第5話 謎の男の謎

「あの、誰ですか?」

「僕の名前はクリスだよ。君、Eクラスなんだよね?」

「そうですけど……」

「僕にサクト君のお手伝いをさせてもらえないかな?」

「お手伝い?」

「ランクアップの秘訣や、戦い方など、いろいろ教えて上げれるよ?」

「ま、まあ。いいですけど……」


 いかにも怪しげな男だ。実際承認したくない。けども、正直助かるし、ありがたい。俺に何も要求してこないあたり、損は無さそう。それにしても、なんでEクラスの俺なんだろう。


「ひとまず武器、はい」

「え、いいんですか?」


 クリスは、俺に剣をくれた。大きさは、少し小さめの剣で、誰かが使った跡がある。


「僕が昔使ってたやつだけど……」

「あ、ありがとうございます!」


 俺が今一番必要としているのは武器だ。素手で戦えるわけもなく、剣を買うお金もない。素直に受け取る。


「あ、そういえば、お金ってどうやって稼ぐんですか?」

「お金を稼ぐには、もう少しランクを上げないといけないかな」

「やっぱりランク上げは必要なんですねー」

「もちろんだよ。ランクが低すぎると、誰も対戦してくれないからね」

「もしかして、誰かと戦うのにお金が必要ですか?」

「んーまあ、そのお金を渡すかどうかは別として、提示するためには必要だね」

「どういうことですか?」


 いまいち理解に苦しむ。


「えっとね。この世界は、誰かに勝負を申し込むとき、相手の人が満足する額を提示するんだ。負けたらその額を払わないといけないんだけど、勝てば払わずにランクがその人と入れ替わる。つまり、相手が納得すれば、100000位から1位に行くことだって可能だってこと」

「なるほど。それで稼いでいくわけですね……」

「そうだ」

「基本的に、いくらくらい提示すれば戦いできますかね?」

「そうだね……。10000ゴールドくらいあればほぼ確実にやってもらえるよ」

「結構な額ですね」


 俺は初めてこの世界の仕組みを理解した気がした。

 でも俺は今、1ゴールドすら持っていない。


「あ、あと、魔物や魔法的な何かはあるんですかね?」

「もちろん。この世界には魔力が存在してだな。魔力の使い方は二つ。一つは、魔術、一つは魔法だ。魔術は魔力を使って何かを作る。その何かで攻撃するのが魔術。魔法は簡単に言うと、魔力で攻撃するのが魔法だ。魔法はダイレクトに使わないといけない分、難易度は高い。魔物はたくさんいるけど、その中でもハーリーアーサ―っていう部類にはいる魔物はかなり強敵だよ」

「なるほど……」


「えっと、ひとまず依頼を受けようか」

「ほう」

「依頼っていうのは、誰かの頼みごとを解決すると報酬として色々もらったりするんだけど、手っ取り早く済ませるために、緊急依頼っていうのを受けたいんだけど……今はないみたいだね」

「そうですか……」

「まあでも、ひとまずサクトの強さじゃボコボコにされたりするのが落ちだろうから、まずは練習からかな」

「ちなみにクリスさんは、ランクに入ってたりするんですか?」

「あー、昔は入ってたんだけどねー。もうやめちゃった」


 ランクに入っていないのに、生活できている時点で、かなりのランクまで行っているんだろう。クリスのように、途中でランクを抜ける人がいるため、初期ランクという形で場所を埋めているんだろう。


 俺たちは、喫軌裏の広場に向かった。


「よーし。まずはスキルか技を覚えたいね」

「スキルなら、前一応使えたんですけど……」

「ほう」

「はい、チェルシーっていう人の【ハイハイパー】っていうのを真似したら――」

「つまり、一瞬にしてコピーしたっていうのか?」

「まあ、そうなりますね……」

「こりゃほんとにたまげたな」


 クリスは少し笑いながら頭をかいた。

 俺は、一応クリスに【ハイハイパー】を見せた。


「いやー。まさかこんなにも完璧にできるとは……」


 完璧に出来るという事は、クリスもチェルシーの【ハイハイパー】を見たことがあるというのか。


「まあサクトにコピーする能力が高いとして、技やスキル無しでも戦えるまでにはならないといけないがな」

「はい……」


 そう。俺はたとえ技やスキルのコピーが出来たとしても、通常の状態ではただの雑魚だ。


「とは言ったものの、最初の方の戦いは技やスキルが一番重要なんだよなあ。技と技がぶつかり合って、どっちの方が上か。同じ武器同士ならなおさら、どっちが強い技やスキルを持っているかによって決まる。まあ上位のランクになるにつれて、二つ以上オリジナル技やスキルを持っている人がたくさんいるんだけど……サクトのランクじゃ、正直その【ハイハイパー】だけで何とかやっていけるよ。スキルを持っている時点で勝ち」


 確かに【ハイハイパー】は強い。それは使ったことのある俺が一番わかる。だが、【ハイハイパー】は自分の素早さが上がるだけだろう。剣を使えばどうなるのかは分からないけど、ダンクが言っていたように、素手で戦う人もいる。となると、剣を素手で受ける人もいるのかもしれない。そう思うと少し心配になる。


「あの……剣を腕とかで止める人っているんですかね」

「うん」

「うん?」

「いるよ。普通に」

「えぇえ……」

「まあでもこの辺にはいないだろうね」

「そうですか……」


 この辺にいるかどうかは良いとして、いるという事実に衝撃を受ける。クリスがこんなにも軽く言っているという事は、案外たくさんいるのかもしれない。


「ひとまず、剣の使い方を教えるよ」

「お願いします!」





 俺は一通りクリスに剣の術を教えてもらった。クリスは俺の何十倍の強かった。




「流石、覚えるのが早いよ!」

「ありがとうございます!」


 まあこれも、毎日姉の真似をし続けていた影響だろう。


「これなら緊急依頼も楽々だね……って! 緊急依頼来てる!」

「まじですか!」


 クリスはパスカードのようなものを取り出して言った。だが、パスカードではないことは確かだ。


 俺は喫軌本部の前にある掲示板を見に行った。




 ◇◆◇緊急依頼◇◆◇


 内容:ゴールドマンモス討伐

 場所:マゼラ森林

 報酬:50000ゴールド

 受付:喫軌本部内のリリクス

 条件:なし

 補足:入門用の緊急依頼となっています



「ゴールドマンモスって、強いですかね……」

「強いか弱いかで言うと、弱いけど、すごく大きいよ!」

「大きい……」

「まあ、今のサクトなら楽勝かな」


 大きいという点は気になるが、一応クリスの言葉を信じて緊急依頼を受けることにした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る