第13話 強さの行方
待機所。その中は、厳つい男たちが集まっていた。中はあまり広くはない。でも決して狭いとも言い切れない。なんとも言えない絶妙な大きさの待機所であった。人数は30人ってところだ。大会はトーナメント制が採用されているため、4,5回ほど勝てば優勝だろう。
その男たちの中で、見覚えのある男が一人いた。
「おっ、サクト……だったよな」
そう。俺がランクに入って一番最初に戦った相手。
ポンドであった。武器は大剣。ちなみに俺に【ガードブロック】を使ってくれた人だ。
「久しぶりだな、お前も大会に参加するのか」
「そうだぜ。俺、ランク80502位まで上げたんだぜ?」
「俺のランクは68091位だぞ」
「なん……だと……」
ポンドは悔しそうにしているが、無理はないだろう。80502位だってかなり高い順位だ。自信があって当然。だからこそ悔しさも増す。
「……大会では、絶対負けないからな!」
「ああ」
そういってポンドは隅へ歩いて行った。気恥ずかしそうに下に俯いている。
完全に一人きりだと思っていたが、一応知り合いが一人いることによって、少し安心感が湧き、緊張感も減った気がする。
そういえばチェルシーはいないのか……
数十分後、アナウンスがなった。
「シリウスさん、オーケストさん。会場へどうぞ」
アナウンスが鳴り響き、待機場の中で二人の男が動き出した。
闘技場の中へ続く扉が開かれ、観客の歓声がうすうす聞こえる。以前言った、三桁大会に比べればかなり少ないが、それなりに集まっている。
扉が閉まると、闘技場の中の音は全く聞こえなくなった。つまりどのような戦いをするか偵察することは不可能というわけだ。
10分ほど帰ってきた後、帰ってきたのは一人だけだった。負けた人は即退場という訳だろう。
続いて休む暇なくアナウンスが掛かる。
「ポンドさん、アルターさん。会場へどうぞ」
「おっ、俺の番だな」
そう呟き、ポンドは闘技場の中へ進んでいった。
またまた数分後、闘技場へ繋ぐ扉が開かれる。
出てきたのはポンドだった。
「勝ったのか。おめでとう」
「あんな雑魚雑魚、楽勝楽勝」
「お前も負けるなよ!」
「もちろん」
そしてその後、試合が進んでいき――。
「サクトさん、コーキさん。会場へどうぞ」
とうとう俺の出番が来た。
俺はすぐさま闘技場の中へ入っていく。
扉を開け、あたりを見渡すとポツポツと観客が見受けられた。ぎゅうぎゅうにいるわけでは無いが、思っていたよりは観客が多い。
俺とコーキは闘技場の真ん中に立った。
コーキの武器は……素手だった。
素手との戦いは初めてだ。といってもまあハーリーアーサ―とは戦ったのだが。あれは素手という事でいいのか……
俺は剣を前に構え、コーキは格闘家のように構える。会場もやけに緊張感に包まれていた。
スクリーンにはサクトvsコーキの文字。コーキのランクは80112位。俺の格下だ。相手はランク戦をする気は無さそうだ。
ゴングとともに、俺は動き出す。
「【ハイハイパー】」
俺は赤色に光る。
それに対抗するように相手も言った。
「【精神・乱央】」
相手は一瞬金色にピカッと光りだしたが、すぐさま消える。だが相手の目は赤くなり、一瞬にして突っかかってくる。だが、【ハイハイパー】の速さを甘く見てはいけないと言わんばかりのスピードで対抗する。
相手はがむしゃらに拳を突き出してくる。相手は考えを放棄している模様。しかもスピードもこちらの方が上。一瞬の隙をついて首に剣をぶっ刺す。
剣はコーキの首を貫いた。
やはり人を刺すのは気持ちいとは言えないな。というより気持ち悪い。
会場は少し盛り上がっていた。
コーキは直ぐに立ち上がったが、こちらに見向きもせずに立ち去った。
スクリーンには『サクトwin』の文字。
そして俺は待機所へと戻っていった。
「お、勝ったか」
「まあな」
待機所に帰った途端に、ポンドが話しかけてきた。
そして大会は着々と進んでいき、俺は準決勝戦まで上り詰めた。
もちろんポンドも準決勝に進出した。
「サクトさん、リリックさん。会場へどうぞ」
「やっと準決勝戦だな。ここまで来たら絶対に決勝まで来いよ」
「お前もな」
俺は、何度も同じように闘技場の中へ進んでいった。会場も一回戦と比べると、盛り上がりは増しているように感じる。
相手のランクは58012位。俺の格上。もちろんランク戦をする気はない。
相手の武器は剣。俺と同じくらいの大きさの剣だ。リリック含め、剣を使っている相手は多かった。だが、一戦目のように素手で戦ってくる人もいる。その理由とはなんだろう。まあ売る目的とかそんなもんだろう。
リリックは俺とほぼ同じような構えをした。
ゴングが再び鳴り響く。
「【デス・バデット】」
俺は、俺が出せる最高速の速さで攻撃を繰り出した。だが、それをリリックは剣ではじき返してくる。
「バカな……」
俺は初めて【デス・バデット】を止められた気がする。はじき返された俺はすかさず発動させる。
「【ハイハイパー】」
俺は体を赤く光らせる。
「【スピアキャロッシュ】」
コーキは俺がスキルを発動させる一瞬の隙をついて、足を一歩思いっきり踏み出して、腕を伸ばし、剣を突き刺してくる。ギリギリ発動した【ハイハイパー】のお陰で、右に素早くよける。
コーキはハッと驚いた表情を見せ、後ろにバックステップで俺と距離を取った。
コーキは俺を睨みつけ、もう一度発動してくる。
「【スピアキャロッシュ】」
確実にさっきよりも速いスピードでついてくる。
「【ガードブロック】!」
俺は【ハイハイパー】で避けきれないと判断し、【ガードブロック】でギリギリ受けることに成功した。【ガードブロック】はオリジナルではない。だから弱いのは確か。でも、【スピアキャロッシュ】は威力というより早さ。【デス・バデット】のようなものだ。吹っ飛ばされはしたが、ダメージはそこまででもない。
俺は直ぐに立ち上がる。
俺は剣を投げ捨てる。会場が一気に静かになった。
「【ハーリー・ブラット】」
俺は一瞬にしてリリックに近づき、右手を振りかぶる。相手は完全に動揺していたが、しっかり剣の刃を拳に当てようとしてくる。
「やばいっ!」
剣の刃に拳をぶち当てるなんて馬鹿な話だ。俺は引き返そうと急ブレーキをかけるが、体は反応してくれない。
どうすることもできず、俺は思いっきり剣に向かって殴りこんだ。
「何っ――!」
俺の拳は真っ二つに――。ではなく、剣が真っ二つになってしまった。
そのままリリックの顔を拳が捉えて、リリックを吹っ飛ばした。
会場の盛り上がりは一気に上がる。剣ではなく、拳が勝った……。自分でもいまいち理解できない。
「こんなこと……あり得るんだな……」
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