ろす。その度に、楠田はうめいた。和田が我に返ると、目の前に顔面を真っ赤に染めながら、涙をボロボロと流したうつ伏せの楠田が現れた。そこでようやく、和田は事の重大さに気が付いた。楠田の血で真っ赤に染まった自らの拳を見つめた。周囲のコンクリートにも血しぶきがべっちょりと飛散している。あからさまにやり過ぎてしまった。


和田の心に罪の意識がひしひしと湧いてくる。拳がワナワナと震えている。それは恐怖のせいか、それとも怒りの残り香か。

しかし、謝るだなんてみっともない。和田は震える右腕を左手で押さえつけた。しかめっ面は解かずに両肩で息をする楠田を睨みつけた。


「くそ。てめえが、てめえが悪いんだからな。俺のせいにしやがったら許さねえからな」

和田はそう吐き捨てると、一目散に校舎の彼方へ吸い込まれていった。

横風の吹きつける音だけだった体育館の裏に、まもなくして嗚咽が混じった。うつ伏せのまま力なく顔だけを上げた。そして、負傷した左頬を懸命に押さえながら、しばらく憎々しげに和田の消え去った方角を睨みつけていた。涙は血の味がした。


 息を切らして走り続けた。マラソン選手の尊さがわかるほど走り続けた。後ろは一切見ない。いよいよ両足が悲鳴を上げている。ふらつきながら、何度人とぶつかりそうになったことだろうか。


すっかり薄暗くなった住宅街。気が付けば、学校の裏門を飛び出し、いつの間にか帰宅ラッシュの武蔵大宮駅の駅前ロータリーまで辿り着いていた。既に日はとっぷりと暮れ、薄暗い表情を見せた駅周辺からネオンライトが踊り始めていた。居酒屋へと足を運ぶサラリーマンたちと、塾へ向かうと思しき学生服の群れ。


和田は乱れる呼吸を整えながら、南銀座通り入り口で静かに立ち止まった。頬を伝う汗を拭い去る。和田は迷っていた。昨日のあの事件現場へ行くかどうか。そして、犯人の男女に制裁を加えてやるかどうかだ。しかし、和田自身は昨日、飯尾よりも先に帰宅していたために現場を確認していないし、当然、飯尾を暴行した男女を目の当たりにしていない。さすがに人違いはまずい。


和田は息を整えながら脳内の情報を整理していた。確か、飯尾が覚えている情報は、赤い髪の中学生くらいの少女と言っていた。肝心の男は詳細を覚えていないとのことだが、ガタイは飯尾よりも良く、格闘技を習っていそうな雰囲気と言っていた。そして、小路の最奥にあるビルへと2人で消えていった。


勿論、和田は自分の腕力の無さは十分痛感していた。飯尾がボコボコに一方的にやられたという人物に、和田の腕力が通用するはずなどない。ただ、先程の楠田との光景が嫌でも脳裏に蘇ってしまった。


「飯尾君がいないと、何もできないんだね」

ぼさぼさ頭の、あの頼りない楠田が何度もの和田の脳内でほくそ笑む。どうやら自分は楠田に嘗められている。右の拳をぎりっと握り締める。そんなことはない。俺は自立した人間なんだ。あんな薄ノロ野郎に何がわかるってんだ。見せてやる。俺は弱くない。そして、飯尾がいなくても俺はできる奴なんだ。ギリギリと歯ぎしりをする和田。


「まずは、ターゲットの確認からだ」

和田は怒りをにじませた表情のまま、居酒屋の集中する通り、南銀座通りに突入した。

 

 すっかり飲み客で人がいっぱいに広がっている。人の群れを強引に掻き分け、目的の路地へと和田は突き進んでいく。確かスロット屋のすぐ近くの小路と聞いた。和田は人の波に流されつつも、目的の小路をいちいち睨みつけるようにして歩き続けた。

ほどなくして、その小路を見つけた。周囲に飛び散ったどす黒い血痕がわずかに残っていた。それ以外は、まるで何事もなかったかのようにいつもの飲み屋街としての喧騒だけが広がっていた。緊張感が走る。


和田は自らを落ち着かせるように、血痕の前でゆっくりと立ち止まった。そして、件の路地裏へと視線を送る。路地裏の奥には古びた低層の雑居ビルが犇めいており、表通りとは比較にならないほど、ひっそりと静まり返っていた。固唾を飲んで、和田はビルの1つ1つにゆっくりと視線を送る。


