間違いなく君だったよ

長月瓦礫

間違いなく君だったよ


「ゔぇああっ⁉︎」


八坂さんが怪鳥みたいな声を上げて、水たまりにダイブした。

雫がはね、傘は思いもよらぬところへ飛んで行く。


人々は彼をじろじろと見ながら、避けて通る。

俺も思わず足を止めてしまった。


彼はすぐに何事もなかったかのように立ち上がって、服についた砂を払う。

濡れたところは諦めたのか、すたすたと歩き去った。


「なーにやってんだ、あの人……」


少しだけ悲し気な背中を見送りながら、俺はぽつりとつぶやいた。

八坂さんは休憩中に着替えたらしく、服が変わっていた。

その後は打ち合わせをして、その日は終わった。




次の日、打ち合わせの件で彼に確認したいことがあった。

もちろん、悪意も何もない、ただの事前確認である。


「あの、すみません。昨日のことなんですけど」


「え、何⁉ 俺は何も知らないからね⁉︎」


俺が話しかけると、慌てて振り返った。

一瞬、沈黙が下りる。


水たまりに足を滑らせて、前のめりに転ぶ姿が脳裏によぎった。

奇声とともに手元から傘が離れ、大きな音を立ててずっこけた。


「ああ、やっぱり……」


昨日の決定的瞬間にこらえきれず、俺はついに吹き出した。

何かの見間違いかとも思ったけど、全然そんなことはなかった。


「やっぱりって何⁉︎ てか、笑いすぎだから!」


というか、ここまで綺麗に墓穴を掘る人も初めて見た。

こんな反応をする人、本当にいるんだ。


周囲から冷たい視線を浴びながら、彼は俺の肩をはたいたのだった。


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間違いなく君だったよ 長月瓦礫 @debrisbottle00

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