閑話 火の使い手
その頃、王都にある王立サンフォード魔法大学のとある研究室にて、とてつもない轟音が鳴り響いていた。
「これはどういうこと?」
「う、ウィルフォード嬢。落ち着こう? 私はこれでも君の教師で――」
「私の教師は今も昔もアイツだけよ。次、戯言を言ったら……斬って燃やす」
そう言って、地べたに尻もちをつき、後ろへと後ずさる教授に迫るのは、シェフィールド王国の最強戦力の一人、リーナ・ウィルフォード公爵令嬢だった。
その手には一般的な騎士が扱う騎士剣が二つ。紅く――紅く煌々と燃え盛っていた。
「もう一度、聞くわ。アインが何故、ガーランド公爵領に行ったの?」
「単位を取って自習をしている君たちと違って、私は大学で職務を全うしないといけないからね。
アインに古馴染みの公爵の娘の面倒を見るようにお願いして――」
「今、公爵の……なんて?」
「娘だ! ガーランド公爵家三女、イリヤ・ガーランド公爵令嬢の家庭教師をするようにアインに依頼したんだ‼」
そう教授が告げた瞬間――爆発を喰らったかの様な熱波に襲われ、教授は後方へと吹き飛ばされる。
突然のことにスーツの端が焦げているような気がしないでもないが、教授は冷静に消火しつつ、結界で熱波から自身を守る。
その辺に投げ捨てて置いた、没になった研究資料の束が燃え始めていた。
「よりによって、女のところに行かせるなんて……」
深刻そうにそういうリーナは教授を睨むと一言。
「教授――次はないわよ?」
もはや反論のしようもなかった。
「は、ハイ……(すまん、アイン。お前の犠牲は忘れない)」
「すぐに、北に向かわないと」
そう言って嵐は去っていった。
ちらほら出始めていた火を消火していると、教授を見捨てて避難していた教え子たちが戻ってくる。
「戻ってきたか。悪いが消火を――」
「手伝いませんよ? 自業自得でしょ?」
「まぁ、あれは教授が悪いな」
「先輩が何も言わないからって、色々と面倒事を押し付け過ぎなんですよ」
と、酷い言われよう。
教え子たちは早々に自分の課題を始めてしまった。
この調子では、彼ら彼女らもアインやリーナの様に四年またずに単位を取得し終えてしまうだろう。
「君たち? もう少し先生を敬ってだね……」
「私たちの先生は先輩だけですので」
「右に同じ」
「……」
最後に一人に至っては、「言わなくても分かるよね?」と言いたげに睨まれた。
教授は諦めて一人で片付けをする。
(ここ私の研究室のはずなのにな……)
殆どアインとリーナに私物化されているような気がしなくもない研究室を眺め、教授はため息をつく。
アインの無事を祈りつつ、帰ってきてからの仕返しが怖いと思いながら――
――
あとがき
というわけで、くっそ短いですが、これで第二章は終了です。
一応、この作品を最優先で書いているため、今月中には1巻分の内容を公開できればと思っています。
思っていた以上に評価頂いている「放蕩皇子の英雄奇譚」に関しては、幾つかピックアップした賞の中で6月末締切の賞に間に合うように書こうと思っているため、今年中に書こうとしている作品群の中では優先順位がほぼ最後になっています。
というよりも、半年でこの作品含めて書きかけが複数あるとは言え、7作品書こうとしてるわけですが、本当に書けるのか……?
いずれにしても、無理のない範囲で今年はがっつり頑張りたいところ。
どうぞ、おそらく知られていない、あるいはまだ公開していない作品共々、応援をお願いできればと思います。
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