第26話 違和感

「ふあぁあ、終わったぁ」


 ピノがらしくないように、気の抜けた声を発する。

 無理もない。ほぼ丸一日あんな化け物を何十体何百体と相手にしたのだから。


「すいません」

「はいっ?」


 俺たちはオカランドに戻ると、直ぐに誰かが話しかけてきた。

 それにすかさずピノは反応する。


「少しの時間、運営本部に来ていただけますか?」


 この言葉で相手が運営だという事が確定。


 ピノは俺たちの方を向いて、大丈夫だよねとアイコンタクトを取る。

 俺とマックスは軽く頷く。


「それではこちらへ」


 そう言って俺たちは案内される。



「ミミ・ロザリック様がおっしゃっていたボスと戦っていたのは貴方たちで間違いありませんか?」

「はいっ」


 本部に着くなり、運営は俺たちにそう質問する。

 ピノが威勢良く返事をする。


「それでは、念のためパスカードを提示していただきます」


 このような細かい所も入念にやっていることに、俺は関心しながら俺はパスカードを渡す。


「えっ――下位生?」

「はい……」


 何とも情けない。ここにいるのは喫軌の中でも高ランクの持ち主。

 それに比べて俺は一番下。実に情けない。


「それにEクラスなんて……本当に彼は戦っていたのですか?」

「もちろんです」


 運営側の俺に対する目がきつい。

 ピノは俺をすかさずフォローするが、あまり運営側は信じていない様子。


「……まあ、運が良かったとでも思ってくれればいいです。マックス様は子甕なためランクアップが適応されないのですが、ピノ様とサクト様には相応のクラスアップの見込みがあると期待しておいてください」


 最初の言葉が無ければ素直に喜べたんだが……。


「それではありがとうございました」


 そうして俺たちは喫軌から出る。


 喫軌から出ると直ぐにクリスが俺たちを迎える。


「お帰り! サクト。そしてピノ。あと……えっ⁉」


 クリスは俺たち三人を順に見ていく。

 そして最後の三人目であるマックスに目を付けた途端にクリスが唖然とする。


「マックス……さん?」

「おう」


 そうマックスが誇らしげに言う。


「まさかサクト、子甕とつるんでいたなんて……」

「助けてもらったんだよ」

「そりゃなんとも贅沢な……」


 ピノがやれやれと呆れた顔をする。


「クラスアップってどのくらいすると思うか?」

「んー、まあ中位生まではいくんじゃないかな」


 クリスが冷静に分析する。

 中位生とは50000位を超えるという事。

 今のランクが54023位な事を考慮して言うとかなりのランクアップだ。


「本当か! それは楽しみだなぁ」


 そう妄想を繰り広げていると、マックスとピノはこの後用事があると言って静かに去っていった。


「なんかさ、ミミ・ロザリックって言う人にあったんだけど」


 俺は少し自慢げに言ったのだが、何故かクリスは動揺する。


「え……」

「大甕なんだろ? すげー強かったぞ」

「な、何か言ってたかな? ミミ・ロザリックは?」


 クリスをよく伺うと、動揺する他に憎しみもあふれ出ている。


「……いや、特に何も」

「ほう……」


 クリスは分かりやすくホッと胸を撫でおろし安堵する。


「何かクリスおかしいぞ?」

「いやっ何でもない……あっ、ちょっと今日この後予定あるから先帰るね……」


 逃げるようにクリスは去っていく。


 もはや怪しすぎて逆に素なんじゃないかと思ってしまう。


 でもそれは違うだろう。クリスは何かおかしい。俺に何かを隠している。


 そうクリスの背中を目で追っていると、またまた俺は誰かに話しかけられる。


 あれは……チェルシーだな。


「えっと……大丈夫だった?」

「心配してくれてるのか?」


 少しおちょくったつもりだったが、チェルシーは俺を睨みつけながら、自分オリジナル技である【フォースカッター】の「フォ……」と言いかけたためすかさず俺はすまんと頭を下げる。


 下手したら死ぬぞ俺……。


「んで、なんの用なんだ?」

「用が無いと話しかけちゃダメなの?」

「いや別に」


 チェルシーはそう言ったが実際には用があるのは確か。

 チェルシーが用もなしに俺に話しかけてくるなんてあり得ない。


「えっと、あの時はありがとう……」


 あの時とは魔凶の日、チェルシーがぶっ倒れた時の事だろう。


「おん」

「今度は……ね」


 チェルシーは俺を睨みながら目を赤色に光らせた(ような気がした)。


「はいはい。俺が勝ちますよ」


 チェルシーは不服そうに睨みつきながら足音を立てて帰ってく。


 変な同期をもってしまったもんだな……。


 そう呟かずにはいられないのであった。












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