第17話 中位生の差
喫軌内でとある噂が持ち上がっていた。
「サクト、ハーリーアーサ―の話は聞いたか?」
「まあ一応な」
一か月後、ハーリーアーサ―の群れが喫軌に押し寄せてくる。準と正。どちらも混合している。それに対策すべく、喫軌は活発化していた。あまりいい話ではない。押し寄せてくるハーリーアーサ―の数の予想は10000。ハーリーアーサー。いわば魔軍vs喫軌。喫軌内では不安の声も上がっており、何とも言えない空気感に包まれていた。
ハーリーアーサ―と戦ったことのある俺だからこそ分かる。10000も迫ってきたら……。
下手したら喫軌が滅亡する。
それらを『魔凶の日』と人々は呼ぶ。
「ついに……魔凶の日が来てしまうんだなー……」
「そんなに前から言われていたことなのか?」
「何言ってるんだサクト! 1年以上前からずっと恐れられてきたことだよ!」
「……」
一年前と言っても、俺がこの世界に来たのは半年前だ。初めてオカランドに足を踏み入れた時に感じた奇妙な雰囲気はそのせいなのだろうか。
「政府たちは今、魔凶の日に対抗するべき陣営を固めようとしてる。それに俺らも参加するんだ!」
「いや、あんな敵。無理だよ! 俺より強い人たちなんていっぱいいるだろ? ほら、甕とかさ!」
「残念ながら、甕は魔凶の日に参加はできない」
「なんでだよ!」
「分からない。でも、何か理由があるんだろう」
喫軌の中で最強の8人組がいないだけで、かなりの損失になるのは予想できる。ならば少しの戦力なるためにも、俺は参加するべきなのか……。
「それに、参加するだけで報酬はかなりあるし、ランクだって場合によっちゃ上がるかも!」
そうはいっても、俺が足手まといになるのは目に見えている。でも……。
「よし。参加しよう!」
俺は何かを吹っ切り、参加することに決めた。俺がいるかいないかなんて、正直どうでも良いかもしれないが、何事も経験だというし、他のみんなが頑張っている中、自分だけ楽しようなんて思いたくもない。事実、ハーリーアーサ―と戦ったこともあるから、少しくらい貢献できる気もするし。
「じゃあさっそく詳細を見に、掲示板に行こうか」
「掲示板って……つまりこれは緊急依頼?」
「依頼っていう点では同じだけど、少し違うかな」
まあ緊急依頼かそうでないかなんて正直どうでも良い。
俺たちは喫軌前の掲示板を見つめる。
◇◆◇「魔凶の日」魔凶組募集◇◆◇
報酬:参加のみで100000ゴールド
条件:中位生から
受付:喫軌本部中央の受付
詳細:討伐した数に応じてランクアップや報酬追加の可能性あり
緊急依頼とは比べ物にならないくらい大きく記載をされていた。参加のみでという事は、その場にいて逃げ回っているだけでももらえるという事だろう。でもこの書き方を見ればよく分かる。俺が思っているよりも、悲惨で、恐ろしいものなのだと。
それよりも――。
「条件中位生……」
中位生とは、ランク50000位からの事をいう。俺のランクはまだ60000位台。早々にランクを上げる必要がありそうだ。
「ハーリーアーサ―と戦うから、ハーリーアーサ―に対抗するための練習の時間も欲しいんだよなぁ」
そうクリスが呟くと、指を折り、何かを数え始めた。
「出来れば今日、明日までに中位生までいけないかな?」
「やってみる」
今ここで否定しても何も起きない。ここで大事なのはやろうとする意思だ。
「よし、早速ランクを上げるぞ!」
「おー!」
と、威勢を張ったはいいものの……。
ランク50000位に近づいていくにつれて……。
「こんな時期に戦えるわけねえだろ!」
戦いを断られることが増えてきた。無理はない。こんな時期に下手にランク戦をして怪我なんてしたら、いざとなった時に逃げたり出来ない。戦わないとお金を稼げないという事実に変わりはないが、寮が用意されていることもあって、一か月くらい働かなくても生きていける。なんて裕福な世界なんだ……。
じゃなくて、これじゃあランクを上げようにも上げられない。少し上がって今のランクは54023位。どうするべきなのか……。
「一度、このランクでも受けられないか、本部に直接言ってみない?」
「まあ、そうだな」
喫軌本部中央とは、喫軌を入って真っすぐのところにある、教会のような場所だ。クリスは、受付のおじちゃんに話をする。
「すいません。魔凶の日の事なんですけど……」
「魔凶組に入るってことでいいのか?」
「そのことなんですけど、中位生じゃなくても大丈夫ですかね」
「んー。そうだなぁ一応条件として中位生と表しているだけだしなあ」
「じゃあいいってことですか!」
「いや。でも流石に中位生にもなってない人に協力を求めるようなことは出来ん。ランク戦をしにくい状況なのは分かるが、飲み込んでくれ」
「でもですね、彼は正ハーリーアーサ―と戦ったことがあります」
そう。この事実が一番強い。未知の敵と、一度戦ったことのある敵では、まるで違う。まあ二人で倒したという事はとりあえず伏せておこう。
「なんと! そのランクでか!」
「そうです。運営にもしっかり話が回っていると思いますので、確認していただいたら事実と分かると思います」
「本当かね! 最近の中位生や上位生はハーリーアーサ―と戦ったことがない人が多かったんだ! 正ならまだしも、準もないという人もちらほらいる」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
「んー。まあしょうがねえなぁ。確かにハーリーアーサーと戦ったことのある人材は大きい。承諾する。あと、危険なのに変わりはない。十分注意してくれよ」
正直そんな簡単に決めていいのかよとも思ったが、まあいい。それと、最後の一言にもの凄く重みを感じる。
「いやー。そのランクで正なんてねえ」
そうぶつぶつ呟きながら、俺のパスカードにバーコードリーダーのようなものを当てる。
「一つお聞きしたいんですが、ちなみに今魔凶組って何人なんですか?」
「……悪いが話せん」
理由はよく分からないが、確かに話すメリットなんて無いし、話す必要もないから無理もない。
俺はパスカードを受け取って、喫軌を出た。
「いやーひとまずこれで安心かなあ」
そう俺は呟くと、クリスがニヤリとした。
「残念だがサクト。言っただろ? 今から一か月間。みっちりハーリーアーサ―と十分に戦えるように修行をする」
クリスは真剣な眼差しで俺を見つめる。
「……それは分かったんだが……どうやって修行するんだ? ハーリーアーサ―なんて早々いないだろ?」
「へっへ。俺は顔が広いんでな。ハーリーアーサ―をかなりの数戦っている人に頼んだ。お前も見たことがあると思うぞ」
「俺が見たことある人? 誰だ?」
俺は記憶の中から、ハーリーアーサ―と戦えるような強い人を詮索する。強い人となると……。
少しの沈黙があった後、クリスはこう言った。
「そう。ピノだ」
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