「この奥のビル、か」

鼓動の高鳴りがさらに大きくなる。意を決して乗り込んでやろう。和田は足元を確かめるようにして、ゆっくりと雑居ビルの方へと歩を進めていった。南銀座通りの喧騒が徐々にフェードアウトしていく。ひっそりとした寂しい空気が充満している。この静けさが奇妙なほどに不気味だった。

 

 10歩も進むと、表通りの喧騒は一切気にならなくなった。と同時に、和田の心臓の鼓動音が強まってきた。口の中は緊張のためかカピカピに乾いてきた。再び、唾をごくりと飲み込んだ。ビルの扉は1つ1つ固く閉ざされている。しかし、いつそいつらが出てきてもおかしくはない雰囲気だ。及び腰になりながらも、恐怖に駆られた心を落ち着けて確実に歩を進めていく。


と、奥の正面に見える雑居ビルのガラス扉がゆっくりと開かれた。和田は驚きのあまり、目を見開いた。鼓動が激しくうねり出す。思わず、傍らの古びたビルとビルの隙間に小さな体を忍び込ませた。そして、こっそりと真正面のビルの出入口付近の様子をうかがう。

 

 そこから姿を現したのは、赤髪の小さな少女と、身長2m弱はあろうかという大男の2人だった。

 

 和田は確信した。こいつらか。飯尾に怪我を負わせた奴らは。和田は思わず歯ぎしりをした。全身の毛が逆立たんばかりの怒りだった。今すぐにでも背後に回って、その後頭部に金属バットでも振り下ろしてやりたい。そんな衝動に駆られていた。むろん、今のこの状況では何もできないわけだが。初めて敵を目の当たりにしたものの、犯人たちへの恐怖よりも楠田への怒りが勝っている不思議な心理状態だった。


「…」

大男と少女が何事か話している。和田は耳を懸命にそばだてた。距離的には厳しそうではあったが、かろうじて彼らの言葉が鼓膜をつついてきた。

「ホタルイカの関係者ということを盾にしただけで、ここに匿ってくれる」

「それはそうでしょ」

赤髪の少女がしきりにうなずいている。

 

 ホタルイカ?どこかで聞いた覚えのある名称だ。海産物のイカではなく、もっと危険何かだった気がした。しかし、緊張のあまりどうしてもその正体を思い出すことができない。和田は頭を抱えて悩み始めた。

「俺自身はただのボクサーなんだけどな」

大男はにやりと笑う。確かに格闘技をやっていそうな、引き締まった細身の体。そして、日焼けしたかのように黒い肌。間違いなくスポーツ関係者であることは合点がいく。和田は思いつかない答えの導きを放棄し、再び2人の様子を窺うことに神経を集中させた。


「そんなほら吹きばっかしてたら、いつか本当に殺されるぞ」

赤髪の少女は呆れたような表情で言う。どうやら、大男たちはヤクザの関係を匂わせてこの雑居ビルに匿ってもらっているらしかった。しかし、この大男と少女の関係性は何なのだろう?兄妹という雰囲気でもない。むしろ、話し方や雰囲気からは少なくとも友達以上の関係を匂わせるような節があった。


「わかるもんかよ。こんな地方都市の一画で威張ってるだけだぜ?まあ、でも取り立ても板についてきてるというか、結果も残してるから信頼もしっかり勝ち取ってるしな」

「あんたは一体何で飯を食っていく気よ」

「稼げる方に決まってんだろ。金さえあれば何でもできんだからよ。お前も俺と一緒にいればずっと幸せにしてやるよ」

「はいはい」

赤髪の少女は再び呆れた表情。


どうやら2人はカップルのようだ。しかし、一体何歳差のカップルだ。和田は驚きを隠せなかった。少女はどう上に見積もっても、俺たちの年齢に達していない。童顔である。一方で大男はその上背のせいもあるが、どう考えても20歳半ばくらいではなかろうか。年齢不詳のカップルだ。そこまで思考を巡らせたところで、ホタルイカのイメージがふわっと脳内に降りてきた。思い出した。

 

