第16話 フリスト村と喫軌
「そういえば、喫軌はなんで強さこそが全てってなってるんだ?」
「んー。それは甕にしか分からないよ」
「そうだよな……」
この世界に来て俺ははや半年が立とうとしている。だがこの世界には謎が多い。なぜこの世界は喫軌という勢力があるのか。それに理由があるのは確かだ。それと俺は何故異世界転移をしたのか。確かフリスト村の人がいずれ分かるって言っていたけれど、いつ分かるんだろうか。
俺は考えても仕方がないと思い、フリスト村にもう一度向かう事に決めた。以前お世話になったことは事実だし、俺が今フリスト村のお陰で喫軌に入れたことも報告しておきたい。
個人的な思いという事もあって、俺は一人でフリスト村に向かうことにした。
フリスト村はマゼラ森林の奥の奥。喫軌を出てから歩いて30分ほどかかる。でも今の俺には【ハイハイパー】がある。チェルシーに今更だがお礼を言っておく……。
「さて、行きますか」
「【ハイハイパー】」
俺は喫軌を出て直ぐに【ハイハイパー】を発動させた。
高速でマゼラ森林を突き進んでいく。
走り始めて3分ほどだろうか。見知らぬ……いや、見知る男に声を掛けられた。
「お、おま、サクトじゃねえか!」
「フロリス!」
そこに立っていたのは、この世界に来て初めて俺が話をした厳つい男。フロリスだ。
「おっ。喫軌に入ってるな! 元気にやってるか?」
「ああ。もちろんです! そっちは……なんにも変わって無さそうですね」
そう言うとフロリスは苦笑いをした。
「ひとまず、村まで来いよ」
「もちろんです!」
俺は二度目のフリスト村に足を踏み入れた。景色は昔と変わらず竪穴住居だ。フリスト村に入った瞬間に村の人たちも数人寄ってきた。というか、なんでそんなに俺の事覚えてるんだよ……。
俺は村長に会いに行った。
「というか、僕が転移してから他に転移者はいなかったんですか?」
「いたぞ、数人な」
単刀直入に村長に聞いたが、俺意外にも転移者は他にいたらしい。ならなんで俺の事をこんなに気に掛けるのだろうか。俺が来る前だって転移者なんて山のようにいただろうに……。この村は謎が多い。ただ単に人が良すぎて覚えてるだけだともいえるが……。
「ほんで、今のランクはいくつなんじゃ?」
「はい!」
俺は自信満々にパスカードを村長に見せた。
「ゲッ! Eクラスでランク67852位! とんだバケモンじゃのお」
「あはは」
俺は頭を掻きながらぽかんとした表情を見せていたが、内心すごくうれしい。
フロリスも、目が飛び出そうなほど驚いているのが見て取れる。
「わしもいろんな人を見てきたが、Aクラスでもこんな急成長する人早々おらんぞ。というより、Aクラスの人すらいないんじゃがの」
「そうなんですか……」
「そういえば、サクトの後くらいだったんじゃが。転移した瞬間に【ハイハイパー】っちゅうスキルを使えたやつもおったのお。その女は多分Aクラスなんなんじゃろうな」
「【ハイハイパー】って……」
間違いない。【ハイハイパー】を使う女。チェルシーだ。そういえばチェルシーは4歳から剣の練習をしてきたって言っていたが……。チェルシーが元居た世界は剣をよく使うような世界だったっていう解釈でいいんだよな。
「そういえば、あんたがフリスト村に向かうときに、物凄いスピードで走ってきてたけど、あれも相当な俊敏性強化すきるだな? オリジナルだろ?」
「えっと……あれは……オリジナルっていうか……【ハイハイパー】です……」
村長とフロリスは嘘つきを見る目で俺を凝視してくる。
「いや、ほんとですよ! 一応」
「【ハイハイパー】!」
俺は体を光らせる。それでちゃんと理解してくれたのか、村長とフロリスは、驚きの表情を浮かべている。
「う、嘘じゃろ……」
「まあ、自分でもびっくりなんですけど……」
「チェルシーと関わっていたのはある程度予想しておったが、それをコピーしているとは……半年しかたっておらんのに……」
「実際には、見たままをその場でやってみたら出来たって感じだったんですけど」
「こりゃたまげたたまげた。フォッフォッフォ」
驚くのも無理はない。実際俺自体も、未だに信じがたい。
「そういえば聞きたかったんですけど、喫軌ってなんで強さこそが全てになってるんですか?」
「んー。そうじゃのぉ。その事実を知るには甕になるのが一番手っ取り早いとは思うが……」
「やっぱそうですよね……」
「じゃが、わしが知ってる範囲なら喫軌の歴史を伝えるぞ」
「あ、じゃあお願いします!」
「喫軌は今からおよそ300年前から存在する。まあ言ってもその時代は、今みたいに強さと権力が比例するほど強さ主義でもなかったんじゃ。今みたいに完全に強さ主義になったのは今から30年前くらいでのぉ……」
思ってたよりも歴史が長いことに俺は驚く。そして、何故30年前に完全強さ主義に移行されたのだろうか。ますます謎が深まる。
「魔軍って言うのはしっとるか?」
「はい。聞いたことはあります」
「魔軍っていうのは、喫軌に対抗する組織の事を言う。これまた魔軍っていうのは面倒でのう。どれだけの数が在籍しているかもわからん。魔軍が出来たのも案外最近なんじゃよ。魔軍がハーリーアーサ―を操っていると聞いたりもする。その魔軍に対抗するために喫軌が作られたっちゅう噂も上がっておる」
「なるほど」
それなら筋が通る気がする。もともとの喫軌は普通だったが、喫軌を敵対する組織、魔軍が出たことによって、ハーリーアーサ―が出現。ハーリーアーサ―や魔軍を退治するために強さ主義にして喫軌全体の総力を上げる。
「じゃが、『自分が見た事実を一番大切にする』これを肝に銘じておくんだな。わしが言えるのはここまでじゃ」
この言葉をこんなにも印象付けてくる理由は分からない。だが、今後重要な言葉に繋がるような気がする。
それにしても、この世界の謎が増えた。というより、フリスト村は何者なんだろうか。村長のは最後こう言った。『わしが言えるのはここまでじゃ』つまり、もっと知っていると捉えられる。
だが、フリスト村の詮索はするなと忠告されている。悪い人たちだとも思えないし、そこまで危険はないと信じたいが、やはり気になってしまう。
こうして俺は、オカランドに帰った。
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