ガーランド公爵領のはじまり
ここガーランド公爵領は、厳しい積雪と風が猛威を振るう土地であり、人々がそのままの状態で都市を築くには向かない場所であった。
しかし、この土地を制すことが出来れば、シェフィールド王国の北部国境を確実に維持できる。
当時の国王はなんとしても、この北の台地を手中に収めたかった。
そして、抜擢されたのが、当時のガーランド公爵だ。
元々、屈強な肉体を持ち、人望もあったガーランド公爵を選んだのは正解で、ガーランド公爵を支えるためにと、北の台地行きを志願する騎士や職人が続出。
それぞれが、今の安寧から抜け出して厳しい生活を強いられることを知っていたが、ガーランド公爵の人望がそれを上回った結果であった。
北の台地に辿り着いたガーランド公爵たちに最初に襲いかかったのは、魔物でも隣国の軍でもなく、北の台地の支配者である“風”だった。
気温が低く、雪で視界が悪い中、開拓者たちの体温は風によってどんどん奪われていく――一人、また一人と気力を奪われ倒れ、あるいは凍死していった。
だが、それでも公爵は己の受けた王命を全うすべく、風へと立ち向かう。
付いてきた者たちも必死に公爵を支えたという。
そして――北の台地の守護神・風見鶏は、激しいやり取りの末、公爵を守護者として認めたのだ。
これこそ、世界初の風の極致魔法・《風見鶏》が生まれた瞬間であった。
多くの試練に立ち向かい、その末に風の祝福を受けた一行は、いよいよ北の台地に都市を築くことにする。
北の台地は人が踏み入れず魔物が蔓延る場所であり、試練の最中に幾度となく対峙していた。
そこで彼らが最初に建てたもの。それが――
「壁ですか……」
「正解です。イリヤのご先祖様たちは、最初に民を守るための壁を作りました」
作られた壁は全部で三つ。
最初に作られたのは、都市の中心にして、ガーランド公爵家の屋敷があるここだった。
そこから、円状に外に二つ壁があるのだ。
「でも、この作りってどうなんでしょうか?」
「と、言いますと?」
「私達、公爵家は中央にいますけども、領民は一つ目と二つ目の壁の間にいます。
まるで、領民すら私達の壁にしているかのようで……」
「それは違いますよ」
アインはイリヤの頭を撫でながらそう言う。
事実、気休めなどではなく、しっかりと考えられた作りをしている。
だからこそ、ガーランド領は厳しい土地にありながら、他国や魔物の侵攻を許さずここまで栄えたのだ。
「都市の中央に公爵家があるのは当たり前として、その周りにあるのはなんでしょうか?」
「マーケットや宿泊施設、図書館などの公共施設ですね」
「その通り。一つ目の壁の中は最終避難場所です。
マーケットなどで普段から、日用品や食料品を扱っていれば、“万が一”があっても、備蓄に困ることはないでしょう?」
中央の重要な場所であるにも関わらず、倉庫街があったりするのは、実は常に潤沢な備蓄を用意する目的があるのである。
また、一つ目の壁周辺には、都市の建築に携わった伯爵家や男爵家が多く住まい、壁の向こうから避難してくる民を守れるように日々訓練をしている。
これは、二つ目の壁も同様だ。
侯爵家や子爵家、騎士たちは二つ目の壁の周辺にいる。
侯爵家も?――と思われがちだが、これは、シェフィールド王国に倣っている配置であった。
王国が四方向に公爵家を配置しているように、それぞれ侯爵家と子爵家を配置しているのだ。
そして、最後、三つ目の壁は実は、防衛用とは少し違った意味合いを持つ。
一つ目と二つ目は比較的、高さがあり、登って侵入することは難しいため、どうしても検問所を通過する必要がある。
しかし、三つ目は梯子でもかければ超えられるような壁になっている。その代わり、とてつもなく分厚くなっており、外部からの大きな衝撃に耐えられるように作られている。
これの大きな目的は、大型車両の侵入妨害だ。
「導力戦車……隣国の開発した大量破壊武装対策ということですか?」
「そうです。いま現時点では空を使った輸送は出来ませんから、地中から分厚い壁を作ってしまえば、侵入を阻止できます。
歩兵同士の戦いなら、王国が負けるはずもありませんからね」
コストは大きいが、確実性の高い方法でもあった。これに、侯爵家や子爵家の監視が付けば、不測の事態が起きても迅速に対応が出来る。
公爵家主導で建てられた建築物はそれぞれ、意味を持つものということである。
監視塔などもこれに該当し、遠い壁もそれぞれの監視塔から、しっかりと監視することが出来る。
「この様に、単純に“壁”とは言っても、それぞれに役割があります。魔法も同じです。
例え同じ魔法であっても、持たせた意味の違いで勝敗が分かれることだってあります」
実は、こういった違いが分かりやすいのは武術だったりする。
世の中には、主流とされる剣術、槍術、弓術などがあり、そういった流派には、奥義と呼ばれる型がある。
しかし、これはあくまで基本の形であり、それぞれ教えを受けた者が型を習得後、同じ技を使わせると少しずつ違いが出る。
これは、それぞれの得手不得手が生み出した、使用者の“癖”が表面化するからだ。
魔法も同じで、イメージの仕方、魔力の込め方、魔法式の構築の仕方によって、同じ魔法でもちょっとずつ変わる。
だからこそ、魔法は自分の“認識”をしっかりと確定させなければいけない。
壁なら壁に一体、どんな役割を求めるのか?
「さて、というわけで、早速、壁を登りましょうか」
アインはにこやかにそういう。
――
あとがき
昨日のあとがきの通りです。
今回の話は事前に公開してたものと同じ(もしかしたら一部修正はあったかもしれない)です。
明日からは完全に未公開部になりますので、よろしくおねがいします。
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