 ホタルイカ。まさか。和田の顔がみるみるうちに青ざめていく。ガタガタと体の震えが止まらなくなった。


そう、数年前から全国各地で高校生を銃殺死体が発見されている大量殺人事件。死体のすぐそばに警察を煽る内容の手紙を置いていく謎の犯行スタイル。その差出人の名前が「ホタルイカ」。警察が躍起になって全国各地で捜索しているとのことだが、手紙以外の目立った手掛かりもなく、殺害された高校生同士の繋がりもわからない。故に動機もわからない。世間は無差別の大量殺人事件として、その「ホタルイカ」を恐怖の象徴として恐れた。

 

 まさか、こいつが。この大男が、そのホタルイカなのか?歯が突如、ガチガチと震え出す。こいつらはやばい。殺される。既に顔面蒼白で、心臓の鼓動も最高潮に跳ね上がる。

 

 ヒタヒタ。2人が徐々に和田の潜んでいるビルの谷間まで不気味に近づいてくる。

 冷や汗が頬を伝う。和田は急いでビルの谷間の奥へと逃げていく。背中がスース―して仕方がない。怖い。

「と言ってもまあ、金が尽きたら別の場所に移らないといけないしな」

「でももう、そんなに残ってないでしょ」

「お前がおっさん相手に稼いできてくれるから大丈夫だよ」

「また働かせる気?私ばっかり。ふざけんな」

熊田は何気なく先程まで和田が潜んでいたビルの谷間を覗き込む。


一瞬、正面の奥に人影が見えた。誰かが角を曲がっていったようだ。そう。物音が漏れ聞こえていたのだ。誰かがいるのはわかっていた。

熊田はペロリと舌なめずりした。

「これはいい感じのネズミが来てくれたなあ」

玲奈はきょとんとして首をかしげる。こちらは本当に気付いていなかったようだ。

「何よそれ?」

「んー?もしかしたら金に困らないで済むかもしれねえなあってこと」

熊田は小走りでビルの谷間に吸い込まれていく。


全速力で獲物を追いかける。玲奈は突然の事態に体も脳みそもついていけなかった。目を点にして、走り去った熊田の大きな背中を見つめていることしかできなかった。

「ちょっと圭吾」

玲奈が手を伸ばして呼び止めようとするも、時すでに遅く。熊田はそのまま、曲がり角に吸い込まれて姿を消してしまった。

 整然と立ち並ぶビルとともに取り残された玲奈はしばらく時間が停止していた。


「では、お疲れ様でした」

大学の半円の講義場のように、一番低く周囲を見渡せる位置に立つ教壇。その教壇から美稀は学級委員たちにペコリと丁寧にお辞儀した。堅苦しそうな表情を浮かべていた学級委員たちはガタガタと椅子に落ち着けていた腰を持ち上げる。美稀も溜息をこぼしてゆっくりと教壇から降りる。緊張が解けた瞬間、神経がすり減っていたのを感じ、どっと疲労が襲ってきた。そこへ、扉寄りの壇から颯爽と降りてくる1人の少年がいた。


「渡井君、お疲れ」

爽やかな少年の声に美稀は振り返ると、そこには穏やかな笑顔を浮かべた同じ学級委員の松坂清太の姿があった。


「あ、松坂君。お疲れ様」

美稀は再び笑顔を見せる。松坂はいつも爽やかで冷静で、誰にも臆することなく、的確な指示出しをすることのできる生徒だった。学業も優秀だし、スポーツもできる。同じクラスどころか学校中のアイドル的存在と言っても過言ではなかった。


「今日は渡井君のおかげで資料作成もだいぶ進んだよ。渡井君の資料はとてもシンプルで要点もしっかりおさえられていると先方もおっしゃってくれているんだ。本当助かるよ」

「本当?あんな感じので良ければ」

美稀は恥ずかしさのあまり、顔を赤らめて笑う。まさか、松坂から褒めてもらえるとは思わなかった。少し恥ずかしい。


松坂は根っからの完璧主義者であり、あまり妥協しないことで有名だった。学級委員会や学園祭実行委員の議事録作成ですら、要点がキッチリおさえられていなかったり、誤字脱字が1つでもあると担当に即座に電話をしてやり直しを命じる。これに関しては男子生徒からは不満が多かった。しかし、女子生徒からの評判が良いため、男子生徒はそれにしぶしぶ従っているような様子であった。

 

