1-07 紹介
◇◆◇◆◇◆◇
ゴールデンウイーク前の本日、ようやく硬式野球部の入部式の日を無事迎えた。繁村の目標どおり11人の選手と1人のマネージャーが入部を決めてくれた。元気に部員全員集まってくれて、いよいよ新入部員たちの自己紹介となる。毎年のことであるが、概して緊張気味の面持ちだ。
「じゃあ、向かって左から行こう! 畝原からクラスと名前と出身中学と、あと一言よろしくな!」
繁村は新入生たちに指示する。
「はい。1年F組、
畝原は非常に落ち着いた口調で自己紹介した。冷静であれば、性格的にもピッチャー向きなのかもしれない。
「えっと、1年D組、
若林は身長165 cm程度だが、身体はがっちりしている。入部早々、自信があると自分で言うあたり、中学校でも打撃で活躍してきたに違いない。
「E組の
泉川は身長は比較的高い。バッティングセンターに通うのが趣味なのか。どうりで振りが鋭いと感じたところだ。しかし、然るべき指導者がいなかったのか、スイングが個性的である。
「い、1年っ、C組の
この子はガチガチだ。坊主に近い短髪で垢抜けない感じは一昔前の高校球児っぽい。未経験者らしく不器用そのものだが、早くも練習中声を出したり、球に飛びついたりとガッツを見せている。左利きで身長がひと際高いので、ファーストで使ってみたい。
「1年H組、
今度は球児にしてはいささか肥満な岩切だ。いかにもキャッチャー体型だが、サウスポーを理由に事前に断っているあたり、中学時代もさんざん体型でいじられたに違いない。
「H組の
この子はチャラい。上下関係の教育は必要そうな栗原だが、未経験ながら野球のセンスはかなり光るものを感じる。強肩、俊足、バッティングセンスの良さを存分に感じる。ちゃんと指導すればこの子は伸びる。左利きということもあって外野手向きだろう。ところで好きな球団がオリックスというのも宮崎では珍しい気がする。何でだろうか。
「1年I組の
金丸は、新入部員の中でも1、2を争うくらいの俊足だ。センター1本といっているので、やはり彼も外野手なのだろう。と言うか、彼もサウスポーだ。愛琉のヤツ、どれだけ左利きばっかり集めてきたのだ。
「1年G組、
この瞬間、彼のニックネームは『どろたに』くんに決まってしまった。ニックネームはさておき、彼は小柄ながら、強肩が光っていた。反射神経も良く足もそこそこ速い。サードで使ってみたい子だ。
「A組の
さて、最後に愛琉が引っ張ってきた横山だ。野球に縁遠い体格だが、負けん気が強い。また元来勉強が得意で研究熱心な性格は、野球にもプラスに働くに違いない。
徐々に、全員の自己紹介が終わろうとしている。残りは愛琉と黒木とマネージャーの河野美郷の3名だ。
「ねぇクロちゃん、あんたトリでお願いするけ!」
「なして!?」
「だって、あんた、てげ面白そうっちゃもん。せっかくの自己紹介、オチの一つや二つ入れんと、盛り上がらんっちゃよ」
「嫌やっちゃ! そんげ言うなら愛琉がやればいいと!」
愛琉と黒木がもめている。順番どおりに行けば、次は黒木だ。どっちでもいいから早く自己紹介してくれと、繁村は心の中で呟く。
「えっと、
ウケを狙ったつもりだろうが、かえって静まってしまった。見事に滑ってしまった黒木に対し、「やいやー、せめて『クロちゃんです!』ってやりない?」と愛琉が某芸人の持ちネタを代わりに披露しながら、ミスをなじる。
「じゃあ、お前、面白い自己紹介してくれやっちゃろうな?」黒木がやや怒り気味に愛琉に言う。
「クロちゃんハードル下げてくれたかい、少し楽っちゃが!」
「嫌味かよ」黒木はムスっとしている。
「おい、早く自己紹介してくれ」繁村は愛琉に催促した。
「はいっ、監督! お待たせしました! アタシ、1年F組の
いきなり、愛琉は振り付けを交えながら甲子園でもお馴染みのピンクレディーの往年の名曲を歌い始めた。しかも才能は野球に吸い取られたかというくらいお世辞にも歌が上手いとは言えない。変わった女の子なのは分かっていたが、こんなにも変わっているとは。繁村は吹き出しそうになるのを必死に
「何、超面白いっちゃけど!」
「ピンクのサウスポーよりも、マンゴーのサウスポーっちゃな。地黒やし」
「失敬な!? これでも女子だから日焼け止め塗ってるんですよ!? せめてブーゲンビリアにしてくださいよっ」
先輩や同級生にさっそくいじられまくっている。黙っていれば間違いなく美人なのに、いったん口を開けばそれをすべて帳消しにして正反対のベクトルにしてしまうくらい天然でお笑い気質っぷりである。マンゴーがダメでブーゲンビリアなら良い理由も、繁村にはよく分からない。
嶋廻愛琉の珍妙な自己紹介ですっかり部は笑いに包まれたが、あと1人まだ残っている。
「では、トリを飾るのは、マネージャーとして入ってくれた河野さんです」
「あー! 美郷のこと忘れてた!」愛琉が頓狂な声を上げる。
「もー! メグメグのせいで、思いっきり自己紹介やりにくなったっちゃろ!」
美郷の発言はごもっともだ。
「はい、私は
美郷は深々と頭を下げた。ごく普通の自己紹介だが、愛琉のおかげでたちまち
このニューカマーである選手11人とマネージャー1人を迎えて新生野球部がいよいよ夏の大会に向けて始動する。楽しみなチームになるそうで、繁村は武者震いした。
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