第7話 依頼
俺は、ゴールドマンモスに気づかれないように、背後から剣を足に刺した。
一瞬ゴールドマンモスの体が左右にぐらっと揺れた。だが、倒れることはなかった。
マンモスは直ぐにこちらを見て、大きな体で突進してきた。【ハイハイパー】のおかげで何とか避けることはできたが、大きさに比例しないくらい俊敏な動きに、少し焦りを感じる。突進した体を直ぐに立て直し続けて突進してくる。それをさっきの同じ要領でかわし、横から剣を突き刺す。剣はマンモスをしっかりと貫いた。
「よし……」
小さく声に出して呟いた。
「っ! 危ない!」
横から大きな体が倒れてきた。
クリスのその声で、俺はとっさにこう言う。
「【ガードブロック】!」
足を踏ん張り、一時的にガードを張った。対して強くはないが、このくらいの衝撃なら防げる。そう、さっき戦ったポンドが使っていた技だ。ガードブロックによってはじかれたマンモスは、倒れる方向が変わって、反対方向に大きな音を立てて、その後は動かなくなった。
「あっぶな!」
そういう俺に対して、クリスが駆け寄る。
「あ、危なかったぁ。まさかこっちに倒れてくるとは……」
「大きいと倒した後も油断しちゃだめだね……っていうか! さっき見た技を瞬時にコピーするなんて……オリジナルでないとはいえ、習得スピードが早すぎるよ」
「正直さっきのは自分でも実感がなかったです……誰かがピンチになった時を瞬時に思い出して、その真似をしたって感じです。それがたったさっきの【ガードブロック】だって感じですかね……」
「はあ……」
呆れた声でクリスは苦笑いをした。
「まあ、取り合えず、本部にもどろうか……」
俺たちは直ぐに本部に向かう。
「ま、まさか、本当にゴールドマンモスを討伐してくるなんて……Eクラスも伊達じゃないな」
俺は再びパスカードを受付のおじさんに渡した。
「はい、これで依頼完了。報酬の50000ゴールドだよ」
「ありがとうございます」
俺は喫軌本部を出た。
「よし、これでランク上げれるところまで上げていこうか」
「了解です」
「GPS機能は聞いてるよね?」
「はい、何となくですけど……」
「じゃあ、オンにしてみてよ」
「はい」
パスカードには、周囲の地図が表示された。中には、たくさんのランク加入者がGPS機能をオンにしていて、かなりの数が表示されていた。表示されているランクは、大体100000位くらいまでで、高ランクの人はそこまでいなかった。きっとこの辺は、低ランクのたまり場なんだろう。
「あれ、なんでこんな高い人が……」
6桁のランクが集まっている中、突如浮き出たランク7250の文字。
「おかしい、こんなところになんで……」
異変に気付いた俺たちは、すぐにその場所へ向かった。
「おい! ぶつかっといて詫びもなしかよ!」
「すいません……」
街中で騒ぎが起きていた。
「てめえランク俺より低いんだからさー。もっと敬意をしめせよー」
「いや、でも、僕お金とか……。」
「ちょっと待ってくださいよ。この人も悪気があってぶつかったわけでもないですし……。」
思わず俺は口をはさんでしまった。
「うるせえなあ、ランクが上なんだから文句ねえだろ。お前のランクも俺より断然下じゃねえかよ!」
そう。この男のランクは7250位。この辺の人たちが太刀打ちできるわけがない。もちろん俺も一緒だ。だから見守ることしかできない。
あまりにも酷い仕打ちを見ても、何もできない俺が情けない。
「……残念だけど、ここは一旦引こうよ」
「いや、でも……」
自分の中で何か出来ることはないか頭の中で構想を繰り広げていた。そこに、一つの案が浮かんだ。
「じゃあ、俺と戦ってください」
「はあ? 100000位すら言ってないお前が、俺に勝とうなんて馬鹿じゃねえの? 受けるわけねだろ」
「怖いんですか?」
「何だとてめえ。調子こいてんじゃねえよ! 怖いわけねえだろ!」
「じゃあ、俺と戦ってくださいよ」
「ちっ。うるせえやつ。なら有り金全部でやってやんよ」
「有り金全部って……」
「文句言ってんじゃねえよ!」
「……」
俺から誘っておいて断ることもできず、俺は50000ゴールドを提示した。
そしてその後、パスカードを交換する。
男の名前はリョーク。しっかり覚えた。クラスはBクラスだ。
「ふっ、ふははははは! Eクラスかよ! 笑わせるな! Eクラス無勢がこの態度とか!」
言い返せない俺がなんとも情けない。
リョークはパスカードを投げ返してきた。
「ほら、お前が先来ていいぞ」
するとリョークは、俺の剣の2倍くらい小さな剣を腰から取り出し、忍者のように構えた。俺もすかさず、剣を構えようとした。
「【デス・バデット】」
リョークはそう言った途端、瞬間移動したくらい速い動きで、俺の胸に突き刺す。
「ひ、卑怯な……」
【ハイハイパー】を使ってない俺は無力に近い。痛すぎて声すら出ない俺は、スキルを発動できない。俺はその一撃で、倒れこんだ。
「ふっ。その剣には毒が塗ってあるんだよ」
苦笑しながらそう言った。そして痛がる俺の顔面を踏みつけた。
「無様だ。無様。」
「おい! そのままだと死ぬぞ!」
「うるせえよ。こういうガキにはこのくらいがちょうどいいんだよ!」
意識が朦朧としている中、必死に抗議しているクリスの声が聞こえる――。
「や……ばい……死……ぬ……」
人生で初めて死を感じた。人ってこんな感じで死んでいくんだと実感した。
「うっ――!」
一瞬何が起きたのか分からなかった。だが、俺の目の前には、一本の矢が突き刺さったリョークが蹲まっていた。
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