 美稀は自席に戻り、帰り支度を整える。松坂はその横をキープしてキザに突っ立っていた。

「渡井君、この間話したお寿司屋さんなんだけど、この後一緒に行ってみないかい?南銀座通りにあるんだ」

突然のお誘いに美稀は目を真ん丸くした。その手に持っていた犬のペンケースも落としてしまった。


「大丈夫かい?」

松坂が率先してペンケースを拾い上げる。美稀は慌てて謝罪する。

「ご、ごめん松坂君。ちょっと手が滑っちゃって。ありがとう」

美稀がペンケースをそそくさと鞄にしまう。荷物を全て鞄に収め終え、鞄を背負い上げた。


「で、どうかな?渡井君」

親しみやすい笑顔が目の前にある。美稀はどぎまぎしていた。確かに放課後は予定も空いている。そして、美味しいお寿司の話までされてしまったら、断る理由も見つからない。しかも相手は松坂だ。しかし、ふと大聖の屈託ない笑顔が脳裏をよぎった。

「あーごめんね松坂君。今日はちょっとママの帰りが遅くて、弟たちに夕食を作らないといけないんだ」

「うーんそうだったか。それは残念。またの機会だね」


残念そうな表情を松坂は浮かべる。

「ごめんね」

「いや、大丈夫だよ。夕食づくりなんて偉いね。がんばって」

松坂はすぐに親しみのある笑顔に戻った。思わず美稀にも笑顔が咲く。

「ありがとう」

「資料作りの方も、これからも宜しく頼むよ」

松坂は手を振って、そのまま階段を一直線に下りて行った。美稀も顔の前でしっかりと手を振る。松坂の姿が見えなくなると、ふうっと溜息を1つついてとぼとぼと歩き出す。

 

 今日はこの後、既に作成済の学級日誌を担任の橋本に提出に行かなければならない。窓の外はとっぷりと日も暮れ、運動部の学生たちも帰宅の途についている時間だった。最近は大聖たちと帰れていないな、と美稀は寂しさを胸に抱いていた。切ない。

 

 美稀は総理の読み通り、大聖のことが好きであった。それは小さい頃からというわけではない。ごくごく最近のことだった。3人で同じ高校になって、夏場になったくらいだったろうか。ふとした瞬間に、大聖の変わらない天真爛漫さをすごく羨ましく思い、自分は大聖に惹かれていることに気が付いたのだ。自分にはあんな素の自分を出す度胸も力もない。本当は何も取り柄のない1人のつまらない少女。猫を被ることだけでやってきた情けない少女。美稀は自身をそのように評価していた。ただし、美稀も最初から猫を被る人間ではなかった。


そう小学生や中学生までは、その天真爛漫さを持っていて何の問題もなかった。しかし、中学生も後半に差し掛かってきたところで、周囲との違和感を抱くようになっていった。顔色を窺い出す友達。担任教師や先輩の前で取り繕う友達。それこそが、女としての能力値みたいな感覚が周囲に染みついてきていて、それが美稀はとてつもなく嫌いだった。しぶしぶ美稀は切り替えた。ただし、大聖は違った。今でも小学生の頃の大聖をそのまま高校生にしたような感覚。それをすごく羨ましく尊敬している自分がいた。おそらく、総理もそのように思っているのではないだろうか。


そもそもこの3人組は大聖がいなければ存在しない。それくらいに美稀は思っていた。美稀の中で大聖こそが太陽。献身的な猫かぶりの私と勘のやたら鋭く大人しい総理と言った個性の異なる惑星を繫ぎとめることなど、彼なしではあり得ない。大聖に他の男の子と遊んでいるところなんか見られるわけにいかない。


やがて、美稀は誰もいないひっそりとした教室の前に辿り着いた。教室の鍵を制服のスカートのポケットから取り出し、扉を静かに開けた。カラカラと乾いた音を立てて開かれる扉。そして、薄暗く誰もいないひっそりとした教室の電気を点けた。明るさを取り戻した教室だったが、机がひたすらに整然と並べられているだけだった。真ん中やや後ろの美稀の机の上だけに、静かにポンと学級日誌が置かれているだけだった。


美稀はつかつかと教室の自席まで学級日誌を回収に行く。溜息をまた1つ。


ガタン。

 

 突如、教室の扉が再び開いた。反射的に美稀は教室の扉に視線を送る。すると、目の前には顔面血塗れのボサボサ頭の小柄な男子生徒が、小刻みに震えながら教室の扉に寄りかかっていた。

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