第25話 魔凶の日6
「大甕って……」
俺は頭の中に眠る記憶を辿る。
この喫軌を指揮している者が『
つまり、ミミ・ロゼリックを名乗るこの女は、ランク3位以上の化け物であるという事。
そのことが分かると、途端にミミ・ロゼリックの圧力に押しつぶされそうになる。
これが甕……。
「ミミ・ロゼリック様! 来てくれたんですね!」
「ええ。少し遅れてしまいましたけど」
話混じりに俺に治癒を掛ける。
俺は立ち上がり、ぺこりとお礼をする。
「あの、予定の方は大丈夫なんでしょうか?」
この化け物相手に、恐れながらを会話を出来るコミュ力の高さ……やはりピノは只者ではないな……。
「一応終わったよ! ごめんね、他の皆はまだ忙しそうで」
ミミ・ロゼリックは、踏みつぶしていたボスから身を下した。
どうやらボスは意識不明か、すでに死んでいるらしい。
何をしているのかは未だによく分からないが、甕一人、ましてや大甕の方が一人でも来てくれたことによるこちら側の戦力の上昇は、半端ではない。
「えっと……ボスと戦っていたのは貴方たち?」
「えっと。今は意識が無い状態なのですが、マックスさんという人と三人で戦っていました」
ピノがマックスの場所までミミ・ロゼリックを案内させた。
マックスを見ると、ミミ・ロゼリックはハッと何かを思い出したような顔をした。
「マックスって……確か子甕よね」
「そうです……」
「ちなみに貴方たちのランクは?」
「私は98位です」
「へぇ98位で! それで、君は?」
「えっと……54023位です……」
自分で言っていて情けない。ここにいるのは98位と9位と3位以上の
「いやいや、中位生にもなっていないのに、ボスなんて太刀打ちできるわけないでしょ!」
ミミ・ロゼリックが苦笑いしながら俺の肩をポンと叩く。
「えっと。一応本当です」
俺は持っているパスカードをミミ・ロゼリックに見せた。
「げっ!」
パスカードを見たミミ・ロゼリックは、驚きのあまり声が漏れてしまったようだ。
「中位生でもないのに……」
「本当に私も彼の強さとセンスにはビックリです」
「いえ、実際は何もしていないですし……」
事実、本当に何もしていない。【ダブリングチェンジ】を使ったものの、軽くノックバックしただけ。
すると、パスカードを見つめていたミミ・ロゼリックは何か納得した表情を見せた。
「なるほどっ――」
「えっ? 何か言いましたか?」
「いえ、何でもないです。ボスも倒したことだし、私は帰るねー。また後日」
ミミ・ロゼリックは地面を蹴り飛ばし、空へ飛んでいった。
というか、こんな一撃で倒せるなら、ちゃっちゃと来て倒してくれれば良かったのに……
「ふふはぁぁ。緊張したぁぁ」
ピノが我慢していた緊張が一気にほぐれ、下に崩れ落ちた。
ピノらしくない光景だ。
「ちなみに、さっきの人のランクは?」
「えっとねー。ランク3位だよ」
大甕の中では最下位なものの、化け物なのに変わりはない。
「何も武器持ってなかったっすけど、もしかして格闘系?」
「えっと、確か魔術使いだったと思うよ」
「へぇ。でも魔法の方が強いんですよね?」
「それが案外魔術使いも厄介でねえ。前、ものすごい魔術使いと戦ったんだけど……単純に力でゴリ押すような魔法とは違って、魔術はジワジワネチネチとする戦法だからめんどくさいんだよね」
「なるほど」
つまり魔術も魔法も両方違ったよさがあるという事。
「じゃ、ボスもいなくなったことだし。帰ろっか」
「そうですね」
俺もボスを倒したからか、身が少し軽くなった気がする。
俺たち二人は歩き出す。
「あ、待って! マックスさん忘れてる!」
ピノがいきなり急ブレーキをかけ、方向をクルリと回転させる。
マックスはまだ動く様子はない。
「ありゃりゃ、マックスには治癒かけてくれなかったのかな……まあ欲は言えないよね。ちょっと待ってよっか」
「そうですね」
俺たちはマックスのそばへ腰を下ろした。
「やっぱり凄かったね大甕」
「というより、なんで大甕ってすぐ分かったんですか?」
「まあランクが二桁にもなると、ちょいちょい甕からの依頼も入ってくるからね」
「甕からの依頼……?」
「まあ大甕から来ることなんて滅多にないんだけどね。超位生からはランク戦制度が消えちゃうからね」
「えっ! そうなんですか?」
「そう。依頼とか大会とかじゃないとね」
「へえ」
するとマックスが顔を上げる。
「あっ! マックスさんやっと起きた!」
「う、ボスは……?」
「大甕が来て退治してくれました!」
「ちっ」
その舌打ちは、決して自分の獲物を取られた訳でも、復讐をできなかった訳でもない別の何かへの怒りに感じた。
「そういえば、マックスさんって甕になろうとは思わないんですか?」
「甕には興味ないんだ」
つまり、なりたいという訳でもない。もしかしたらなろうと思えば、甕になれるくらいマックスは強いのかもしれない。
「何でなりたくないんです?」
「俺は甕が嫌いだ。あれだけの力を持っていて――。」
そう言うと、その場から立ち上がった。
「時間掛けさせて悪かったな。戻るか」
俺たちは何も聞かずにコクリと頷き、再び歩き出した。
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