第27話 詰み
「お! ランク結構上がってる!」」
クラスアップの報告は、魔凶の日が終わってから一週間も経過していなかった。喫軌本部の掲示板には、以前言っていた通り、俺とピノとマックスが大きく取り上げられていた。
そしてそこには、三人全員のクラス変動も提示してあった。
サクト 54023位 → 現 43261位
ピノ 98位 → 現 95位
マックス 9位 → 現 9位(変動なし)
俺はランク10762位アップし、中位生となった。ピノはランクが3位アップしていた。
実際少ない気もするが、現状が二桁の順位と考えると、分からなくもない。
マックスのランク変動はしょうがないだろう。上が甕なのだから……。
俺は思っていた以上にランクアップしたことによって、随分浮かれていた。
そして街中も、魔凶の日が終わったことによる騒ぎは、決して小さいわけでは無い。
しかし、俺にとって良くない噂が流れ始める。
「サクトー、ランクアップしてまだこの辺の強さが分かっていないと思うから、一度ランク戦してみない?」
「そうだな」
俺は10000ものランクが一瞬にして上がった。10000上がってどれだけ強さが上がるのか見当もつかない。
俺はパスカードのGPS機能を使い、早速ランク戦を申し込もうとした。
相手のランクは43001位。
「ランク戦良いですか?」
「ああ、いいぜ」
だいぶこの辺の流れも掴んできたな。なんなく誘う事が出来るようになった。
俺はパスカードを相手に提示する。
しかし、ここで相手が不思議な目で俺を見つめてくる。
「お前、魔凶組で掲示板に乗ってたやつか?」
「あ、そうですけど……」
案外有名になってるもんなんだな。
「悪いが、ランク戦はやめだ。無かったことにしてくれ」
そう言うと、すぐにこちらに背を向け、歩き出した。
俺は何も言わずにクリスの方に顔を向けた。
クリスは腕を組み、険しい顔をしながら考え出した。
「悪いが自分にも分からないや」
クリスが組んだ腕をほどき、申し訳なさそうにこっちを向く。
「んー。まあ、たまたまかもしれないしな」
「そうだね。他の人にも当たってみよう」
俺はひとまず気にしないことにして、再びランク戦をすべく歩き出した。
「すいません。ランク戦良いですか?」
相手は何も言わずにコクリと頷いた。
俺たち二人はパスカードを交わす。
しかし、また先ほどと同じように、ムスっした顔を見せる。
「お前、あれだろ。その場にいただけでランクアップした魔凶組のやつだよな」
「えっ――」
粗方間違っていなくもないが、言い方というかなんというか……。
「お前みたいにズルい奴が俺は嫌いだ」
そう言ってあきれながら去っていった。
俺はクリスに顔を向けると、クリスはやれやれとした表情を見せ、口を動かした。
「つまりは、中位生でもないお前がボスと戦えるわけがない。だから何もしてないのにランクアップした……と世間は解釈されているわけだね」
事実、俺は中位生でもなければ、見た目も強そうともお世辞にも言い難い。
ランクを上げることは誰しもが苦労し、苦痛に思う行為だ。それを一瞬にして大きく上に上がったことはさておき、何もしていない、つまりその場にいただけでランクが上がったと聞けば、反感を買うのも否定できない。
俺は役に立ったかと聞かれれば迷わずNOと答える。しかし何もしていない、と言われるのも少々肯定しがたい。
今回めんどくさいのは、何もしていないのにランクを上がったことよる反感。理不尽だとも思われるが、俺は役に立っていない。つまり何もしていないのと同じと言われるのも、受け入れがたい事実であるということ。
「どうすればいいんだ……?」
「んー……取り合えず待つしかないかなぁ」
そう。今回こちら側から行える手立てはほぼ皆無だと言える。
俺はちゃんと戦っていたと主張すれば、そんな訳ないと言われるだけだ。
そしてそれから一週間――
事態は収束しず、むしろ悪化し続けていた。
一週間俺は何も行動を起こさなかった。というか起こせなかった。どのみち戦おうにも戦える状況ではない。
しかし、ランクが物を言うこの世界ではランクとは掛け替えのないもの。誰しもが上へ上へ上げようと行動を起こす。
一週間ランク上げをしない。という行為を聞いても、正直何もない状態では全くと言っていいほど違和感を覚えないだろう。でも俺は今、世間で注目されているかつ、何もしずにランクアップをしたと非難が殺到している。皮肉にも世間の解釈はこうだ。
『実力関係なしにランクが大幅にアップしてしまったから、大幅にアップしたランク帯では勝ち目がない。だからランク戦が出来ない』
理不尽な解釈の仕方だ。しかしそう思い描いてしまうのも否定できない。
改善策が見当たらない。誤解を解く行為も一週間前同様無理がある。ランク戦は行おうとしても断られるから無理。何千何万人といる中でわざわざ俺にランク戦を申し込む物好きだっていない。
「もう一回だけランク戦しようとしてみてもいいか?」
「そうだな」
断られたのは一週間前。もしかしたら状況が変わっているかもしれない。
「すみません。ランク戦良いですか?」
相手はこちらの目すら見ずに答えた。
「俺はお前みたいに卑怯な手を使いたくないんだ。関わらないでくれ」
「……」
もうパスカードを渡す前から断られるようになっている。
このまま一生ランク戦が出来ないなんてことはないよな。
俺は焦りも生じ始める。
こんなはずならランクアップなんてしなくて良かった……
そう心の中で呟く。
打開策がほぼゼロになった。
クリスが深刻そうにこちらを向きながら言う。
「サクト、これをなんていうか分かるか?」
「詰んだな」
俺は地面に顔を向けた。
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